表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

秘密の共有者

御子柴聖 十七歳


楓の体の震えが止まらない。


どうしたら、楓は安心してくれるのかな…。


「今まで姉ちゃんが生きてるって情報が入って来なくて、不安だったんだ。生きてるって信じてたけど、もしかしたら死んじゃってるんじゃないかってっ…。あの時、俺が御子柴家に居たらって…」


「ごめん楓、親父から口止めされてたんだ」


楓の言葉を聞いた智也さんは、申し訳なさそうに呟いた。  

   

「お前が言っていた姉さんが聖様だと知ったのも、つい最近なんだ。隠されていた聖様の存在は三家の当主にしか克也は伝えず、外部に漏れないようにする必要があった。大妖怪達の封印を解いた人物が、どこに潜んでいるか分からないからな」


「智也さんの判断は間違ってないよ、間違ってないけど…」


何も言えなくなった楓に申し訳なさが募って行く。 


「楓…、ごめんね」


「姉ちゃんが謝る事ないって!!!こうしてまた会えたんだから!!!」


楓が慌ててあたしの体から手を離し、目を見て弁解してくる。


その姿が昔と変わらないなって、再び思わせてくれた。 

 

「あたしも楓に会えて良かった、会いたいって思ってたから」  


「聞いたよ、父さんもばあちゃんも死んだって。ごめん、葬儀に参加出来なくって…。智也さんに俺も狙われてる可能性があるって言われて、大阪から出れなかったんだ…。けど、母さんは本城家似世話になってるんだよな?」


「うん、克也さんが面倒見てくれてる。仕方ないよ、事情が事情だったし…」


「智也さん、坊ちゃんを呼んだのは…、お嬢に会わせる以外にもありますよね?」 


あたしと楓が話していると、蓮が神妙な面持ちのまま智也さんに尋ねる。

 

「楓も壱急の陰陽師になり、銃の腕もかなりのものだ。聖様にかけられた呪いの件を話す為に呼んだんだ」


「は?呪いって…、どう言う事?姉ちゃん」


「えっと…、実は…」


智也さんの言葉を聞いた楓に問い掛けられ、答えようとした時に蓮に静止させられた。


「蓮…?」


「お嬢、僕から話しをさせて下さい」  

 

そう言って蓮はあたしの前に立ち、蓮は楓を真っ直ぐ見つめたまま話をした。 

 

「十年前、八岐大蛇の封印が解かれてしまった時、お嬢は僕の事を庇って右脚を失ってしまいました。その時に…」

 

「あ?テメェ、今なんつった?」


楓は眉間に皺を寄せながら、ガバッと蓮の胸ぐらを乱暴に掴む。


「姉ちゃんを抱き締めた時、右脚から変な音がしたと思ったら…、そう言う事かよ。蓮、アンタ姉ちゃんの事を死んでも守るって言ってなかったか」


「はい、言いました」


「じゃあ何で、姉ちゃんは右脚も失って、呪いも掛けられてんだよ。なぁ?アンタがいながら、何でだよ。その時、アンタは何してたんだよ!!?」   

 

楓は蓮に向かって大きな声を出しながら、更に言葉を続けた。


「テメェ、姉ちゃんの事守るって言ってたよな?守れてねぇじゃん!!!姉ちゃんに傷を付けさせてんじゃねーよ!!!ふざけんな、ふざけんな!!!」


「すいません、僕の力不足でした。申し訳ありません」


「本当にムカつく野郎だ。ふざけんな、ふざけんな!!」


やばい、これ以上は楓がヒートアップしそうだ。


あたしと智也さんは慌てて二人の間に割って入り、あたしは楓の腕を掴み止めに入る。


「おい、楓。落ち着けって、八岐大蛇相手に陽毬様でさえ敵わなかったんだ」


智也さんが楓を宥めようと声を掛けるが、楓の怒りは鎮まる気配がなかった。

 

「だとしても、姉ちゃんを守らないといけないでしょ。何の為に契りを交わしたんだよ。アンタがいながらっ!!!」 

 

「楓!!蓮は悪く無いよ!あたしが、弱かったからいけないの」


「姉ちゃんは、何も悪くないなだろ!?何で、姉ちゃんが謝るんだよっ…。姉ちゃんはまた、何かに縛られていかなきゃいけないのかよ」


楓の言葉を聞いた蓮は、今の楓と同じ表情をしていた。


御子柴家で隔離されていた時、楓が一番近くで御子柴家のおかしなやり方を見てきてる。


あたしの事を心配して言ってくれてる事も分かる、あたしの為に怒ってくれている事も。  

 

