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「わたくし、先日の和泉様のお言葉にとても感銘を受けましたわ」
今日も騒がしく昼食を食べ終え、そろそろ教室に戻ろうかなというタイミングで対面に座っている宝山がそう切り出してきた。
「なんだ藪から棒に」
浮かしかけた腰を再び落ち着けて雑談に興じることにする。
「お恥ずかしながら、チケットをお金で解決しようとしたときですわ、和泉様がわたくしの事をお友達と言ってくださったこと、非常に嬉しかったのですわ」
あー臭いこと言ったときか。あの夜はなんで俺は金を受け取らなかったのかと思ったけどな。
1食と数えきれない金ならどう考えても後者のほうがよかったのに俺もアホだな。
「そんなことも言ったな。それで今日はもう飯食ったからどうする?いつ使うかは宝山に任せるよ」
「時期はおいおい考えておきますわ。それはそうとして」
ビシッと白い指を俺に突きつける。人に指をさすのはやめなさい。
「それですわ。お友達なのにいつまでも苗字呼びなんて寂しいじゃありませんの」
「いや、宝山だって俺の事和泉って言ってるじゃん」
「そ、それは殿方から先に言ってくださるのを待っているのですわ」
えー別に呼び方なんてどうでもよくね?
でも俺の経験上ここでごねても確実に事態が好転したためしがないので呼んでやることにした。
「芙蓉さん?」
「さんは不要ですわ。あ、こ、これはわたくしの名前に掛けている訳ではなく・・・」
「芙蓉」
「っ・・・呼ばれたら呼ばれたで結構照れますわね」
縦ロールを眼前に持っていって顔を隠す芙蓉。そんな使い方もあるのかその髪型。
「で、芙蓉は?」
「へ?なんですの?」
「芙蓉は俺の事名前で呼んでくれないのか?」
「ええ、そうですわね。呼ばれたら呼び返すのが淑女の嗜みというものですわよね。ええ、呼びますわ少しお待ちになってくださいまし」
「どうした芙蓉?俺が勇気を出して呼び方を変えたのに芙蓉は呼んでくれないのか?頼むよ芙蓉」
「な、何度も呼ばれなくてもわかっていましてよ!」
数回深呼吸をした後で蚊の鳴くような声で絞り出すように言う。
「・・・つさま」
それでも俺が反応を示さないと学食中に響き渡るような大声を出した。
「鉄様!!!!」
こちらを振り返る有象無象共に手でなんでもないと示す。
「ああ芙蓉、これからもよろしくな」
「鉄様。わたくしからもこれからも末永くお付き合い頂けますと嬉しいですわ」
ぱちぱちとまばらに聞こえる拍手を聞きながら俺たち笑いあう。
「話は変わるけどもこのチケットで注文できるメニューっていったい何なんだろうな?」
「聞いた話だと頭がよくなるだとか、足が速くなるとか、内申点が爆上がりするとか言われているようですわ。メニューに関してはどうも要領を得ませんでしたが」
前の2つはまあ何となくわかるとして内申点ってなんだよ。飯食って教師の評価が上がるわけねーだろうが。
それにそうか。裏メニューの内容に関しては依然不明のままという訳だ。
「それはすごいな。希望の大学にもそれ食ったら入れるのかな」
「そんなにすごいメニューならばそれくらい朝飯前、いや昼食後ですわ!」
上手いこと言ってやったみたいな顔をしている芙蓉の頭にチョップを落とすと財布からチケットを取り出して再度眺めてみる。
「ふむ?これよく見ると小さく何かが書いてあるぞ?」
「どれですの?わたくしにも見せてくださいまし」
対面から身を乗り出す芙蓉。必死に見ようとしていてその大きな双丘の谷間が見えている。
こ、この山の標高はすごいぞ。式山以上かもしれないな・・・
俺の視線に気が付いたのか恥ずかしそうに体制を直して俺の隣に座りなおしてきた。
でも相変わらず必死に文字を読もうとしているか、今度は山の感触がダイレクトに伝わる。
「ううん・・・チケットの色と同化していてちょっと読みずらいな」
「わたくし、視力は両方とも2.0でしてよ。読んで差し上げますわ」
なんとなく感触をこのまま楽しんでいたい俺はチケットを渡さずに前に掲げてやるとそれを芙蓉が読み上げる。
「このチケットを使用すると、あなたに一番必要なものを提供いたします・・・ですって」
「へえ、決まったメニューって訳でもないのか」
必要なものって、カウンターのおばちゃんにそんなことがわかるのだろうか?
あとこれは2人で使えるのか?俺に必要なものが芙蓉にも必要なものかはわからない訳で・・・
まあ使ってみてのお楽しみにしておくか。
「もしその必要なものが1人前しか出てこないようならばそれは芙蓉に譲るよ」
「いけませんわ!これは鉄様のチケットであるわけですから鉄様が使用するべきですわ!」
数度遠慮しあったのち、結局芙蓉に譲ることにした。
まあ俺はそこまで食いたいわけではないしな。どうせただ券だし。
せっかくならば本気で必要としている人間が使うべきだろう。
「ありがとうございますわ。その時はわたくしが使わせていただきますわ。でも一緒に食べましょうね?約束ですわよ?」
その輝く笑顔が見れただけでまあいいかななんて柄にもなくまた思ってしまった俺はやはりどこかおかしいのかもしれない




