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48通目 ゴブリン王ボトムの手紙

ドラゴン族アルベリッヒ王、

並びにエルフ族の長フィロストレリア・エルフェンノルン殿

両名へ


 粛啓 我が所領で起きたこと故、我が兄上達のいさおしを後世に記録し残すためにも、こうしてペンを取った次第である。


 『木叢の館』、そして『常冬の宮殿』からの援軍に、心から感謝を。


 馬で駆けてきたエルフ族の皆が、我ら『鷲の大崖』に最後まで残っていた郎党三十名余りを、馬の前方に素早く引き上げてくれたおかげで、小トロル共の餌食になるのを免れた。


 我らが馬上から石で目を狙うのも容易くなったのは言うまでもなく、目を潰してから首を狙う、というその場の連携で、残っていた小トロル共の掃討に成功した次第。


 ほぼ同時に、崖を突き破った大トロルが突進してくるのを、その華麗な馬術で避けて、先に大トロル討伐に向かったフィロストレリア殿を含めた七名を救出せんと、剣を弓に持ち替え、一斉に矢を放つ姿は圧巻であった。


 大トロルの脚に刺さった百本近い矢と、その激痛による咆哮。同時に空が割れて、ドラゴンの軍勢が舞い降りてくる。


 そして、一際大きく、蒼く輝くドラゴンが、一気に真っ青な吹雪を口から吐き出して、大トロルの脚と地面一帯を一挙に凍らせた。アルベリッヒ王である。


 崖を突き破ったものの、足を凍らされて、再び大トロルの動きが止まる。


「無事であったか、フィロストレリア」


「まだ生きていますよ、我が兄上!」


 大トロルの頭頂部や肩に、剣や鎖を打ち込んで張り付いていた七人を、早急に助けに向かうべく、王の引き連れてきたドラゴン達が飛ぶ。


 そして、一人一人をそれぞれ確保して後、トロルの顔や首に幾つもの深々とした刺し傷や切り傷があるのを見たアルベリッヒ王が言う。


「エルフ族の勇士達よ、誠に大義であった。後は朕らに任せるが良いぞ」


 アルベリッヒ王が、目を細めて言った。同事に、ドラゴン族の戦士達が一斉に、大トロルに向かって襲いかかる。脚や胴体、矢の刺さった腕にその鋭い牙を立てる者、眼や喉を狙い、熱い、または冷たい息を吹きかける者。大トロルの醜い悲鳴が再び上がる。


「それにしてもまさか双頭とはな………」


「全くですよ。首が太すぎて、切り落とせない」


 頭頂近くに刺された剣を見て、王が問う。


「ふむ、見覚えがあるな。朕の下賜したあの剣か。片目を潰したこの矢尻は、汝の弟に授けたあの弓らしい」


「シーバスレリアはよくやってくれましたよ。ボトム王も無事です」


 当のシーバスレリアもまた、どこからともなく運ばれてきた馬に、ビーゼン老と共に乗っている。


「さすがは我が弟達である」


「しかし、エルフは刺突は得意ですが、剣で斬り落とせるのは小トロル共までですね、悔しいことに」


「だが見事な一撃である。後はあれを抜いて、首を横から叩き落としてやろうぞ」


「了解です。やってやりましょう」


 大トロルが、エルフやドラゴン達を叩き落とそうと振り上げる太い腕に、今度は無数の矢が刺さる。


 弓を持たせたら右に出る者はいないであろう、その精度の高さに、我らゴブリン族一同が馬の上で歓声を上げる。


 頭部に深々と刺さった剣にロープを巻きつけて、それを更に自分の腕に巻いたフィロストレリア殿が声を上げた。


「近衛隊、離脱せよ!」


「朕が誇り高き護衛隊よ。この者らを乗せてここから離れよ! 残りは鎖で大トロルの顎を固定! 我ら兄弟で首を落とす!!」


 シーバスレリアが呟いた。


「………駄目だ。どんなに剣が強くとも、エルフ一人の力だけでは、多分あの大トロルの首は落とせない。ドラゴン一体でも、まだ足りない」


 ビーゼン老が馬から飛び降りる。


「ボトム王、交代じゃ! 交代じゃ! この馬に乗り、駆けて行け!!」


 あの美しい崖はもはや半壊し、見る影もない。


 地面も凍り付いているが、幸いなことに、全方位ではなかった。


「シーバスレリア!」


「了解!!」


 シーバスレリアの乗った馬が駆けてくる。我もまたその背に飛び乗って駆けだした。そして、馬の背の上に手綱を握りしめて、走る馬の上ですっくと立ったシーバスレリアが叫ぶ。


「勇気あるドラゴンよ!! 我ら『兄弟』もまた、加勢に向かわんとしている!! 誰か!! 誰かいないか!!」


 すると、エルフの近衛兵を後方に降ろしたドラゴンが一体、滑るように飛んでくる。我らは同時に、その背に飛び乗った。


「我らが兄上達の元まで! 真上までで良い!!」


「かしこまりました、王弟殿!!」


 まだ年若いドラゴンが、一直線に迷うことなくアルベリッヒ王の真上に飛んだ。


「飛び降りろ!」


「今だ!!」


 矢筒に残っていた矢を速射で、鎖でがっちりと固定されている大トロルの頭に叩き込みながらシーバスレリアが、アルベリッヒ王の背中へ飛び降りる。


 飛び降りながら剣に結ばれたロープを握りしめて、我は言った。


「いい結び方であるな」


「昔、まだ『内エルフ』になる前に、まだ健在だったドワーフ王に教わったのさ。敵討ちにはちょうどいいだろう」


「然り。我ら弟二人、こうして加勢に来た。この太い首、横に斬り落とすにはより強い力が要る」


「助かるよ。まずはロープを引いて、深く刺さった剣を抜こう。そのあと、首に真横に刺す。そのまま『一周』できれば僕らの勝ちだ」


「随分と豪勢な『首飾り』であるな。………ただ、いかなる剣も、『数人では』握れまい。我がこの両手で柄を握って決して離さぬ故、皆でその我の背を全力で押して欲しい」


 その場にいた全員が、我を見た。アルベリッヒ王が言う。


「成るほど、確かに理に適っている。だが、その細腕と身体で、我らの加重に耐えられるか?」


「耐えて見せようとも。元々この崖は父祖より受け継がれし、我らが故郷である。それをこの手で火をかけ、こうしてこやつを炙り出し、今、あと一歩のところまで来ておる。我がやらずして、誰がやるというのだ」