「楓、蓮を庇って右脚を失った事は後悔してないの。それにすごく謝ってもらって、あたしは許してるの。だから、蓮の事を責めるのはやめて?」


「け、けどさ!!!」


「呪いの事も右脚の事も…、これは誰も悪くない。悪いのは…、八岐大蛇の封印を解いた人物だよ」


あたしがそう言うと、楓は蓮の胸ぐらを離した。


「座り直してから話そう、蓮すまないな」


「いえ、坊ちゃんに恨まれても当然の事をしましたから」


蓮は乱れた胸元を直しながら、智也さんに向かって苦笑する。


ドサッとあたしの横に腰を下ろした楓は、蓮に視線を向けながら口を開く。   

 

「誰も見てなかったのかよ。あの部屋の管理は誰がしてたんだ?」


あの部屋と言うのは、八岐大蛇を封印していた部屋の事だ。


でも、確か…、あの部屋の管理は…。


智也さんの隣に腰を下ろした蓮は、頭を押さえながら楓の問い掛けに答える。 


「僕は屋敷の外を見回りしてました。ですので、屋敷内の管理は誰がしていたまでは…」


蓮は当時の状況を思い出しながら話し、あたしも思い出しながら話をした。


「あの部屋は、お婆様が管理してたよ?確か。御子柴家の当主、次期当主しか地下に行けなかったよ。地下の鍵も、お婆様かお父さんしか持ってなかったし」


あたしの言葉を聞いた智也さんは、何かを思い付いたように口を開く。


「もしかしたら…、御子柴家の配下の者が…?」


「「「!!?」」」


智也さんの話を聞いたあたし達は、驚きのあまり言葉を失ってしまった。


「もし、その予想が当たっていたら…。陽毬様が心を許している相手だったら、屋敷の中に通す可能性は高いですね。それが御子柴家の傘下に入ってる四家、もしくは御子柴家と交流がある陰陽師家系の人間とか…」


蓮が顎に手を当てながら呟いた。


御子柴の傘下に入っているのは鬼頭家、早乙女家、水島家の三家と本城家、それから傘下に入ってない交流はある陰陽師家系の人達。


お婆様が気を許す相手はこの家柄の誰かって事?


「御子柴家の傘下に入ってる四家の中から絞るのは簡単だけどよ、交流のある家系の人間の事まで調べ出したら時間掛かるな。まぁ、今はそれしか情報がねーから仕方ないけど」


楓は溜め息を吐きながら、ソファーの背もたれにもたれかかる。 

 

「聖様は何か心当たりはありますか?」


「お嬢は、ずっと隔離部屋に居たから…。その辺の事情は分からないんです」


あたしの代わりに、蓮が智也さんの問いに答えた。


「僕の方で調査をしてみます。分かり次第、聖様に報告しますね」


「智也さん…。すみませんが、よろしくお願いします」


「承知致しました。あ、それと…、聖様の苗字を変えて入学してもらいます」


「苗字を?」


智也さんの提案を聞き、不思議に思ったあたしは尋ねてみた。

 

「実はこの学院には、早乙女家の坊ちゃんが通っているんです。十年前の御子柴家惨殺事件の事を聞いている者は、御子柴家の人間は皆死んだと思っていますから。それに、早乙女家の調べもついていませんから、念の為に御子柴の名は伏せておくのがベストでしょう」


「十年前の事件に関係している人物が、居るかも知れないって事ですね。確かに、御子柴の名前は伏せていた方が良いです。その早乙女家の坊ちゃん?って人は、どんな感じの人なんですか?」


「生意気な野郎」


「へ?」


早乙女家の坊ちゃんの事を智也さんにい尋ねたのだが、代わりに楓が不貞腐れながら答えた。


「生意気って、楓はその人と接点があるんだ」


「俺と同じで壱級なんだけど、何かと喧嘩ふっかけてくんだよ。任務で同じになる事があんだけど、ガキ扱いしてくっから好きじゃねー」


「あー、そう言う感じの人なんだ」


「一匹狼気取ってるけど、高二の中では強い方かな」


楓は貶しながらも、早乙女家の坊ちゃんの腕だけは褒める。


蓮達と同じ壱級の陰陽師、もし会ったとしても雰囲気で分かりそうだな。


「見た目は赤髪で目付きが悪い男だから、見たらすぐ分かると思う。もし姉ちゃんに何か来てきたら、いつでも言ってよ。俺がぶん殴りに行くからね」


「分かった、ありがとね楓」   

       

