02通目 アンフィーサからリネッテへ
『常冬の宮殿』より
わたくし達の可愛いリネッテへ
拝復 ドラゴン族の『常冬の宮殿』に着いて、やっとこれをしたためている次第です。
ここはわたくし達のシュトラスレートル城の大きさの五倍はあるようです。困ったことにテーブルも机も、備え付けの羽根ペンさえも大きすぎて(今私は机の『上』でこれを書き記しているのです)、あなたが婚礼用品の中に『人間サイズの』便箋と羽根ペンをたくさん忍ばせてくれたことを本当に感謝しています。
ベラの嫁ぎ先はエルフ族なので、彼女は五倍の大きさのテーブルの上によじ登ることはないでしょう。
ドラゴンの城に住まう妃は、彼らの言葉で『ドラコスリーベ』と呼ぶそうです。わたくしの新しい苗字、ということになります。『アンフィーサ・ドラコスリーベ』、手紙の宛先に使ってください。
そしてこの寒い山へとやってきてくれる妖精便には、こちらでチップをたっぷりはずんでおきましょう。
アルベリッヒ王、わたくしの陛下とはいくつか話をしました。人間の妃というものを城に迎え入れたのは長い歴史を誇るドラゴン族でも初めてのこと。不都合があれば何でも言え、とのことでした。
そのお言葉に甘えて、まずは、妃の仕事にふさわしい大きさの机と椅子を所望することにしました。『年に一度はやってくる冒険者組合で調子に乗った自称勇者達が、わたくし達の城を荒らしにこないように』嘆願書を送ろうと思っています、と告げたら、珍しく呵々とお笑いになりました。
蒼く輝く鱗の、威厳に満ちたお美しいドラゴンです。
わたくしの赤い髪を『炎よりも美しい』と言ってくれたのは、可愛いわたくしの妹達の他には陛下だけかも知れません。口数は多くはないけれど、『そなたは良き妃になれるだろう』と褒めてくださいました。
ベラの花嫁衣装が見られなかったことだけが残念でなりません。あの子は何でも似合いますが、あの緑色の髪と瞳を彩る衣装がエルフ族から贈られたときいて、安心しています。
わたくしたちの優しい、誰よりも賢いみどりの姫。エルフ族長フィロストレリア様はその価値を十二分に理解してくださると信じています。さもなければ「人間を介してエルフ族とドラゴン族が和平を結ぶ」この政略結婚も無意味というものです。
明日には『人間族に相応しい大きさの』妃の王冠が届き、戴冠式が執り行われるとのこと。ドラゴン達にとって人間を妃にするには紆余曲折があったようですが、わたくしは、凛と立っていなければなりません。ただし、ドレスの懐に温めた石を入れることは、許して貰うつもりでいます。
リネッテ、あなたも、風邪など引かぬよう気をつけるように。
シュトラスレートル城の暖炉にわたくしの魔法の炎を点すことはもうないけれど、代わりに『ドラゴン族の火打ち石』を送ります。
この石はドラゴンの歯から作られた貴重品です。ちゃんと人間でも使えるサイズに整えて貰いました。これで灯した炎はどんな寒さも吹き飛ばしてくれる逸品です。大事に使ってください。 敬具
あなたの姉
アンフィーサ・ドラコスリーベ