 アルベリッヒ王が呵々と笑う。


「良かろう! では最初の一刺しはこの朕が仕ろうぞ!!」


「わかった。じゃあ、行くよ!!」


 フィロストレリア殿が息を大きく吐いてから、ロープを力の限り引っ張った。頭に刺さった剣が抜け、凄まじい量の血が、雨と共に降り注ぐ。


 宙へと抜けた剣の柄をロープを手繰って咥えたアルベリッヒ王が、大トロルの首に、真横に深々と剛剣を突き刺した。


「掴め!!」


 縦と横から同時に吹き出す血が想像以上に凄まじい。鼻が捻じ曲がりそうな悪臭と、血で満ちた真っ赤な視界の中で、ようやく大トロルに刺さった剣を両の手で掴む。


「今だ、押せ!!」


 剣を握りしめた我の背中を、フィロストレリア殿とシーバスレリアが押す。


 深く刺さった剣が、大量の血を吹き出しながら、大トロルの首を斬っていく。後ろからの圧迫で、息も出来ない。


 だが、剣先が首の奥の急所に当たる不気味だが確かな感触。手に力を込めて、苦しい息の元で、叫ぶ。


「………これはドワーフの一族を弑い、我が故郷を蹂躙した罪である!!」


 剣先で、肉の奥で、何かが断ち切られる音。凄まじい大トロルの咆哮。


「回れ!!」


 血に塗れた手で、ひたすらに剣を握る。シーバスレリアとフィロストレリア殿が我の背中を押し、我ら三人を乗せたアルベリッヒ王が勢いよく、大トロルの首を『ひとまわり』した。


 体が腕ごとちぎれそうな、凄まじい加重。


 咆哮がぷつりと止み、斬れた首が、ゆっくりと地面へ向かって落ちていくのが、視界の隅に入り、地面にいるエルフ族、空を舞うドラゴン族の皆が一斉に歓声を上げた。


 息を吐こうとするが、それすらもできない。思わずその場に倒れ込む。


「ボトム王!!」


 シーバスレリアに抱き上げられ、揺さぶられて、ようやく、返事を返すことが出来た。


「……大事、ない、息が、ちょっとばかり、止まってな……」


 見ると全員が、大トロルの真っ赤な血で染まっている。


「まだあの小屋が無事ならいいが……崖の近くに、水車小屋と、小川がある」


「成るほど、この姿では妃の前には出れぬな」


「水車小屋の下流で、洗ってから、シュトラスレートル城へ………」


「わかった。後は任せて。君に何かあったら、リネッテ姫に永遠に顔向けできない。大トロルに潰された方が幾分かマシだ」


「そんな恋敵の減り方は…………心外である…………」


 我のその言葉に、アルベリッヒ王とフィロストレリア殿が顔を見合わせる。


「何と。かの小さき一輪の花には、二匹の蜂が止まっていたのか」


「良いことを聞いたよ。ベラに何て報告しようかな」


 シーバスレリアがお手上げだ、と言わんばかりに言う。


「…………兄上達は酒でも飲んでてください」


「何なら付き合ってやるけど?」


「一番良い酒を速やかに館から全部シュトラスレートル城へ運んでから言ってください。地下室に隠した分も、全部ですよ。一本残らずです」


 アルベリッヒ王が、呵々と笑いながら、まだ崩されていなかった小川の脇に降りた。


 先程の激闘が嘘のように、いつもと変わらず水車小屋が回り、粉を挽く音がする。


「ここは、無事だったか」


 無性に、白いいつものパンが恋しい。いつものように、『鷲の大崖』の一室で、妃と分け合って食べたい。リネッテは無事でいるだろうか、そんなことを考えながら水車小屋の回る、がたん、ごとん、という馴染みの音に耳を傾け、座り込む。


 そして何故か我はそのまま、気を失っていた。


 気が付くと、皆でアルベリッヒ王の背の上にいた。シュトラスレートル城へと向かう途中であり、雲の上は冴え冴えと晴れ渡っていた。


 一度脱がされた服は小川で血を落とし(服からは石鹸代わりのムクロジの実の香りがした)、濡れた服はドラゴン族の誰かが吐息で乾かしてくれたらしい。


 両掌の剣を握った跡は青黒く鬱血していたが、一族の誰かが打ち身に良く効く膏薬を持ってきてくれたという。ペンはかろうじて握れる状態である。


 そして兄上から、アンフィーサ義姉上が、美しく赤く、そして炎を吹くドラゴンにその身を変えて、リネッテを救いに行ったことを聞かされた。


 かくて、三種族によるトロルの討伐は実を結んだのである。


 これを以てして、この長き文にもまた一旦の終止符を打つことにするが、我ら三兄弟、否、四兄弟の誼はまだ長く続くであろうことを、明記する次第である。 頓首啓白


感謝と共に

ボトム・ゴブリンロード

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