31通目 アンフィーサからリネッテへ
『常冬の宮殿』より
わたくし達の可愛いリネッテへ
拝復 可愛い子、まだこんがらがっていて? わたくしもあなたに色々と相談したことがあったわね。日々が目まぐるしくて、もう何年も前のことのように感じます。
誰かを愛することが、もしもとても容易いことだったら、愛は宝石ではなくただの、どこにでもあるガラス玉になってしまうのかもしれません。
自分以外の誰かを、自分よりも好きになった時に、ガラス玉は宝石に変わるのです。
可愛い子、花冠の娘、心が波打ち揺れるのならば、その心はいつか燃えることができる証。揺れるからこそ燃えるの。誰かを『好きになる』のはきっとその一歩。
ねえ、リネッテ、愛は本当はもっと身近なものよ。だから、少しだけ肩の力を抜いてちょうだいな。
それに、『正直』なのは輪をかけて良いこと。嘘をついた瞬間、きっとあなたは、そう、あなたの心の輝きは曇ってしまうことでしょうから。
いつも彼の片時にいなさいね。迷うことなく。
あなたの抱えている問題はきっと、今ではなく、いつか解決する瞬間がくるはず。その『いつか』も遠くはないことでしょう。女の子は誰かを好きになることで、ひときわ美しく育っていくものだから。
彼もまた、『収穫の日』を夢見ているはず。わたくしは確信しています。
そして、今まだ収穫できない事情ないし心情もおありなのでしょう。
それは決してあなたのせいではないのです。ましてや、『政略結婚だから』なんてくだらない理由であるわけもありません。
あなた達が一緒に雪山からわたくしたちのために『満月草』を採ってきてくれたときからずっと、ええ、わたくしは確信しています。
そう、あの時、あなた達の間に結ばれていたロープが、何者でも断つことの出来ない絆のようなものに見えたのです。
けれど、生真面目で実直な、わたくしの勇気ある義弟であっても、(ここからは二人だけの秘密よ)男のヒトってみんな、全員、どこか不器用なのです。
どんなに威厳があっても、美男でも、手先が器用でも、男のヒトって何故かいつも何か変な掟を、自分の中に、自分勝手に課すせいで、何も知らない女の子達を苦しめるのです!(もっともわたくしはもう『女の子』といえる歳ではなくなってしまったのだけど)
さあ、だから元気を出して、可愛い子。平原に住まうわたくし達の愛しいお姫様。
『好き』は、とても大事なことです。もちろん『愛』も大事だけれど、しっかりと『好き』という肥料を撒いてこそ『愛』という美しい花は咲くのだから。
あなたがどんな花を咲かせるか、今から楽しみにしています。ゆっくり、しっかりと。焦ることはありません。またいつでも手紙を送ってきてちょうだいね。 敬具
可愛い妹が花開くのを心待ちにしながら
アンフィーサ・ドラコスリーベ




