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52通目 シーバスレリアからエコールへ

シュトラスレートル城の書架室より

我が友エコールへ


 前略 というわけで、失恋というのは派手にしておくべきだ、というのが僕の持論だ。リネッテ姫が、中庭での『五回のキス』でとうとう陥落したのを、君も見ただろう?


 僕は永遠なんてものを信じはしないはずなのに、彼らの愛情に関しては別だ、という結論を出すことにしたよ。嬉しいほどに完敗だ。


 何でこんなに嬉しいのかわからない。本当はもっと失恋とは苦しいものだと思っていたのにね。


 そしてもう一つ、それこそは、あの場にいた誰もが、人間族とゴブリン族との婚姻の成功を疑うことはなくなったということさ。


 なんとも晴れがましく、どこか誇らしい気持ちと、ほんの少しの寂しさがあるのは否めない。


 けれど今宵は舞踏会。兄のフィロストレリアがたっぷりと良いお酒を持参してくれるだろう。


 多分僕が何もしなくても面白い何かが見られる予感がするし、仮にも僕も『弟』の一人。堂々と一人で会場入りするよ。報告を楽しみに待っていてくれると嬉しい限り。


 舞踏会で踊る相手がいないことを、人間族の間では『壁の花』って言うらしいね。なんとも洒落た表現だ。立派に壁を彩らないとね。


 何でこんな時に、君に手紙を書こうと思ったのか、自分でも不思議でたまらない。この書架室に、自由に使って良いペンと紙があったからに他ならない、とは思うんだけども。


 そしてこれからどうしたものかな、と、書架室の椅子に腰掛けて、ぼんやりこうして考えている。


 君の手伝いでドラゴン便で大陸中を飛び回るのもいいし、ビーゼン老と一緒にドワーフ族の生き残りを探す旅に出てもいい。


 たまに、『鷲の大崖』(あの巨大な首なしトロルと、小トロル達をたっぷりと土の中に埋めることになったので、流石のゴブリン族の皆も平原への引っ越しを検討しているらしい)代わりの新しいどこかの復興を手伝ったり、『木叢の館』や『常冬の宮殿』に、適当な時期にご機嫌伺いするのもいい。


 ひとところに留まらない、誰よりも自由な生き方には孤独が伴うものだ。僕は誰よりも、それを知っていたはずなのにね。


 ボトム王やリネッテ姫は、何か肝心なものを僕から持っていって、その代わりに、何か別のものを僕の心の中に置いていったのだと思う。


 それが何なのかは、わからないのだけど、暖かくて、捨てがたくて、少しばかりの切なさがある、何かだ。


 とても嬉しいのに、嬉しさだけでは溶かせない一粒の種を僕は飲み込んでしまったんだよ。苦しくはないのに、胸の奥で静かに、そして多分永遠に残り続ける、そういう種だ。もしかすると、愛というのはきっとこういうものなのかもしれないって思う。


 僕のような薄情な奴でも、そういう種を心に眠らせておけるっていうのはいいね。悪くない。


 色々なものを、大事なものや、素敵なことを、心に抱えて生きるのも、実は一人で自由に生きることと同じくらい、結構楽しいものなのかもしれない。


 あの二人は、それを僕に教えてくれた。感謝しているんだ。


 ああ、舞踏会での『壁の花』の任務が終わり次第、中庭で盛大に飲み明かしたい。皆と一緒に待ってておくれよ。


長きにわたる君の友

シーバスレリア

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