01通目 リネッテからアンフィーサへ
空っぽになったシュトラスレートル城より
親愛なるアンフィーサお姉さまへ
拝啓 お姉さま達が嫁ぐことになって、文字通り城中から灯りが消えたような、そんな気持ちです。まだ一週間も経っていないのに、寂しくて寂しくて。
寂しさに耐えかねて、こうしてお手紙を出してしまうのを、どうかお許しください。
お姉さまがドラゴン族の王様アルベリッヒ王の『常冬の宮殿』に嫁いだ翌日、エルフ族の族長フィロストレリアさま(名前がなかなか覚えられなくて困ります)とその近衛隊がベラお姉さまをエルフ族の館『木叢の館』へ迎えに来ました。
彼らのあまりのまばゆさに、城中の女性たち全員の目がハート型になっていたことを報告しておきます。
けれど城中から可愛い娘達と持参金代わりの調度品が消えて、父さまも母さまも毎日毎日嘆いています。
城中ががらんどうとしていて、あたしのことなんて皆忘れているみたい。侍女のルネだけが毎日世話を焼いてくれています。
ドラゴンのお義兄さまによろしく。見た目通り、とっても怖いヒトなのかしら? ドラゴン達が城までお姉さまを迎えに来たときの城中皆のパニックは一生忘れないと思います。
婚礼衣装でアルベリッヒお義兄さまの背中に乗ったお姉さまは世界で一番かっこいい花嫁だと思ったけど、父さまも母さまも真っ青。本当にその場でぱったりと真後ろに倒れて気絶しそうな顔でした。
ベラお姉さまはとっても誇らしげに見送っていました。お姉さまがああいう顔をしている時はだいたい何事も上手くいくから不思議です。
少なくとも、小さいときに読んだおとぎ話とは違って、ドラゴンは人間を頭から食べたりはしないことがわかっただけでも安心しています。
ドラゴン族とエルフ族の和平のための政略結婚とはいえ、嫁いだお姉さまを心から大切に、優しくしてくださるといいのだけど……。
ただ、もしもお姉さま達が不当な扱いを受けようものなら、あたしはいつだって北の山だろうが南の森だろうが駆けつけるつもり満々です。寒さや暑さにだけは十分に気をつけて行きます。お姉さまも、風邪など引かないように気をつけてください。
ドラゴン族って風邪とか引くのかしら? ちょっとくしゃみをするだけで山が一つ吹っ飛んだりしそう、と一瞬とても不敬なことを考えてしまったのはお義兄さまには内緒にしてくださいね。
この手紙はいつ頃届くのかしら。ドラゴンの山へ登る妖精便は、別途料金がかかると聞いてびっくりしました。
これから『木叢の館』のベラお姉さまにもお手紙を書きます。ベラお姉さまの蔵書の山は館に届いた頃かしら? エルフ達もきっとびっくりすることでしょうね!
いっぱい書きたいことがあったはずなのに、いざペンを取ってみると、まるで泡のように言葉が消えていってしまうのは何故かしら。
またお手紙を書きます。お身体には気をつけて。お義兄さまにもよろしくお伝えください。
義理の、それも種族の異なるお義兄さまが突然二人も出来るなんて、人生って不思議なものね。
それでは。 敬具(結びの言葉を書く場所、ここでよかったかしら?)
あなたの妹 リネッテより




