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俺の平凡な日常  作者: 773
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 パタン、と扉を後ろ手に閉めて私はうずくまります。


「てっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃんてっちゃん」


 今朝に制服姿を見たときから限界ギリギリだったけど家まで持って本当に良かったです。てっちゃんの前で不審な態度は決して見せるわけにはいけません。桜舞う校門で黄昏るてっちゃん。私の顔をその大きな手で挟んで見つめてくれたてっちゃん。入学式で興味なさげに欠伸をしているてっちゃん。私のクラス分けの結果に喜んでくれて頭まで撫でてくれたてっちゃん。下校時の家に帰りたがっているてっちゃん。夕飯を聞いたときに即答したてっちゃん。家の前で手を握ったときに少しそっけなかったてっちゃん。

 その一挙手一投足が私の琴線に常に触れています。朝は気恥ずかしくててっちゃんの目について言及してしまいましたが、そのアンニュイな瞳も私の大好物。ただ、どうやらそれは世間では死んだ魚のような目と称されているらしく、泣く泣く世間に迎合して話を合わせてしまいました。願わくば、世間がこのままこの宝石のように鈍く輝く瞳の魅力に気づかないことを祈るばかりです。

 そもそも私たちが初めて会った病院で新生児であるはずの私は隣でふてぶてしく寝ているてっちゃんを見てから恋をしているのです。

 その時に指が思うように動いていれば指ハートを作ってキュンですとこの愛を表現していたかもしれません。

 さて、いつまでも玄関で浸っている場合ではありません。さっさと着替えてからおなかをすかせているてっちゃんの為に料理を作らないといけないのですから。

 リビングでテレビを見ているお母さんに夕飯はてっちゃんの家で食べるからいらないと声をかけてから、トトトっと階段を上がり自室に入ります。制服から私服に着替えるのですが、その際に少し胸元の空いたニットや足を見せるべくホットパンツなどアピールにも余念がありません。私は背が少し小さいのでてっちゃんが上から覗き込んだ時に目に入るように胸の谷間をさりげなく見せるのです。優勝です。

それを強調できるような服は何着も持っています。でもこれはてっちゃん専用服であり、外出する際はロングカーディガンなどで肌は極力見せません。乙女の肌は気安く見せるものではないのです。

 下着も学校用からてっちゃん用に履き替えて準備万端です。

 と、その前にいつもの確認作業をしなければなりません。

 私は机に設置されている4枚のモニターを起動するとてっちゃんの部屋が様々なアングルで映し出されます。


「あ~家に帰ってリラックスしているてっちゃんも素敵・・・♡」


 その中でもお気に入りのアングルであるてっちゃんの枕元に置いてあるパンダのぬいぐるみから覗く常駐君No,1通称添い寝君を見ながら私はしばし呆けてしまいました。


「今日も疲れたな。うん外出して学校に行って話を聞いて、俺今日すごい頑張った。うん」


 素敵です。生きていて偉いです。頑張った式ちゃん大賞授与です。

 帰宅してすぐにベッドに横になるのは制服がしわになってしまうので少しやめてほしいですけど、モニターを起動してすぐにてっちゃんの顔が見られるのは悪くありません。悩ましい所です。

 ただ、机の上に設置したNo,3対面君の画角が少し悪い気がします。恐らく帰宅してかばんを机の上に置いた際に接触してずれたに違いありません。直しておかないと。

 この私の愛はもう少し秘めておきます。てっちゃんは恥ずかしがっているのか、そういう雰囲気になることも少ないのです。恐らく学生のうちは周りに幸せを撒き散らして迷惑をかけないようにしているのだと思います。大人です。私は一刻も早くどこまでも触れ合いたいというのに。

 でもこの監視カ・・・ではなく常駐君No,1~4と盗ちょ・・壁耳君があれば耐えられます。あと数年の辛抱です。この時間が後々の愛をさらに深いものにするのです。

 日課を済ませた私は少し垂れたよだれを拭いながら材料をもっててっちゃんのお家に帰ります。そのうちここも私の家になるのですから帰宅といっても過言ではないのです。


「ただいま~ご飯作るからちゃんと着替えてから降りてきてよ~」


 部屋にいるてっちゃんに聞こえるように大声で呼びかけると、かすかに聞こえるへーいという気のない返事を聞きながらご飯の用意を進めます。

 今日はてっちゃんの大好きなピーマンの肉詰め、小松菜と油揚げの煮びたし、大根サラダ、豆腐とわかめの味噌汁です。

 私がてっちゃんの為に自分のうちの買い物をするときに別に買っているてっちゃん専用の材料で作るメニューです。てっちゃんに毎日メニューのリクエストを聞いていますが、それはほぼ形だけです。てっちゃんが何を食べたいかなんてお見通しなのですが、前に1か月リクエストを聞かずに作り続けたときに少してっちゃんが不審な顔をしていたのでそれから聞くようにしているのです。心労を極力減らす正妻の務めというやつです。


「さあてっちゃんたくさん食べてね。おかわりもあるからほしかったら遠慮しないで言ってね。」

「ありがとう式。いただきます」

「どうかな?てっちゃん。今日のお味噌汁は出汁を変えてみたんだけど」

「いつもながら美味いよ。出汁はあれだな鰹からシイタケに変えたんだろ?」

「大正解!シイタケというか昆布なんだけどほぼ正解みたいなものだよ!」

「まあ植物性の出汁というくくりでは同じだもんな」


 和やかに進む食卓、その中、ふと思い出したようにてっちゃんが言います。


「今日から俺らもあまり実感はわかないけど高校生なんだな。進学校だけあって同じ中学から来てるやつらも少ないみたいだし、式だけが頼りだよ。これからもよろしくな」


 間違いありません。これはプロポーズです。


「うんっ!てっちゃんのお世話は私が全部やってあげるから何にも心配しないでね。おはようからお休みまで付きっ切りでお世話してあげる」

「いや、そこまでしてくれなくていいんだけど・・・」


 自分の時間も欲しいしというてっちゃんを横目に私は使命に燃えまくりです。


「そういえば姉さんが生徒会で遅くなるって言ってたな。もうすぐ帰ってくるんじゃないかな?」


 その言葉を言い終えるや否やというタイミングで玄関から騒がしい音が聞こえ始めました。

 ・・・あの女のご帰還です。

 今日の2人の逢瀬はどうやらここまでのようです。

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