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俺の平凡な日常  作者: 773
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「鉄様、昨日放送で呼び出されたいた件ですが、お父様とお話をされたとか?」

「ああうん、なんか先日の態度について謝られたな」

「・・・それだけでしたか?」

「いや、あーまあそうだな」

「そうですの・・・」


 芙蓉パパからの突撃を喰らった翌日、芙蓉と共に学食に向かっていると不意に尋ねられる。

 俺の返答になんだか消化不良気味の態度をしながら芙蓉は覚悟を決めたように振り返る。


「わたくしは鉄様なら、いえ鉄様がいいですわ」

「・・・何の話だ?」

「いいえ、こちらの話ですわ。ただ宣言したくなっただけですの。お気になさらないで」


 もしかしてあの親父が最後にしていた誤解を芙蓉に話したのだろうか?いや年頃の娘にそんなデリカシーのない話題を振るか?・・・振りそうだな。


「まあいい。今日は何を食うんだ?」

「長らく引き延ばしてしまいましたが、今日こそチケットを使おうと思いますの」


 ようやくか。俺は財布に入っているチケットを出すと芙蓉と共にカウンターに向かう。


「おばちゃん、これ使いたいんだけど行ける?」

「ん?おお!これを持ってるやつがいるなんてねぇ、いいよあんちゃんの分かい?」


 いつもお世話になっている学食のおばちゃんにチケットを見せると驚かれたが問題なく使えそうだ。

 実は姉さんの壮大なドッキリなんじゃないかと少し疑っていた部分もまだあったので一安心だな。


「できればこの子の分も注文できないかな?2人分が無理ならこの子に使うから」

「んーまあ滅多に使われるもんでもないしね。いいよ2人分用意するよ」


 ありがとうと言ってカウンターから離れようとするとおばちゃんに再度声を掛けられる。


「ちょいと待ちな。このチケットでの注文は希望する品を提供するってなもんだ。見極めるから顔をよく見しとくれ」


 おばちゃんすごい。カウンターで流れで注文をさばいてるだけじゃないんだ。そんな特殊技能みたいなものまで使えるのか。


「じゃあまずはあんたからね。前髪を上げるから少し顔を寄せな」


 顔を出すと無遠慮に顔を撫で繰り回される。そして気が済んだのか手を離すとおばちゃんが言う。


「あんた目が死んでるね。もう少し楽しそうにできないのかい?」


 やかましいわババア


「じゃあ次はそちらのお嬢さんだね。ほれこっち来な」

「よ、よろしくお願いしますわ」


 じっと見つめあう2人、いや芙蓉は撫でまわさないんかい。俺だけ無茶苦茶されたな。


「あんた美人だねえ、あたしの息子の嫁になってくれないかい?」

「いえわたくしちょっと予約が入っていますので」

「あら残念。それじゃ2人とも席で待ってな。出来たら持っていくから」


 芙蓉の気になるセリフをスルーして席に向かう。

 何はともあれようやくご対面という訳だ。俺が望んでいる料理とは何なのだろうか?


「鉄様、なんだかわたくし緊張してまいりましたわ。お手洗いに行ったほうがいいでしょうか?」

「落ち着け、まあおとなしく待っておこうぜ。こうなったらなるようにしかならんだろ」


 そわそわと落ち着きがない芙蓉を宥めながら待っていると、おばちゃんがトレイを1つ持ってきた。


「はいお待ち、これはそちらのお嬢さんの分ね、あんたの分はもう少しかかるからあとで持ってくるよ」


 置かれたトレイを見てみるとそこにはパンケーキがあった。

 見る限り何の変哲もない普通のパンケーキで2枚重なったそれにバターと蜂蜜がかかっているというこれまたシンプルなものだった。

 向かいの芙蓉もまた戸惑っているようだ。


「これがわたくしが望んでいる料理なのでしょうか?」

「ま、よくわからんが食べてみたらどうだ」


 いただきますわと言って食べ始める芙蓉。特に何を言う訳でもなく食べ進めていく。

 なんだおばちゃんも特殊能力ですごい料理を持ってくるのかと思ったら大したことないんだな。

 というか料理ごときに少し期待しすぎていたのかもしれないな。

 と思っていると次第に芙蓉の動きが鈍くなり、そして止まる。


「こ、これはお母さまのパンケーキですわ・・・」

「え?」

「現在わたくしは家で栄養士さんの管理の元食事をとっていると言いましたわよね?」


 そういえばそんなこと言っていたな。ジャンキーなものが食べたくて父親にプレゼンまでしたとか。


「わたくしが子供のころはそんなことなかったんですの。お母さまが作った料理を家族で仲良く食卓を囲んで摂っていたんですわ。でもお父様の事業が忙しくなり、家に帰らなくなってからはわたくしは1人で食べることが増えてここ数年は誰かと食べるなんてなかったことでしたの」

「・・・」

「鉄様と学食で食事を摂ったときに美味しくてはしゃいでしまうのはそのせいなのかもしれません」


 あの奇声は家では発していなかったのか。一安心だな。


「これはその幼少時にお母さまがおやつに焼いてくださったパンケーキと全く同じ味がします。中にわたくしの好物であるレーズンが入っているのも同じですわ」


 味はまだ記憶補正というかで誤魔化せるかもしれないが、中身まで同じとなるとすごいな。おばちゃん超能力者説が強化された訳だ。


「これを家族みんなで仲良く食べることがわたくしの幼少期のささやかな幸せだったのですわ。そんなことも忘れていたなんて・・・」


 静かに涙を流す芙蓉に俺はなんといっていいかわからなかった。


「ぜひ鉄様にも1口食べていただきたいですわ。よろしいでしょうか?」

「ああ、じゃあ貰おうかな」


 ナイフで1口大に切り分けたパンケーキをフォークに刺して俺の口元へ運ぶ芙蓉。


「あーんですわ」


 パクリと口に入れて咀嚼してみると普通のパンケーキだ。芙蓉が言ったようにレーズンが中に入っていること以外は何の変哲もない。

 だが、なんだかほっとするような味だった。

 パンケーキを食べ終わると芙蓉は晴れ渡るような、本物の芙蓉の花のような笑顔でいう。


「幸せが再来したみたいでしたわ。鉄様ありがとうございました」

「どういたしまして」


 それにしても俺のメニュー遅いな。芙蓉は食い終わっちゃったぞ。振り返ってみるとおばちゃんがこちらにトレイをもってえっちらおっちら向かっていた。


「はいよおまち!あんたにはこれね!」


 みるとそこには超巨大なおにぎりが1つドンと置かれていた。というかそれだけだった。

 え?なにこれ嫌がらせ?


 厨房を見るときれいな黒髪をひっつめて後ろで括っている姉さんがいた。

 調理服を着て炊飯器の前に陣取り、こちらを見てどや顔をしている。

 その近くには姉さんの指示で動かされたであろう料理人が倒れていた。


「芙蓉、これも一緒に食べようか。たぶん中には俺の好物がたっぷり詰まってると思うんだ」

「はい!ご一緒いたしますわ鉄様!」



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