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高校に入学してから1か月が経った。
その間に我がCクラスがAクラスに対して下克上バトルを仕掛けたり、突然の転入生がやってきたりという事件が起こることもなく実に平和な毎日を過ごしていた。俺がいつものように式に世話されながら登校し、クラスに着くと担任の熱血先生が近づいてきた。
「おはよう和泉!今日もいい天気だな!」
どっから見ても曇天なのだが、教師が言うならこれはいい天気なのだろう。
「おはようございます先生。俺に何か用事ですか?」
「実はお前に折り入って相談したいことがあってな。我が高校の園芸部では花壇の管理をしているのだが、どうも最近雑草がひどくて管理が行き届いていないらしいんだ。その問題を解決してほしいのだがいいか?」
よくない。
なぜ俺が縁もゆかりもない園芸部の問題に取り組まなければならないのか小一時間問い詰めたい。
とりあえず単純な疑問をぶつけてみる
「嫌に決まってんだろ」
「ん?なんといった?声が小さくてな」
しまった。ストレートに言いすぎてしまった。もう少しオブラートに包んでと
「先生。俺は園芸部員ではありませんよ?それは部員かもしくは生徒会に言うことでは?」
「生徒会に行ったさ、そうしたら会長が弟が適任だというのでな。聞いたらその弟は私のクラスの和泉だということでこうして話を持ってきたわけだ」
あの姉のせいだった。家での生徒会勧誘を断り続けた結果、こうして嫌がらせをしてきたに違いない。
丁重にお断りをしようかと思い口を開きかけたが、ふと少し思案してみる。
ここで断るのは簡単だが、その後はどうなる?姉さんのことだ、やはり私がいないとダメだなとばかりに強引に俺を生徒会に入れて監視下に置かれるのではないだろうか?そうしてしまうと俺の自由時間が削られてしまう。そうはさせない、ここは適当に依頼を受けたのちほどほどに解決するのが吉であろう。全く、自分の灰色の脳細胞が恐ろしいね。
「わかりました。今日の放課後にでも伺います。園芸部の部室はどこですか?」
「おお引き受けてくれるか!助かるよ。部室は校舎のはずれにある物置小屋だ。よろしく頼む」
機嫌よく離れていく熱血先生。まさか信じて頼んだ生徒がやる気が全然ないなど夢にも思っていないことだろう。少しかわいそうになってくるが、ここは心を鬼にせねばならない。俺の平穏な放課後ライフの為なのだ、恨まないでくれよ。
そして放課後、HRの終了とともにかばんを持って立ち上がる俺に先生がサムズアップをしてくる。やめろ
ため息をつきつつ教室を出ると小さい何かが向かってくる。ばるんばるんと胸を弾ませながらやってくるそれはなにやら見知った形をしていた。というか式だった。
「てっちゃんお待たせ!それじゃ調理部に見学に行こうね。さあ手を出して?」
「式さんや、いかにも約束をしてたかのような感じで来られてもいかないよ?調理部には入らないって再三いってるよな?」
あれ?そうだっけととぼけながら手をつなぎ腕まで組んでくる式を引き連れながら放課後の予定を話す。
「それに俺は今から園芸部に行かなくちゃいけないんだ。さあ先に帰ってくれ。今日の飯はロールキャベツがいいな」
「それなら朝のうちに仕込んで温めなおすだけだから大丈夫だよ。てっちゃん部活動入ってなかったよね?いつの間に入部したの?」
そっかぁもう準備してあったのか。今頼んだメニューがなぜ俺の家にすでに用意されているんだろうか?ここで俺がすき焼きが食べたいと言っていたらどうするのだろう。
まあいい。俺は式に朝の熱血教師とのやり取りを話す。
「そっか、和歌さんの依頼ね・・・」
少し式の顔色が暗くなる。どうしたのかと尋ねようとすると何かを決意したように顔を上げ、
「じゃあ私も付き合うよ。てっちゃんだけだと心配だし」
「いや悪いよ。一応俺宛の依頼だし式は先に帰っててくれても・・・」
「いいの!私もてっちゃんの役に立ちたいし2人で行けば早く終わるかもしれないしね」
「・・・それに園芸部に女がいたら嫌だし」
最後は少し声が小さくて聞き取れなかったが、どうやら引きさがりそうにない。問答をしている時間もめんどくさくなった俺は腕に引っ付いたままの式に了承の意を示した。
教えてもらった園芸部の部室だという物置小屋は錆びて赤茶けたトタン小屋だった。
建付けが悪くなっているドアを一応ノックしてから入ると肥料の袋に埋もれた尻が生えていた。