03通目 ベラからリネッテへ
『木叢の館』より
私の花冠リネッテ・シュトラスレートル嬢へ
拝復 可愛い妹。早速のお手紙と、私の大切な蔵書を送ってくれて本当にありがとう。エルフ族の学者達が皆、人間の蔵書を見て大変興味深そうにしていたので、今までよりも広い図書室を館に作ろうという話が持ち上がっています。
そして私は今、エルフ語の書き取りの練習を繰り返しています。彼らの綴る文字は見目麗しく、まさにそれだけで魔法のようです。私が書くとまだ見劣りがしてしまいますもの。
そして、エルフ族にとっての夜の灯りは、この南の森にだけ住んでいる『夜光蝶』という星のように輝く夜行性の蝶達です。あの光り輝く婚礼衣装は、この蝶の鱗粉で染めたとのこと。エルフ族の身内の者だけに許されているそうです。
フィロストレリア様は夜もこうして書き物をする私のために、この夜光蝶を部下達に集めさせてくれています。甘い樹液を木に塗りつけるとのこと。
こうした知識は「外エルフ」達、館に住まわず、このレーデルランド大陸のあちらこちらで旅をして暮らすエルフ達がもたらしてくれるとか。
ちなみにフィロストレリア様のように館に住まうエルフ達は「内エルフ」と呼ばれるそうです。
お姉さまから素敵な贈り物を受け取ったそうね。では、私からも一冊の本をお贈りしましょう。緑の表紙のあまり大きくない本です。「外エルフ」達が旅のバイブルにしていて、かならず持ち歩く一冊です。
きちんと共通語で書かれていますが、巻末にはこの大陸の色んな種族の言葉についても記されています。いつか役に立つことでしょう。
この森には色々な花が咲き乱れています。幼い頃、私とお姉さまにあなたが編んでくれた花冠を懐かしく思いだしています。
エルフ族の粋を極めた金のティアラも、あの花冠にくらべたら見劣りがするというものです。
今でも花冠は編めて?
あなたが南の森に来たときにはまた編んで貰いましょう。エルフの女性達はびっくりすることでしょうね! ここの女性達は花を愛でるけれど、編むことはないのだから。
あなたをひとりだけ残して嫁いだことだけがとても心配。父上と母上は、残ったあなただけはせめて、と、どこかとても『普通のところ』に嫁がせようとすることでしょう。
けれど、私もアンフィーサお姉さまも、政略結婚とはいえしっかりと誇りを持って嫁いだの。だからあなたは自分の意思で、誇りを持って、誰かの元へ嫁ぐことを、おすすめすることにします。
私の可愛い妹。どうか忘れないで。あなたは、あなたの輝く場所を自分で見つけることが出来るお姫様なのだから。 かしこ
ベラ・エルフェンノルンより
追伸 部屋に残したあの箱の中身は全て燃やしてしまっても構いません。暖炉の焚き付けにでも使ってください。フィロストレリア様は素敵な方ですが、私宛に毎日大陸中の諸侯、つまりはアンフィーサお姉さまの言うところの『有象無象』から『ろくでもない』ラブレターが届いていたことは、知らなくて良いと判断しました。




