25通目 エルフ族長フィロストレリアからドラゴン王アルベリッヒへ
『木叢の館』より
親愛なる兄上アルベリッヒ殿へ
謹啓 森の木々や花々がどことなく浮かれていて雨期の近さを感じる今日この頃、兄上は如何お過ごしでしょうか。
なんでも我らが末弟とその可愛い妻が兄上の山で大冒険を成してきたとのこと。
『満月草』の伝承は元々エルフ族のみが知っていましたが(遥か昔、ドラゴン族のあの寒い山に挑んだ「外エルフ」がいた証です)広めると悪用されかねないとして秘せられたもの。
当時は今ほどに各種族に信頼関係がなかった証左でしょうか。
どうか我ら三兄弟および姉妹のみの『愛のみによって成り立つ』秘密ということにして頂ければと思います。
それはそれとして、義姉上はなんと幸せな女性になったことでしょうか。僕も、ヒトの姿になった兄上とは一晩くらい、良い酒を片手に語り明かしてみたいものです。
愛はどんな美酒よりも確かに心を潤します。深く深く酔いしれても、翌朝幸せな気持ちで目覚めることができるのは愛だけです(結婚してからは深酒をやめている僕が言うのだから間違いありません)
ゴブリン族に飲酒の習慣があまりないのは残念なことですが、平原で採れる果実からも、森の果実に負けず劣らず良い酒を醸造することができます。いつか機が熟したら、醸造を教えることにしようと妻とも相談しています。
その妻ですが、雨期が近いせいでしょうか、少し元気がないのが気にかかります。弟と妹を呼んで、楽しい話に興じれば、少しは気も晴れることでしょう。
今からあの二人の来訪を楽しみにしています。本人達の口から愉快な冒険話をたっぷり聞くのが一番だと判断しました。
雨期が来る前に、森の奥など二人きりで散歩するのも悪くはないと思っています(僕ら「内エルフ」も自分達の森の中であれば割とよく散歩するのです)
僕はそもそも、自分の一族を守る、ということ以外に興味を持つことがなかったはずなのに、今や、兄上や義姉上、弟や妹が綴ってくれる手紙とその動向に夢中なのです。
そして、それ以上に、愛するみどりの姫ことベラに。
彼女は日々、エルフ族では知り得ない様々な知識を教えてくれます。
元々、僕が提案した政略婚だったはずなのに、もしかすると僕が一番彼女に夢中になっているのではないでしょうか。
もっとも、兄上と弟が首を振って、否、否、自分の姫が一番である、とそれぞれ主張する様もちょっと見てみたいものですが、兄弟喧嘩はよくないと身に染みてわかっている身です。
我が弟シーバスレリアのように、喧嘩をするたびに館をふらっと出て行って三十年も帰ってこない、なんてことがあっては困りますからね。
エルフ族の三十年と人間族の三十年とでは雲泥の差があるということも、ベラは教えてくれました。ゆえに、どうかご容赦を。
弟たちの到着のラッパ音が響いてきました。それでは。出不精の身ですが、いつか『常冬の宮殿』にも足を運びたく存じます。その暁には前にお贈りした火酒のような、良いお酒をこっそりと持っていきましょう。我が館の地下室には良い酒をいくつか隠してあるのです。それでは。 敬白
あなたの忠実なる弟にしてエルフ族族長
フィロストレリア・エルフェンノルン




