23
駅前に到着すると、出口にあるモニュメントの前に人だかりができていた。
今日は休日だから大道芸人とか演説をしている人がいるのだろう。ところで時間30分前に着いてしまったが、どこで時間をつぶそうか・・・
そう思いつつ、付近のカフェや本屋をスマホで調べていると丁度芙蓉から連絡がきた。
『ついた。れんらくくださ』
なんだあいつももう到着していたのか、なら都合がいいな。
俺も今着いたぞと返信をすると人だかりから大声が聞こえてきた。
「鉄様ー!どちらにいらっしゃいますのー!?」
恥ずかしいくらいにバカでかい声で俺を呼ぶ世間知らずお嬢様。
あの人だかりに居たのかと足を向けるとその中心に仁王立ちをした芙蓉が立っていた。
いつもより綺麗にセットされたご自慢の縦ロール、白いワンピースと上に羽織ったベージュのブルゾンが清楚さを引き立てている。靴もそれに合わせているのか下品になりすぎないゴールドのパンプスを履いている。
そんな芙蓉に歩み寄ると俺は声をかけた。
「そんなにでかい声を出さずともいる場所を連絡してくれたらよかったのに」
「どうもわたくしスマホの操作が苦手でして、こちらの方が早いと思ったのですわ」
まあそれは昨日今日で分かってたけどな。けど変に注目されるから俺としては勘弁してほしい所なのだが・・・
とりあえず用事を済ませてお嬢様を納得させるとするか。
「それじゃあ行くか。まずはどこの屋台にいくんだ?」
「まずレディーの私服を見たのですから何かあってもよろしいんじゃありません?」
おっと、式とのお出かけで培われていたはずの女の子の取り扱い方を忘れていた。
こういう時何が?とか聞くと絶対あいつは不機嫌になるからな、普段と違うところを褒めてやると上機嫌になる。
「白い服が芙蓉の髪と合っていていいな。それにその靴もあれだ。強そう」
「なんですのそれは」
少々あきれ顔で芙蓉が嘆息をもらす。
おかしいな、式ならば100点満点の回答だったと思うのだが、もしや女性ごとに正解が違うのだろうか?ううむ、サンプルが少なすぎてわからないな。
「まあ及第点にしておきますわ。鉄様は・・・普段とあまりお替りになりませんわね」
クローゼットの手前の服を適当に引っ張り出して着ただけだからな俺は。前にかっこいいと思って買った前面に英字新聞がプリントされたTシャツとか股下がめちゃめちゃ深いサルエルパンツとかはいつの間にかなくなっていたからな。お気に入りだったのにおかしいな。
「ま、男の私服なんて機能性優先ってことだな。それより時間がもったいないから早く行こうぜ」
「そうですわね。今日は1日楽しみつくして耐性を付けてやりますわ」
駅前から移動してまず芙蓉が寄ったのはアーケード街であった。
入口に貼られた店舗の場所が書いてあるマップを見て意気揚々と歩きだした芙蓉に着いていくと、そこはいかにも老舗という感じの肉屋だった。
「ここのコロッケがとてもおいしいらしいのですわ。クラスのお友達が買い食いをしたという話を聞きまして、わたくしも絶対に食べてみたいと思っていたのですわ」
「ほう、肉屋のコロッケか。食べたことはないが、いかにも買い食いっていう感じの品だな」
るんるんで店先に行く芙蓉は店主のおっちゃんに元気な声で言った。
「おじさま!コロッケを2つ頂けますか?」
「あいよーコロッケ2個ね。180円だよ」
手提げかばんを漁って財布を取り出した芙蓉はにこにこで500円を渡す。
最初にブラックカードで精算しようとしていたやつには見えないなあ、成長したなあと思ってちらりと見ると赤いがま口を使用していた。
おいおい昭和か?今は平成通り越して令和だぞ?先日のマネークリップと言いどうも少しずれているな。
まあ、これまでの遍歴を見れば一番年相応になってはいるか、お嬢様とがま口というのも少し面白いかもしれないな。
そう思いつつ見守っていると店主からお釣りを受け取り、大事そうにがま口に入れかばんに戻した後、包み紙に巻かれた揚げたてのコロッケを持ち、こちらに戻ってきた。
「どうぞ鉄様、こちらはわたくしの奢りですわ。ふふ、このセリフも1度言ってみたかったんですの」
「さんきゅな、じゃあ揚げたてのうちに食うか」
パクっと嚙り付けばなるほど確かにうまい。家で食うコロッケとは違った趣があって悪くないな。
「おお、うまいもんだ―――」
「うめえですわーーー!」
アーケード街にも関わらずいつものごとく絶叫する芙蓉。
「この揚げたてならではのサクっとした黄金色の衣、中身のほくほくとしたジャガイモのタネの中にお肉がたっぷりと入っていて満足感もすごいですわ。そのお肉も1種類ではなく様々な部位が入っていて楽しいですわ。それに恐らく揚げ油に植物性のサラダ油などではなくラードなどの動物性の油で揚げてあると思います。とってもとってもうめえですわーー」
いつものごとく食レポを1通り聞いた後、うんうん頷いている店主に礼をして別の場所に行くことにした。
「芙蓉、芙蓉サン?今日は少しばかり食レポの音量を下げてくれると嬉しいんだけどな?」
「も、申し訳ありませんわ。でも我慢できるものではありませんの。いわば反射みたいなものなのですわ。熱いものを触ったら考えるより前に手を放してしまうでしょう?あれと同じですわ」
違うと思うなあ、現に俺や他のやつらは物を食っていちいち絶叫しないもん。
というかこいつ、家で食う高級料理はどうなんだろう?それもいちいち叫んでいるのだろうか?
「そうか、それなら仕方がないけどできるだけ抑えてくれな?じゃあ次はどこへ行く?」
「そうですわねえ、わたくしちょっと前に流行ったモノが食べてみたいですわ」
流行の屋台・・・最近でいうとタピオカとかだろうか?
とはいってもこんな場所にそんなおしゃれな屋台があるわけが・・・
「あら?鉄様あちらをご覧になってくださいまし。レトロ屋台群という暖簾が出ていますわ」
えーそんな都合よくあるのか?お嬢様は全く疑問に思っていないようでラッキーですわねといいながら突撃していった。ついていこうと歩き出すと不意に誰かとぶつかった。
サッと離れていった相手になんだよと思いつつも再び歩こうと思ったら手に紙片が握らされていた。
それを開いてみるとワープロで打ったようなかっちりとした文字で
『オジョウサマノキボウノヤタイヲダス。シンパイスルナ』
と書かれていた。振り返るとアーケード街にも関わらず真っ黒のサングラスにこれまた黒いスーツを着た女性がサムズアップをしていた。
・・・お嬢様はずいぶんと過保護にされているようだな。




