19
「やあだ、やだやだやだやだやだーーーー!」
「いや本当にごめんって、成り行きってあるじゃん?不可抗力というかなんというか」
その日の帰り道、俺は式にひたすら平謝りしていた。
というのも、チケットを宝山と使用するという話を昼にしてしまってそれを聞いた式が拗ねているという訳である。
「てっちゃん私と一緒に学食で使うって話だったでしょ!なんで知らない人とそういうことになってるのよー!」
「あれは不幸な事故だったというかな。でも彼女学食マニアみたいだったし必要としている人に使ったほうがチケットも喜ぶんじゃないかなうん」
「か・の・じょ・----???それって女なの?もうぜ――――ったいに私認めないんだからー!」
怒髪天を衝く勢いの式をどうどうと宥めながら家に到着する。
「ごめんて、そうだ、今日は俺が飯作るからさ、一緒に食わないか?頑張って作るよ」
だるいが1回の面倒で式の機嫌が直るのなら安いもんだ。と言っても俺の作れる料理はチャーハンと野菜炒めしかないわけだが。
「食べさせて」
「え?」
「たーべーさーせーてーーそれで食べ終わったら沢山甘やかしてくれないと認めませんー」
えぇ・・・オプション料金取ったらダメかな。
「わかったわかったよ。何が食べたい?チャーハンか焼き飯か炒めライスのどれかで頼むわ」
「一択だよねそれ。じゃあチャーハンでいいよ。その間私お風呂掃除しておくからてっちゃん作っておいてね」
怒っていても家事はしてくれる式さんマジ式さんですわ。
エプロンを装着した俺は冷蔵庫から卵を取り出すと炊飯器に残っている冷や飯と一緒にフライパンで炒め始める。
具材はっと・・・冷蔵庫に残ってるこのハムでいいか。
適当に切ったハムを投入して塩コショウ、最後に醤油を鍋肌から入れて香ばしく仕上げる。
俺のチャーハンは鍋に強く押し付けておこげを作るのがポイントなのである。
「おーい完成したぞー。よそって配膳しておくからなー」
「ありがとー私ももうすぐ終わるから待っててねー」
風呂場から聞こえる式の声を聴きつつ、粉のわかめスープをお湯に溶いてカップに入れる。
さ、完成だ。男の料理にしてはなかなか上出来ではないだろうか。
「わあーおいしそう!てっちゃんは料理の鉄人さんだね!てっちゃんの鉄は鉄人の鉄!!」
「よせやいてれるべ」
おだてる式。まあお世辞だろうが言われて悪い気はしないなうん。
俺は褒めて伸びる子だからこれからもガンガン褒めてほしいものである。
「あれ?てっちゃんレンゲが2個あるよ。片付けておくね」
ばれた。さらっと流せば一人で食ってくれるかと思ったのだが、甘かったようだ。
「それじゃ両手を合わせていただきまーす!」
「はい召し上がれ」
「早速てっちゃんお願いね。あーーーん」
大きく口を開ける式。真珠のような白い歯とピンクの舌が艶めかしい。
とはいえまあ俺も慣れたもんでチャーハンを掬うと式の口に入れる。
「んーーー美味しい!てっちゃんのチャーハンはこうガツンとした味付けでいいね」
「そうか。もう1口食うかほれ」
機嫌をよくした俺がもう1口食べさせようと差し出すとそれを式は拒否してスープをすする。
「てっちゃん食べなよ。熱いうちに食べたほうがおいしいよ?」
まあ一理あるか。差し出したそれを俺は自分の口にもっていき、咀嚼する。
うん、美味い。でも毎日食ったら体壊しそうだけどな。
「じゃあまた頂戴?あーーん」
式に食べさせ、俺が食べと交互に食べ進めながら食事は終わった。
俺は式が食べ終わった後でよかったのだが、式が交互にと言って譲らなかったのでなかなか面倒だった。
「あーおなか一杯!じゃあ水につけておいてね。明日の朝にまとめて洗うから」
「悪いな。じゃあシンクに置いておくな」
そして自然な流れで俺は自室に向かう。
「それじゃお休み」
さあ、それじゃ寝ようかな。自室に入り俺は着替えを始めた。
「きゃ!てっちゃんいきなりだなんてそんな・・・」
手で顔を覆っている式が部屋にいた。いや着いてきたのか・・・というか指の隙間めっちゃ開いてるし。
「もう寝ようかと思ったんだけど・・・」
「寝るの!?でもまだお風呂も入ってないし・・・」
「風呂は明日の朝でもいいだろ。今日は特に運動もしてないから汗もかいてないしな」
「でも初めては清潔にしてからのほうが・・・でもでもてっちゃんがそういうのが好きなら私としてもやぶさかではないというかバッチ来いというか・・・」
もじもじしながら何事かをつぶやいている式。あーそういや甘やかしとやらがまだ残っていたか。
めんどくさいな。適当に済ませることにしよう。
「ほれ式。こっち来い」
「はい・・・」
茹でダコの様になった式が俺の隣にポスンと腰かける。
とはいえまずは何をすればいいかな・・・とりあえずちょうどいい所にある頭を撫でて考える。
「はわぁーてっちゃんの手って温かくて好き」
考えつかなかったのでこの前に姉さんにされたことをまんまやっておくか。
式の頭を優しく持って俺の膝に倒す。
「なになに!?どういう前戯!?」
ごちゃごちゃいう式を横に向けると俺は耳かきを手に取って式に囁く。
「危ないから動くなよ」
「は、はひ」
コリコリと耳かきを開始する。膝元からははひーとかふえーとか声が漏れているので少なくとも悪いわけではないだろう。
「お、思っていたのとは違ったけどこれはこれで気持ちいい・・・」
うし、だいたい綺麗になったかな。仕上げに式の耳に息を吹きかける。
「んん”♡♡♡」
さて反対をと式の顔の向きを変える。
「んお””♡やっべ♡てっちゃんで満たされる♡♡」
なにやら俺の腹に顔をうずめて鼻息を荒くしている。ちょっと苦しいのかな。手早く終わらせよう
「もうすぐ終わるからな。力を抜け」
「ああ”ん”♡耳元で囁かないで♡気を張ってないと漏れちゃう♡」
耳掃除を終え、仕上げを済ませると緩み切った顔の式が立ち上がり言った。
「ありがとうてっちゃん♡ちょっと用事ができたから私帰るね♡」
どうやら俺の甘やかしはお気に召してくれたらしい。よかったよかった。
「気をつけて帰れよ?何なら送っていこうか?」
「すぐそこだし大丈夫だよ♡それにてっちゃんとこれ以上一緒にいたら何するかわからないから♡」
足早に部屋を後にする式。とはいっても心配だからあとでメッセージでも入れておくか。
それにチケットの件もなんだかんだでうやむやになったし完全勝利だな。
俺は満足して寝ることにした。