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着いていった先にあった屋台はまるで平成に回帰したかのような様相を呈していた。
というかあのボディーガード共いくらなんでも本気出しすぎだろう。
1つ2つではなくひしめくような屋台の並びに圧倒されているとすぐ手前にある屋台を指さして芙蓉が騒ぎ出す。
「ほら鉄様!あれをご覧になって!白いたい焼きですってよ。わたくしたい焼き自体初めてなのにそれが白いなんて許されるのでしょうか」
たい焼きに許すも許さないもないだろう。しかし白たい焼きは俺も気になるところではあるな。
普通のたい焼きと一体どう違うのだろうか。
「じゃあ今度は俺が買ってくるよ。芙蓉はここにいてくれ」
屋台に着くと店主に白いたい焼きを注文する。ウグイス餡やブルーベリーとクリームチーズなどの変わり種もあったが、ここは無難にアンコとカスタードを注文して料金を支払う。
その際にお嬢様をよろしくと店主から言われたので生返事を返しておく。
元の場所に戻ると芙蓉がカップを2つ手にして待っていた。
「おかえりなさい。先ほど違う屋台でタピオカを買ってきましたわ。屋台のご主人がで、デートだとおっしゃって1人分の料金で2つ頂けましたの」
「そうか、よかったな」
「フレーバーも2種類ありますわ。ミルクティーとピーチフィズらしいのですが、鉄様はどちらがよろしいですか?」
聞きなれないフィズというのは何か聞いてみると主に炭酸のドリンクの事らしかった。
まあピーチソーダってわけだな。せっかくなのでピーチフィズを貰って飲んでみるとカップの底に果肉が入ったピーチソースが沈んでおり、サッパリとしていながら飲みごたえもある、でもタピオカ邪魔だな。
「こちらのミルクティーはいつも家で飲んでいるモノと似ていますわね」
まあそりゃそうだろうな。家の人間がやっている屋台なんだから。
「それではタピオカをいただいてみたいと思いますわ。ッケホケホ!」
勢いよく吸いすぎたのだろうふと目のストローを勢いよく上がっていったタピオカが芙蓉の喉に直接攻撃をして思いっきり咽せていた。
涙目の芙蓉がそれでも何とかタピオカを咀嚼して飲み込むと頭の上にはてなマークを浮かべる。
「んん、決して美味しくないわけではないのですが、肩透かし感がありますわね」
「まあ、SNS映えメインのドリンクだからなあ、そんなもんなんじゃないのか?」
そうですの・・・と少し残念がっている芙蓉にたい焼きを差し出す。味を聞くとカスタードがいいとのことだったのでそちら側を渡す。
「こちらは美味しいですわね。この白い皮は何でできているのかわかりませんけど、モチモチしていてカスタードに合っていますわ」
「今スマホで調べてみたけどこの皮はタピオカでできているらしいぞ?飲んでいるこれと同じってことだな」
「あら、タピオカとタピオカでタピオカがダブってしまいましたわ。でもわたくしはたい焼きのほうが好みですわね」
・・・叫ばないな。なんだかほっとしたような物足りないような気になって自分のアンコをパクつく。
お、粒あんか。やっぱりアンコは粒あんに限るよな。食べてる感が違う。
「アンコの方はどれほどこの皮と合っているのでしょうか?気になりますわ」
「そんなに気になるならもう1個買ってきてやろうか?」
「いえ、それには及びませんわ。1口食べれば判明いたしますもの」
たい焼きは頭から食べる派の俺は今更ながら食べ差しをやるのもなと思い、袋の中でたい焼きを逆さにしてしっぽの方を外に出して芙蓉に差し出す。
ありがとうございますわと言いながらたい焼きを受け取り、何故か向きをもとに直してかぶりつくともちゃもちゃと咀嚼をして俺に返却してくる。
「なんで向き直したの?」
「だって両方から食べたらアンコがはみ出してしまいますわ。そうしたら手が汚れてしまうかもしれないではありませんの」
間接キスは気にならないけどそれは気にするんだな。芙蓉から受け取ったそれを食べていると何故かこちらを見つめている芙蓉と目が合う。
「ん?どうした?」
「い、いえ、何でもありませんわ」
俯き、ミルクティーを飲む芙蓉だったが、慌てていたのかまたタピオカが喉に入り咽せる。
背中を叩いてやると気を取り直したように元気に言う。
「まだまだ屋台はありますわ。行きますわよ」
「はいはい、お嬢様の仰せのままに」
それから俺たちはティラミス、レインボー綿あめ、ナタデココ、マカロンに生キャラメル、そしてなぜかお焼きを食べて屋台を練り歩いていった。甘いものが続いたので高菜が入ったお焼きが一番うまく感じたな。
そして日も暮れ始めそろそろ解散しようという段になり、最初の場所である駅前へと戻ってきた。
「今日は1日本当に楽しかったですわ。わたくしお友達と食べ歩きができて本当に幸せですの」
「俺もなんだかんだ楽しかったよ。じゃあ週明けにまたな」
歩き出そうとした俺の前に1台の黒塗りの高級車が停車した。
そこから高級そうなスーツを着こなし、ビシッと髪形を7:3にした口ひげを蓄えた男が下車してきて俺を舐めるように見る。
「芙蓉、こいつは一体どこの馬の骨だ?私がお前に栄養管理された食事以外を許可したのはこんな男と同伴させるためではないぞ?」
そいつは開口一番なかなかパンチの効いた先制ジャブをかましてくれた。
このイケメンを捕まえて馬の骨とは言ってくれるなオッサン。
「お、お父様なぜこちらに・・・」
先ほどまでの楽しげな表情から一変、すっかり縮こまってしまった芙蓉は委縮してしまっている。
「家に帰ってみれば使用人共がなにやらごそごそしていてな、1人を捕まえて吐かせてみれば今日お前が屋台なんてものを男と巡ると話を聞いた。それでわざわざ迎えに来てやったという訳だ」
そしてこちらに歩み寄ると芙蓉の腕をつかんで言う。
「さあ帰るぞ。これは今後のお前の学生生活についても対策を講じねばならないかもしれないな」
「お、お待ちくださいお父様。確かに無断で出かけたのはわたくしにも非があるのかもしれませんが、鉄様はわたくしの大切なお友達ですわ」
「ふん!おい君、ご両親はどんな仕事をしているのかね?」
こちらをねめつけるように見て、オッサンは質問を投げかけてくる。
「はあ、俺の両親はなにをしてるのかって言われてもいまいち俺にも分かりかねるな。海外を飛び回っていることは確かだけど」
「目上の者に対してなんという口の利き方だ。せいぜい中流家庭の生まれだろうな。芙蓉と並ぶにふさわしくない男だ」
「お父様!いくらなんでもひどすぎますわ」
「うるさい!とにかく今日のところは帰るぞ。君、これからは付き合う人間の格をもう少し意識したまえ。芙蓉と君とではステージが違うのだよ」
言うだけ言ってさっさと車に乗り込むとその場を走り去っていくオッサンと芙蓉。
あんな親を持って芙蓉も苦労するなと今日の楽しかった1日を最後に台無しにされてしまった俺は頭を掻いた。