「本当、楓は聖様が大好きだなぁー。そう言うのシスコンって言うんだよな?」


「は、はぁ!?お、俺は弟としてっ、姉ちゃんを守るだけだし!!!」


智也さんの言葉を聞いた楓は、見る見るうちに顔が真っ赤に染まって行く。


そのうち頭から湯気が出て爆発しいてしまうんじゃないかと思うくらい、楓の顔が真っ赤だ。


あたしに甘えてくれる事も、あたしの事を嫌わずに好いてくれてる事も嬉しい。   

 

「智也さん、あんまり楓の事を虐めないで下さい。ふふ、それに楓に守ってもらえるなんて嬉しいんですから。頼りにしてるね、楓」


「っ!!!うん、任せといてよ!!!アイツなんかよりも、俺の方が頼りになるんだからね!!!」 


「坊ちゃんがお嬢の側にいてくれるなら、僕も安心します」


楓の挑発的な言葉を蓮はサラッと受け流し、あたしに視線を向けたまま話題を変えた。


「坊ちゃんは苗字は何にして、学院に通っているんですか?」 

 

「あ?俺は鬼頭家で世話になってるから、鬼頭の名を借りて鬼頭楓で通してる」


「あ、そうだ。蓮、お前も苗字変えろよ。ここで仕事すんだからな」


「は?ここで仕事って…。何の仕事するんだよ、アンタは」


智也さんの言葉を聞いた楓は、怪訝な表情をしながら蓮に尋ねた。

 

「教師ですよ、教師」


「はぁあ?教師…って、アンタ教員大学行ってねーだろ」


「はい、行ってませんよ。けど、教員免許はありますよ」


「は?」


蓮の返答を聞いた楓は、目を丸くさせながら唖然としていた。


帰ってきた言葉を聞けば、誰でも状況を理解できないだろう。


「教員免許って大学行かないと取れないだろ、何で免許…」

 

「あぁ、それなら…。智也さんに手配して貰いました」


そう言いながら蓮はあたしと楓に見えるに、ジャケットの胸ポケットから教員免許を見せてくれた。


教員免許に表示されている名前は田中蓮(たなかれん)と書かれており、偽名で作られた事が見て分かる。


「あー、智也さんが手配しいたのか。鬼頭家って、偽装カードとか作るの得意だよな。大人の権力ってヤツだろけど」


「おいおい、人聞き悪い事言うなよ」

  

「あたしも苗字は、どうしようかな…」


「蓮も苗字が決まってる訳だし、あたしはどうしようかな…」

 

楓と智也さんの会話を聞き流しながら考えていると、智也さんが提案をしてくれた。


「それでしたら是非、我が鬼頭の名前をお使い下さい」


「え、良いんですか?色々してもらうのに、苗字まで借りるのは申し訳ないです」 


「お気になさらないで下さい。それに楓と聖様は、見た目がとてもよく似ていますから…。他人のフリをするのは無理でしょう。それから、聖様の入学の手配は既に出来てますから」


「え!?もう出来てるんですか!?智也さん、仕事が早過ぎませんか…?」


「それ程、手の掛かるものじゃありませんので」


「ありがとうございます、智也さん」

 

「いつでも姉ちゃんを守れる環境に居てくれた方が俺も安心で、出来るし…。一緒に学院に入学通えんのも楽しみんなんだよな」


楓が顔を真っ赤にしながら、あたしを見つめてくる。


やっぱり、昔と変わらないな。


喋り方とか、体格が男の人になったけど。


微笑ましい気持ちのまま、あたしは楓を見つめ返しながら口を開く。


「ありがとう、遠慮なく頼りにしちゃうね?楓」


「っ!!!うんっ、いつでも頼って良いからな!!!」


「ふふ、可愛い」


そう言って、思わず楓の頭を優しく撫でてしまった。


あ、昔の癖でつい…、撫でてちゃったけど大丈夫だったかな。

  

恐る恐る楓に視線を向けると、あの頃と同じように嬉しそうな顔をしてくれた。


「本当に聖様に会えて良かったな、楓。聖様と会って数分で、年相応な表情をするようになって…」


「きっと、お嬢に会えた事で張り詰めていた糸が切れたんですね。僕よりも、お嬢への愛が強いですから」


「おいおい、蓮。実の弟をライバル視すんなよ?」


「あははは、そんな子供じみた事はしませんよ」  


智也さんと蓮は、あたし達に聞こえないように小さな声で話をしている。


何の話をしているんだろう…?

