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週明けの月曜日、記憶がない午前中は置いておいて飯の時間だ。
有象無象共をすり抜けて教室を出ると俺は学食へ向かうことにした。
今日は先日約束した通り、芙蓉とスペシャルチケットを使うことになっているからな、とはいっても先週末の芙蓉の様子が気がかりではあるな。
学食に着き、とりあえず半指定席と化しているいつもの席に座って入口をぼうっと眺めているとこの頃とても見慣れてしまった縦ロールが入ってくるのが見える。
芙蓉は俺を見ると一直線に席まで向かってくるといきなり深々と頭を下げる。
「鉄様、先日のお父様の失態改めて謝罪いたしますわ」
ざわざわと騒めきだす室内。前にもこんなことあった気がするな。
「顔を上げてくれ。俺としては何も気にしていないから芙蓉が気に病むことじゃないって」
頭を上げさせた芙蓉を対面に座らせながら俺は質問をしてみることにする。
「親父さんの態度はあれ以降どうだった?なにか変化したことはあるか?」
「わたくし先日帰宅してからはお部屋に閉じこもっていましたの。ですからお父様とは顔も会わせていませんわ」
そうだったのか。魔法のカードを利用してしまったかもしれないから様子を伺ってみたかったのだが、芙蓉もどうやら腹に据えかねていたらしい。顔を合わせていないんじゃ聞きようがないな。
「何か変化があったら教えてくれな?じゃあ早速だけどチケットを使うとするか?」
「確かに今日使う予定でしたけどもしよろしければ少しだけ延期させていただいてもよろしいでしょうか?わたくしどうもあまり食欲がなくって・・・」
昨日の今日で楽しく飯って訳にはいかんか。今日は少しメンタルケアでもしようかな。
「そうだな、今日は普通に飯を食うか。うどんでいいか?ちょいと買ってくるよ」
「では稲庭うどんをお願いしますわ」
ここでしっかりと指定してくるあたり本当に食欲がないのか少し疑問になってくるが、心なしか縦ロールも萎んでいる気がするので気落ちしているのは本当だろう。
券売機に行き千円札を入れる。芙蓉の分の稲庭うどんを買い、俺は水沢うどんにした。讃岐うどんは某チェーン店で結構食ってるしな。
出来上がりを待ち、苦心しながらトレイを両手にもって席まで運ぶとそれに気が付いた芙蓉が立ちあがって片方のトレイを受け取る。
「す、すいませんですわ。気が付いたら買っていただいていたみたいで」
「気にすんな」
あのオーダーは無意識だったのか。それもびっくりである。
「ほら、伸びたらおいしくないからさっさと食おうぜ」
「いただきますですわ」
「おいしいですわね。素麺よりもやや太めくらいの平べったい細麺がのど越しがよくてするする入りますわ」
重症だなこりゃ、いつものうめえもなければ食レポも短いしあっさりしている。
仕方がない、ここは俺のプロレベルの食レポを見せてやるとするか。
「うめえなこれ。みず・・・なんとかうどんはいつも食ってるうどんと比べて平たいな、うん。ほうとうみたいな感じというかなんというか。いやうまいわこれうまい」
そんな俺の神ってるレポートを見た芙蓉は綺麗な目をまんまるに広げて俺を見た後、いきなり笑いだす。
「あはは、鉄様それでは何も伝わりませんわよ。でも美味しそうに食べている鉄様を見ているだけでなんだか食欲がわいてきましたわ」
気を取り直したようにうどんをズズと啜り、出汁まで完飲して芙蓉は席を立つ。
見ると、券売機に行きなにやら券を購入して注文をしているようだった。
トレイをもってこちらに再度戻ってくる芙蓉はダンとそれをテーブルの上に置くと食べ始める。
「うめえですわーーーーーーー!先ほどの稲庭うどんもよかったのですが、やはりうどんと言えばメジャーなのは讃岐うどん。麺も私たちが想像するのに一番近い丸い太麺になっていますわ。それになんといっても一番の特徴であるこのコシ!これは聞くところによると足で踏んで生地を作っているからこそ出来るコシだそうですわ。それにしても小麦・塩・水のみでどうして何種類もの麺があるんでしょうか?わたくし不思議ですわ。日本人の食に対するこだわりがあふれているのを感じますわ―――。うめえですわーーーー!」
今度はこちらがあっけにとられる番となってしまった。いつもの大声を注意するでもなく呆けたように口をぽかんと開けていると頬を染めた芙蓉が言う。
「ほら鉄様、いつものようにそんな大声―とかなんといってもらわないと締まりませんわ」
「あ、ああ元気になってくれてよかったよ。いっぱいおたべ」
なにか訳の分からないことを言ってしまったが、元に戻ったということでいいのだろうか?
「芙蓉は笑顔で飯を食ってるのが一番似合うからな」
「わたくしもうお父様の言っていたことなんて気にしませんわ。わたくしのお友達はわたくしが決めること。誰に口を挟まれる筋合いもありませんわ。今夜、お父様と正々堂々話し合ってきますわ」
・・・で、これいつチケット使うんだ?




