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10通目 リネッテからベラへ

『鷲の大崖』より

親愛なるベラお姉さまへ


 拝啓 贈って頂いたあの緑の本が本当に、こんなにも早く役に立つ日がくるなんて!


 あたしは今これを『鷲の大崖』に掘られているゴブリン族のお城の、一番広い謁見室(という名前も今日付いたそうです。ゴブリン族以外の誰かが入れる大きな横穴はここだけだもの)で書いています。


 運びこんだ絨毯とカーテン、城の庭師達から分けて貰ったロープで天幕を作って、眠る場所をしっかりと確保しました。


 人間用のベッドはないけれど、あの緑の本に書かれていたとおり、並べた枝の上に木の葉を敷いて(ルネやマリィが手伝ってくれました)、その上に持ってきた毛布を敷いたら思いのほか上手く眠れそうです。


 エルフ族の知恵って本当にすごいのね。


 やってきたボトム王もびっくりしていましたが、すぐにあたし用の部屋を整えてくれることを約束してくれました。


 この『鷲の大崖』には、合計百人ほどのゴブリン族が横穴を掘って暮らしています。近くには小川があって、水路らしきものもあります(そしてお風呂のかわりに水浴びをする場所もあります。冬になる前に、お風呂だけは何とかしないと!)


 驚いたことに、川沿いにはとても小さな水車小屋もあります。


 これはボトム王が管理していて、木の実の混ざっていない、バターや乳(平原ではヤギが飼われています)と小麦粉で焼いた真っ白のパンはゴブリン族にとって最上級のご馳走なのだそうです。夕食で頂いたのだれど、確かにとても美味しくてびっくりしました。


 さらには、何とゴブリンの皆が歓迎会を開いてくれました。


 最初はおそるおそるこっちを見てるだけだった皆に、白いパンを分けることをそっと提案したら、ボトム王はきちんとそれを承諾してくださったのです。


「うちの王様はなかなか結婚なさらなくて、皆で心配してたんでさあ」


「いきなり、でっかい人間の姫様と結婚なさると聞いて、わしらもびっくりですさね」


「このパンはうちらの誇りさ! 皆の大好物なんだよ」


「これでおれらも人間族にいじめられたりしねえ。ありがたいこった!」



 歌ったり踊ったり、気が付くと崖の外で大宴会。

 あたしも、楽しくて楽しくて。


 皆、ボトム王よりも小さくて、緑の肌で、小さな手足。ちょっと器用で、陽気なヒトたち。

 あたし、すっかり皆のことが大好きになったわ。初めてここに来て良かったって思っているの。


 ボトム王も、無茶なことは何も言ってこないわ。

 びっくりするくらい紳士的で、こっちが畏まっちゃうくらい。でも、エルフ族の緑の本や寝台の作り方には興味津々。あれやこれやと質問してくるの。


 あたし、殿方とおしゃべりしたことってそんなにないのだけれど、喋っていて気持ちいいヒトって、悪くないものなのね。


 そして、夜遅く部屋に戻った時に、


「夫婦たるもの同じ臥所で眠るのが慣習ではあるが、姫も今宵は疲れていよう。ゆっくり休むとよかろう。不都合があればすぐに呼ぶが良いぞ」


 って言ってくれました。


 というわけでお言葉に甘えて、今こうして枕元のランタンにアンフィーサお姉さまから頂いたあの火打ち石で灯りを灯して、ペンを取っている次第です。


 ランタンの隣には、砂金の入った小さな袋があります。妖精便の子達へのチップに最適だとボトム王がくれたものです。これでお姉さま達へのお手紙も、今までよりちょっと早く届くことになるでしょう。


 ついてきてくれたルネはゴブリンの侍女マリィとすっかり仲良しになっています。ルネも多少はゴブリン語が話せるみたい(ずっとお城で一緒にいたのに知らなかったわ)


 とにかく、なにもかもが驚きでいっぱいです。とりあえず、朝までゆっくり寝てから妖精便の子を呼ぼうと思います。


 この『鷲の大崖』の近くに住んでいる子もいるとかで、大助かりです。


 それでは、おやすみなさい。おやすみなさいって手紙で書くのはなんか不思議な気分。 敬具


あなたの忠実なる妹

リネッテ・ブリンク

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