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とある日の放課後、俺は帰宅するために校舎を出た。
校庭を横切り歩いていると、なにやら声が聞こえてきた。
「そうじゃ、そこにその苗を植えて・・・っておい!斜めになっておるぞ!ちゃんとせいアブラムシ!」
「す、すいません部長。こうでしょうか?」
「あ、アブラムシさんそれだと深く植えすぎです。もう少し出さないと・・・」
見ると園芸部の面々が作業を行っていた。
柴田もといアブラムシは改めてみてもすごいポジションに収まったな。
初めて会ったときはぜんぜんそんな感じじゃなかったのだが・・・
「む?おお!鉄ではないか。しばらくじゃの、園芸部の手伝いに来てくれたのか?」
「いえ、帰宅途中に通りかかったら声が聞こえてきましたので」
「なんでもよいよい。どれ、鉄も少し作業に参加せぬか?」
ツインテールを回しながら俺に駆け寄ってくる園芸部部長の二階堂美月。今日も流線型のボディーが眩しい。この髪ハンドルみたいに持って振り回したら怒るかな?
俺がどう断ろうかと思案していると袖をくいくいと引っ張られる。
「い、和泉君久しぶりだね。予定が無かったらでいいんだけど手伝ってくれると嬉しいな」
振り返ってみると部長とはうらはらに出るところは出て引っ込むところは・・・少し引っ込んでいる園芸部部員の小倉カレン。この人は年上のはずだけど雰囲気が小動物なんだよなぁ・・・
守ってあげたいというか、庇護欲が掻き立てられるなんというか罪な先輩である。
「和泉!お前が手伝ってくれると俺も嬉しいよ。一緒に作業しようぜ!」
そしてこいつはアブラムシ。それ以上でもそれ以下でもないのである。
3方向からの包囲網に俺は白旗を上げ、少し作業を手伝っていくことにした。
「そうじゃ鉄、そこの区画が1週間前に肥料をまいておいた場所じゃ。そろそろ土に馴染んだころじゃからこの朝顔の種を1つの穴に2つほど植えるのじゃ。人差し指を土に第一関節まで入れてくぼみを作ってそこに捲くのじゃ」
部長に手を引かれて花壇に向かうと、以前植えていた苗も多少育っているようだった。
まだまだ見ごたえがある感じではないが、これからに期待が持てそうないい花壇に仕上がりつつある。
何をどうすればいいのかわからないので部長に適宜質問をしつつ、作業を手伝っていく。
「朝顔の種はな、硬実種子といって表皮が非常に硬いのじゃ。なぜかというと自然界で生き残っていくための植物の知恵じゃな。劣悪な環境を長く耐えたり、鳥などに食べられても消化されずにフンとして排泄されたそこで生育できるようにするためじゃ。じゃからそのまま植えてもいかん。この爪切りで端のところを少し切り落としてから植えるのじゃ」
なるほど、俺はこっそりとすでに植えていた何個かの種を部長から見えないように掘り出すと、渡されていた爪切りでそれらに傷をつけていく。
身だしなみを整えろという意味で渡されたんじゃなかったのか。じゃあ俺がさっき深爪した意味はなかったな。
「そ、その上から1センチくらい土を被せてね。ああっ!そんなに叩いたら硬くなって発芽しにくくなっちゃうから優しくふわっとかけてあげて」
二階堂部長とは逆サイドに陣取ってきた小倉先輩が俺の手元を覗き込みながら言う。
ああっ!そんなに前のめりになったら大変なことになってしまう。大変だ。こぼれないようにしっかり見張っておかないと。
「へー和泉結構いい手つきしてんじゃん。どう?いっそ入部もしちゃえば」
離れたところで作業をしているアブラムシが余計な茶々を入れてくる。
ほっとけ
「そうじゃそうじゃ!鉄が入ってくれるならわしはいつでも大歓迎じゃぞ?」
「そうだね、和泉君が入ってくれれば私も嬉しいかも・・・」
ほら来た。アブラムシが余計なことを言ったばっかりに先輩方がよろしくない方向に話題を向けてきた。
なんとか話題を転換しなくては・・・
「そういえば先輩方、学食には行ったことがありますか?」
「普段は弁当じゃからな、あまりないが朝時間が無くて作れなかったときに数回な」
「私はいつも校舎裏でお母さんが作ってくれたお弁当を食べてるからないかな」
一人悲しい事実が発覚してしまったがそれはさておき話を続ける。
「どうも裏メニューなるものがあるようなんですよ。それについて先輩方なら何か知っているのではないかと思って」
「わ、私は聞いたことないかも・・・ごめんね、お友達もあんまりいないから・・・」
小倉先輩にはコミュニケーションを要する話題を振るときには注意しないといけないな・・・
気にしないでくださいと言い、ではと逆にいる二階堂先輩をみるとツインテールを回転させながら薄い胸を張りつつどや顔を披露しておられた。
「ふふん鉄よ。わしの交友関係をなめてもらっては困るな。見たことはないが聞いたことはあるぞ」
「おお!それはすごい。ぜひ教えてもらってもよろしいですか?」
「学食の裏メニューとはな、食べると頭がよくなったり、足が速くなったり、内申点が爆上がりするそうじゃ!わしも1度頼んでみたのじゃがどうやら特別な手法でなければ入手できないらしい」
おかしいな、昨日似たような話を聞いたぞ?というかまんまだな。情報0じゃねーか。
「そうでしたかありがとうございます。非常に参考になりました」
一応礼を言っておき、いい感じで話題も流れたところで作業が終了する。
「今後、様々な草花を植えていって生徒たちの目を楽しませる予定じゃ!また手伝いに来てくれると嬉しいのじゃ!もちろん入部も歓迎じゃぞ!」
先輩たちと別れ、帰路に就こうとするとアブラムシが駆け寄ってきた。
そしてそのままの流れで肩を組まれる
「さっきは先輩たちの前だから言えなかったんだけどな、俺も学食の裏メニューについては少し知ってるんだよ」
「ほう?なにかほかの情報があるのか?」
きょろきょろとあたりを見渡した後、耳元に口を寄せて囁かれる。
「ダチが言ってたんだけどな、あれを男女ペアで食べると必ず両想いになれるらしいぞ?」
「・・・」
あほくさ。
白けた目をして組まれた腕を振り払うと俺は無言でその場を立ち去った。




