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俺の平凡な日常  作者: 773
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「うめえですわ。ぱくぱくですわーー!」


 テーブルに着き、優雅なしぐさでいただきますわと言ったまではよかったが、一口食べた途端これである。

 あまりのがっつきっぷりに俺は自分のA定食を食べるのを忘れて見入ってしまう。

 やがて丼の中が空っぽになると、俺の視線に気が付いたのか頬を赤く染めて備え付けの紙ナプキンで顔の汚れを拭う。


「えらい勢いよく食べていたけどもしかしてカツ丼を食うのは初めてなのか?」

「えぇ、普段は我が家のお抱えシェフの作った料理を食べていますの。大概がコース料理ですので、こんな風に1つの器で完結するものを食べたのは初めての経験ですわ」


 もしやとは思っていたが、こいつ良い所のお嬢さんのようだな。まあブラックカードを不用意に振り回したり、券売機の使い方がわからなかったり、カツ丼を始めて食べたり・・・まあ普通ではないかな。


「宝山はこの時期まで学食になぜ来なかったんだ?そんなに楽しみだったのなら4月から来ればよかったのに」

「聞いてくださいまし!わたくしこの高校に入学してまずやってみたいことが学食の全メニュー制覇だったのですわ。しかしお父様に栄養が管理されているお弁当以外は食べてはならないと怒られてしまいまして、どうしても食べたかったわたくしはプレゼンの資料を十全に整えて昨晩ついに許可をいただけましたの」

「プレゼンの資料?」

「わたくしの家はいわゆるスーパーやコンビニなどの小売を経営しておりますの。B to Cというやつですわね。つまり、サービスや商品を提供するのは一般の方々なのですわ。それなのにわたくしが商品知識もなにもないようでは提供もクソもないということでそこを突きましたの」


 ほう。ちょくちょく口が悪いな。


「そうか、で?その食べっぷりを見れば大体わかるが初めてのカツ丼の味はどうだった?」

「実に美味しいですわ。カツといえばサクサクだと思っていましたが、出汁の効いた卵で包まれている衣はじゅわじゅわで中の肉もしっとりとしていて、上に乗っている三つ葉もメリハリが聞いて非常にグッジョブですわ。聞くところによるとこの世にはソースカツ丼という料理もあるとか、ぜひそれも賞味してみたいですわ」


「岩手の方にはあんかけカツ丼もあるらしいぞ?食べたことはないが」

「まあ!楽しみがまた増えましたわ。和泉様は物知りですのね」


 嬉しそうに手を合わせて微笑む宝山、それを見て俺も自分の定食に取り掛かり始めた。


「うん。初めて食ったけど定番メニューって感じだな」

「・・・そちらのお料理もおいしそうですわね」


 物欲しそうにこちらを見つめてつぶやく宝山。それを無視して食事を続けていると


「そのミニコロッケは一体何が入っているんでしょうか?わたくしとっても気になりますわ。ええとても」


 ついには具体的なメニューの催促をしてきた。

 目の前でそんな欠食児童のような顔で見られては箸が進まない。

 仕方ない、コロッケ1つくらいはやるとするか


「あーコロッケ食べるか?」

「いいんですの!?何か申し訳ないですわ。催促したみたいで」


 しただろうが、目は口程に物を言うというが目力が凄かったからな。まあ口でも催促していたわけなのだが。

 俺が宝山の丼の中にコロッケを入れようと箸でつまみ差し出す。


「あーーんですわ」


 ひな鳥のように口を開けて待ち構えている宝山。

 いや、間接キスとか気にならんのかな。まあ本人がいいならいいか。

 コロッケを口の中に放り込むと宝山の目が光った気がした。


「んまーーーいですわ。これはクリームコロッケですのね。ねっとりとしたホワイトソースがとっても濃厚でうまうまですわ」


 なんにでも新鮮なリアクションができて幸せな奴だな。


「ぜひこれを作ったシェフに御挨拶がしたいですわ。和泉様お付き合いくださってもよろしいですか?」


 セントラルキッチンで作られた冷凍だと思うからシェフはここにはいないと思うぞ。

 しいて言うならレンジとかがシェフじゃないのかな?


「まあ落ち着け、全メニューを制覇するんだろ?その後にまとめて挨拶に行けばいいじゃないか。暇だったら俺も付き合ってやるからさ」


 嘘である。適当に合わせておいて切り抜ける策である。


「そうですわね。わたくしとしたことがあまりの美味しさに少々舞い上がってしまっていたようですわ」


 それはそうとと宝山はあたりを何故か見渡してから言う。


「わたくし本日キャッシュの持ち合わせがありませんの。もし和泉様さえよろしければ明日の昼食もご一緒しません事?わたくしがお返しで支払わせていただきますわ」


 え。今日で終わりだと思っていたんだが・・・でもこいつの見た目は良いし、一緒に飯食ってるだけでなんとなく承認欲求が満たされる気がするな。周りの目がなんだか気持ちいいから、明日くらいは付き合ってやってもいいか。


「わかった。じゃあ明日も一緒に飯食うか。ここで集合にするか?」

「ええそう致しましょう。あぁ、今から明日の昼食が待ち遠しいですわ。煮魚にしましょうか、それともソーキそば?なるものにしましょうか、それともしもつかれでしょうか?」


 郷土料理も完備しているのかここの学食は、A定食しか見ていなかったけどどうやら豊富なラインナップを取り揃えているらしいな。俺も少し楽しみになってきた。


「じゃあまた明日ここでな」

「ええ和泉様さようなら」

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