 

「聖様、これが学院の制服です。先に渡して置きますね」


ガサガサッ。 


智也さんに手渡された紙袋の中を見ると、黒いセーラー服が入っていた。


「ありがとうございます、智也さん。何から、何まで…。」


「いえいえ。聖様には、快適な学園生活を送って頂きたいですから」


智也さんは、本当に仕事が早いなぁ…。


色々準備してくれるのは、凄くありがたい。


「智也さん、ありがとうございました。それじゃあ…。そろそろ、僕達は失礼します。荷物が届く頃ですから」


「荷物?どこに?」


何のことかと不思議に思いながら蓮に尋ねると、蓮はキョトンとした表情をお浮かべたまま口を開く。


「え?僕とお嬢が住む家にですよ?」


「あ、え、え??」


「あー。それで、僕に物件を探して欲しいと言ったのか」


「はい、智也さんのお陰で良い物件が見つかりました」 


あたしが宇宙猫状態になっているのに、蓮は智也さんと話をし始めてしまう。


ちょっと待って、智也さんがあたしと蓮の家を探してくれた事はすぐに理解したけども…。


あたしと、れ、蓮とその…っ、一緒に住むって事!?


と、と言う事は…、二人暮らし!?


心の中で動揺していると、あたしよりも楓の方が動揺しているようで、慌てて蓮に言葉をぶつけた。


「ちょ、ちょちょっと待て!!!まさか蓮と住むのか!?姉ちゃんと二人で!!?」


「それは当然でしょう?坊ちゃん。お嬢を一人暮らしさせる訳には行き来ませんから」


「男女が一つ屋根の下で暮らすんだぞ!?何かあったら、どうすんだよ!?てか、俺達のマンションに暮らすんじゃないのか!?」


「僕がお嬢に手を出す事は絶対にありませんよ。それに、智也さんと坊ちゃんのマンション近くに住みますから」


ズキンッ。


楓に返した蓮の言葉を聞いて、胸に鋭い痛みが走った。


蓮と一緒に住む事を、何処かで喜んでる自分が居た事が恥ずかしく思えた。


むしろ蓮になら…、なんて思っていた。


そんな、あっさり言われるとは、思わなかった。


何、考えてんだろ…。


あたしは…。


そんな事を考えていると、蓮があたしに視線を送りながら微笑んでくる。


「お嬢の事を傷付けるような事はしません。むしろ…」


スッとあたしの方に手を伸ばして来て、蓮の手が優しく手を握り見つめてながら口を開く。


「大事過ぎて、触れませんよ」


キュュンッ。


蓮の言葉一つに、感情が乱されている自分が居る。


舞い上がったり、落ち込んだり。


蓮…、そんなにあたしが大事なの?


瞳からも語っている、あたしの事が大事だと。


そんな事言われて、嬉しくない訳がない。


どうしよう…。


今、凄く女の子扱いされてる。


自分の顔が赤くなるのが分かる。


「お嬢?顔が赤いですけど…、熱いですか?」


「!!う、うん…、大丈夫だよ」


智也さんがボソッと「蓮は天然なのか?」っと呟いた。


まさにその通りです、智也さん。

 

「この部屋で話した事は誰にも構外はし無い事。この事を知っているのは、僕達四人。聖様の秘密の共有者と言う事を忘れないで下さい」


あたし達は智也さんの言葉に黙って頷いた。


「それでは、今日の所は解散しましょうか」


「分かりました。お嬢、お手をどうぞ」


先に立ち上がった蓮はあたしに手を差し伸ばして来て、あたしを椅子から立ち上がらせてくれる。


「楓は、今からつぎの任務だろ?」


あたしに続いて立ち上がった楓に、智也さんが声をかけた。


「あー、そうだけど…。姉ちゃん送ってから行くから。姉ちゃん、車まで送ってくよ」


「え、ちょ、ちょっと!!」


パシッ。


蓮の手を払い除け、楓があたしの手を引き、そそくさに理事長を後にした。


「あははは!!楓は、お前に聖様を取られたく無いみたいだな?」


「そうみたいですね。可愛いものですよ」


「ずっと、聖様に会いたがってたからな、楓は。迷惑掛けるかもしれないが、楓の事も見てやってくれ」


「分かりました」


あたし達の背中を見ながら、二人が話していたのに気付がなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