09(終)
「隊長?」
懐かしい声を聞いた。
赤毛のショートヘア。勝気に見える吊り上がった瞳も何一つ変わってなくて涙で前が見えなくなりそうだった。そこには桐がいた。
「桐……!!」
夢なんじゃないかと思った。こんなに都合がいいことが現実で起こっていいものか。幻と言われた方が納得できるほどだ。
桐がこっちに走って来る。
「隊長も生きてたんだ……!」
良かった、と桐は涙を零す。
「俺も、皆死んだと思ってたから……嬉しい」
止はようやく初めて顔を綻ばせることができた。
「それで桐は今までどこにいたの?」
それに答えたのはスイヒだった。
「トドメと同じだよ。カニさんみたいなものの中で寝てたの」
俺も桐もスパイダーの中で眠っていて、スイヒが来たら起きた? そんなことが、本当に……?
「奇跡みたい……。もしかして他の部隊の皆も会えたりして! ねえ止、私も手伝うよ。私のこと見つけてくれたんでしょ。今度は私も一緒に探す!」
そんな疑念も桐の言葉に吹き飛んだ。また皆に会えるかもしれない。ほんの僅かな可能性でも、これほど止を逸らせるものはなかった。
「それじゃあイロウ基地の周りを――」
「この周りに止の仲間が入ってそうなものは見当たらなかったよ」
「でもここら辺で全滅したんだ。そう遠くには行ってないはず」
昔のことはよく分からないけど、と前置きしたスイヒが歯切れ悪そうに否定する。
「この一帯は隈なく探検したんだ。綺麗な水場がなかなか見つからなくって。それでトドメを見つけたんだよ。もしこの近くで誰かが寝てたなら、トドメより先に見つけてると思わない?」
「それじゃあどこに」
スイヒはただ下を指さした。
「探してないのはここだけ」
「イロウ基地の地下に皆がいるの!?」
桐は身を乗り出してスイヒの両手を掴んだ。
「きっとね」
「止! 私、地下に行く!」
桐の決意に満ち溢れた瞳が止を見た。
「トドメ、一緒に行こう。仲間のところに行くんでしょ? 生きて、会いに行こうよ」
もう一度スイヒは手を伸ばした。それを今度は躊躇わない。
穏やかで暖かいある春の日に俺たちは荷物を纏めた。
「スイヒー、テントの取り付け終わったよー!」
桐はスパイダーに甲羅のように取り付けられたテントを見せた。まるでヤドカリみたいな形になっている。そこまで暑くないといっても、重労働を成し遂げた止の額には汗が滲んでいた。
「お疲れ! こっちも準備終わったよ!」
「それじゃあ……!」
桐が止を振り返った。その期待に1つの頷きを返す。
「出発しよう。スイヒと俺たちの仲間を探しに、地下へ!」