13
久々の自宅である。
最近の放課後は俺らしくもなく東奔西走していたので、実に久しぶりの自由時間なのだ。
さて、映画でも見ながらカウチポテトでもしゃれ込もうかと飲食物を携えてソファに身を沈めたまではよかったのだが・・・
「おーよしよし、お姉ちゃんの膝枕はどうだ?ソファの無機物丸出しの感触よりも血肉の通ったこの温かさに敵うものはないだろう?どれついでだ、耳掃除のオプションもつけてやろう。さあ横を向け」
これである。姉さんにつかまってしまった俺はでろでろに甘やかされていた。
ま、せっかくだから耳掃除はしてもらうか。最近さぼってたしな。
「いきなりお姉ちゃんのおなか側に顔を向けるとは鉄は上級者だな。息がかかってこそばゆいよ。どれ仕上げだ。ふぅー」
耳にかかる温かい吐息が終わると反対側を向く、ここで下手な反応をするのが二流なのだ。コツは無心で受け入れてそして流すこと。これまでの経験から学んだ対姉さんの処世術である。
「これで完璧に問題は解決したな。あとは鉄が副会長の椅子に座るだけだ。なに仕事は1つだけだ。お姉ちゃん応援係だ。ポンポンでももって隣で応援してくれるだけでいい」
姉さんの隣でがんばれ♡がんばれ♡と煽る自分を想像して吐き気がしてきた。するわけないだろ
「生徒会には誘わないでね。厄介ごとをもう押し付けないでねって言ったよね?俺は自宅の守り神になるんだ。いくら姉さんでもこれ以上の狼藉を許すわけにはいかないな」
そうだったか?と白々しく言う姉さんに呆れながら質問する。
「というか今日は生徒会の活動はないの?こんな早くに帰ってきてるなんてめずらしいね」
「今日は会長権限で生徒会は中止だ。特に切羽詰まった案件もないし、鉄を甘やかすという最重要案件があるからな」
何度か思っているが本当にわが校の生徒会はこれで成り立っているのだろうか?
弟の慰労でなくなる生徒会が果たして健全なのか甚だ疑問だ。
「ほら、終わったぞ。すっきりしたな、男前の完成だ。次はなにをする?してほしい恰好があればリクエストしてくれれば着替えてくるぞ?」
「そうだね、じゃあバニーガールで頼むよ」
しまった反射的に答えてしまった。まあそんな服があるわけないしまあいいか。
すまんそれはない、今日は終わろうとなるはずだ。
「わかった、バニーガールだな。じゃあ着替えてくるから少し待っていろな」
俺の頭を優しく持ち上げ、ソファに沈めると自室に飛んで行った。いやあるんかい。なんでやねん。
心の中のエセ関西人も突っ込みを入れている。
そして待つことしばし、リビングの扉が再度開かれ、姉さんが再入室してきた。
「友達に勧められて買ったのだが、どうだろうか?こういうのは初めて着るのだが、変なところはないだろうか?」
バニーはバニーでも逆バニーであった。
艶やかな姉さんの黒髪の上にはきちんとうさ耳のカチューシャ、黒い髪を引き立てるかのような腕と足に装着された白いタイツもエナメルが光を反射しており、局部はシールのようなもので守られている。
・・・とってもエッチです。
「ね、姉さんその恰好は一体・・・」
「ん?言っただろう?これを使えば男はいちころだと勧められたんだ。まあ買ったはいいが箪笥の肥やしになっていたのでな、陽の目を見られてこの服も喜んでいることだろう?どうだ、いちころか?」
誰だ、人の姉にこんなどスケベコスプレを買わせた不届き者は!いいぞもっとやれ。
「ああ、いちころだとも。びっくりしちゃったよ。でも冷静に考えたら普段の格好の姉さんが俺は一番好きかな」
「ふむ。一定の効果はあるようだが、普段の私が好きと言われて悪い気はしないな。どうにも非日常感が強すぎて落ち着かないからやはり部屋着に着替えてこよう」
お尻をふりふりさせながら着替えに戻っていく姉さん。
身内でよかった。あれが二階堂先輩や小倉先輩なら俺の理性ははじけ飛んでいたかもしれない。
式?あいつはもう身内みたいなものなのでどうだろう?
再度もこもこの部屋着で現れた姉さんは改まった顔で切り出す。
「さて、そろそろ約束を果たすとしよう」
「約束?」
「言っただろう、依頼を達成した暁にはすごいご褒美をやると。それの進呈だ」
そういえばそんなことを言っていたな。さっきの衝撃で完全に吹っ飛んでいた。
「これだ。めったに入手できないから大切に使うんだぞ?」
そんな言葉とともに渡されたのは金色に輝く1枚のチケット。
そこには流暢な筆記体の英語で『special food ticket』と書いてある。
「食券?どこで使うの?」
「もちろんうちの学校の食堂だ。年に1枚発行されるかどうかというスペシャルなカードでな、私も実物は見たことが無いのだが、とんでもなくおいしい何かが提供されるらしい」
何かとは?俺、ナマ系の物は食べられないのだが大丈夫だろうか?
まあ話のネタくらいにはなるか。今度式でも誘って食べに行ってみよう。
「ありがとう。今度使ってみることにするよ。じゃあ用も済んだみたいだし俺は映画でも見るから姉さんは部屋に戻って休むといいよ」
「何を言う今日はここからが長いぞ?お姉ちゃんも一緒に映画を見よう。それから一緒にお風呂に入って体を洗ってやろう」
俺の腕を取り、その豊満な胸の中に沈みこませながらリモコンを使い映画を再生する。
俺は自分のスイッチを切り替えると受け身モードに移行したのであった。
あ、余談だが、お風呂はさすがに断った。