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部屋に戻った俺はさっそく手紙の封を切る。ご丁寧に封蝋で閉じてあるので少し難儀したがなんとかそれを開くとそこには一言
『お前にこれをやる。役立てなさい』
ん?と思い封筒をひっくり返すと名刺程度の大きさのカードが出てきた。ラミネート加工されたその表面にはラメ入りの金インクのようなもので「田」と書いてある。なんだこれは、JAにもっていけばいいのだろうか?
その時、カードが突然に光り輝き眩しさに目を瞑る。
「うおっ!なんだなんだ!?」
次第に収まっていく光、カードを裏返したり透かして見たりしても特に光源はない。外国の土産は奇天烈なものがあるんだなとそれを机の中に放り込み、親父の手紙をもう1度見る。
「役立てろっていってもこんな使い道もわからないカードどうすればいいんだか」
もう顔も朧げな堅物の親父をなんとか思い出しつつ、手紙まで言葉足らずなのかと苦笑する。
そろそろ風呂にでも入るかと1階に降りるとそこにはテレビを見ながらリラックスする姉さんが居た。
「どうだった?親父殿の手紙は」
「どうもこうも相変わらず訳わからないよ。なんか変なカードも入ってるし」
「変なカード?そうか、良かったじゃないか今回の土産は嵩張らなくて。そろそろ土産部屋も入りきらなくなってきたところだしな」
「土産部屋っていうか夫婦部屋だけどね。それより式はいないの?」
「式君なら先ほど食器を片付けた後出て行ったぞ?恐らく帰ったのではないかな」
ふうんと相槌を打ち、風呂に向かう俺の背中に突然柔らかい感触
「2人きりだな。一緒に風呂でも入るか。お姉ちゃんが背中を流してやろう」
俺の首にまるで蛇のように絡みつく腕から抜け出そうとすると姉さんはそれをいなしながらさらに体重をかけておぶさる。
「さあ姉弟水入らずだ。風呂で水入らずというのも可笑しい話だがな」
「なにくだらないこと言ってるんだか。そら」
近くにあるソファーに姉さんもろとも座り込むとむぎゅという声とともに背中から重みが消失する。
「もう風呂入って俺は寝るからね。お休み姉さん」
脱衣所で服を脱ぎ、体を洗ってから浴槽につかる。風呂は命の洗濯とはよく言ったものだ。今日の疲れがお湯に溶けていくような感覚を覚えながらリラックスをしているとすりガラスに人影が見える。
「てっちゃんまーた服脱ぎっぱなしにして~きちんと脱衣かごに入れないとだめでしょ」
「あれ?式帰ったんじゃなかったのか?」
「ちょっとお手洗いを借りてました。てっちゃんちゃんと体洗った?背中とか手が届かないでしょ?私がお手伝いしてあげようか?」
「大丈夫だって、きちんと全部洗ったからもうピカピカだよ。だから服を着なさい」
すりガラス越しに増えていく肌色面積を見ながら言う。ほう・・・今日の下着は白なのか・・・
「そう?じゃあ片付けも終わったし今日は帰るね。その前にてっちゃんの部屋にある漫画借りていっていい?」
「いいぞーいつもありがとうなお休み」
洗濯物を整理しているのだろう少しガサゴソと音した後、式が出て行ったのがわかった。
「ふーいい湯だったな、そろそろあがるか」
式のおかげだろう、綺麗に畳まれて置いてある着替えを着た俺は適当に髪を乾かし、姉さんに風呂が空いた報告をして部屋に戻ると式が借りていったのだろう本棚の推理漫画の1~3巻がなくなっていた。
ついでに部屋の掃除もしてくれたらしく、片付けようと思っていたゴミ箱や、投げっぱなしになっていた机の上のかばんなどがきれいに整頓されていた。
ぴしっと整えられたシーツに横たわり、式からもらったパンダのぬいぐるみになんとなくお休みとつぶやくと次第に瞼が重くなり、俺は眠りの国に旅立った。