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俺の平凡な日常  作者: 773
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 鉄は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の姉を除かなければならぬと決意した。

 ・・・なんてな、別に怒っちゃいない。ただ少しばかり呆れてはいるけれど。

 話を聞いたところによると俺が芙蓉にあった初日、つまりチケットを最初に使うつもりだった日から毎日あの姉は学食の厨房に通い詰めて今か今かと待ち構えていたらしい。

 式に生徒会の仕事を頼んでいたのも自分の分の仕事をずっと振っていたらしいというのだから呆れてしまう。

 そうとは知らずに可哀そうな我が幼馴染は終わらない事務仕事を毎日毎日せっせとこなしていたという訳である。

 そんな後日譚を俺は我が家のリビングで椅子の上に立ち上がり、朗々と演説をする姉さんから聞かされていた。


「~という訳でな、お姉ちゃんは頑張ったんだぞ?なにかご褒美と隠れてもいいんだぞ?」


 渾身の決め顔でウィンクをしながら姉さんはそうほざく。


「俺のメニューはまあ納得したよ。ただ、一緒にいた芙蓉のパンケーキはどういうことなんだ?」

「ああ、それはだな、厨房から観察して鉄と連日昼食を共にしている生徒がいたものでな。ちょいと生徒資料を拝見させてもらったんだ。それで会社の方に偵察部隊を放って家庭環境を確認、母親にコンタクトを取ってレシピを貰って再現したという訳だな」


 サラッと言ってるけど結構際どいことしてるぞこれ。

 法に触れるか触れていないかギリギリのグレーという感じだが、結果だけ見れば大成功ではあったし、大目に見てやるとするか。


「そうか、芙蓉も喜んでいたみたいだし俺からも礼を言っておくよ」

「そうかそうか。じゃあ今日はお姉ちゃんを褒めてくれ。褒めデーだ」

「えらいえらい」

「違う!そうじゃなくてなんかこうあるだろう?感謝の気持ちを行動で示してくれるとお姉ちゃん嬉しいな」


 と言われてもな。


「何か俺にしてほしいことあるのか?」

「この間私がばにーを着ただろう?今日は鉄に少し来てもらいたい服があるのだが」


 え、俺がコスプレするの?誰得なんだそれは。


「ちょっと持ってくるから待っててくれ」


 やるとも言ってないんだけどな・・・

 矢のように飛び出していった姉さんはダダダっと二階に駆け上がるとそのままの勢いで1着の服を持って駆け下りてきた。


「これだ!早速着てくれ!」


 これは・・・英国風クラシカルタイプのメイド服だな。昨今の萌えブームでコンカフェ等で着られているような露出過多なミニスカではなく、いわゆる女中の制服いや仕事着であった露出を抑えた機能性重視なメイド服だ。いや全然詳しくはないけどな。


「なぜメイド服を姉さんが?」

「友達に勧められたのだ!」


 誰だよ本当に姉さんにコスプレを着々と仕込んでいるヤツは。俺に矛先が向かなければいい仕事をした!って感じなんだがな。


「スカートなんて履けないよ恥ずかしい。大体俺は男だぞ?」

「なにをいう。小さいときはお姉ちゃんの服をいっぱい着せてやっただろう?その時にもスカートを履いたはずだ」

「小さいときって小学校に入るか入らないかくらいの年齢だろう。大体その時も俺は嫌だったのに姉さんが無理やり・・・」

「ええい!細かいことを言うな!お姉ちゃんが着せてやるからさあこっちにこい!」


 あれよあれよという間に俺はパンイチにさせられ、姉さんの着せ替え人形になるのだった。

 もうあきらめて脱力している俺の胸板にその細い指を這わせてなんだか酩酊したような顔をしながら鼻息を荒くする姉さんに全てを委ねること数分。

 妙につやつやした顔の姉さんが出来たぞと姿見を持ってくる。

 死んだ目でそれを覗き込むとメイド服を着た男がこちらを見つめていた。

 まあ当然のことながらそれは絶望的に似合っておらず、これで満足かと振り返る。


「はぁ~鉄は何を着ても似合うな。線が細いからこういう服を着ても骨格が目立ちにくくて最高だ。後ろから見たらまるで貴族のお屋敷に仕えているメイド長、正面から見たら薄幸の美少年って感じだな」


 我が姉は目が腐っているようだ。それかなにか強烈なフィルターがかかってありえない補正が働いているに違いない。俺の目には変態しか映っていないというのにな。


「ではその恰好で私にご奉仕してもらおうか。なに簡単なことだ」

「もうなんでもやりますよ。なにをすればいい?」

「お姉ちゃんの頭を撫でながらねぎらいの言葉をかけてくれないか?それだけで1か月は生きていける」


 こうなったらもう野となれ山となれだ。

 俺は姉さんをソファに引っ張り込むと自分の膝の上に座らせて、その絹糸のような黒髪を優しく梳く。


「いつも俺のために奔走してくれてありがとう。姉さんのおかげで親父たちがいなくても小さいころから全然寂しがる暇がなかった。でも俺も成長したからな、もう少しくらい寄りかかってくれてもいいんだぞ?」

「・・・ああ鉄は小さいころから手がかからなかったからな。お姉ちゃんとしてはもう少し世話を焼きたいところだったくらいだ。でも今となってはこうして私を包み込めるくらいになって私は嬉しいよ。いつの間にか声は低くなって、私の背を追い越して・・・」


 感慨深げにそうつぶやく姉さんはなんだか少し小さく見えた。


「ありがとう鉄。お姉ちゃん充電150%だ。さあ立って」


 立ち上がり、最後に正面からハグをして姉さんは離れていく。

 少ししんみりしてしまったなとふと横を見ると、鏡に赤い目の姉と変態が映っていた。

 ・・・コスプレした意味あったか?

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