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07

 その日の晩。


「起きてるか?」


 止は静止して動かないスパイダーにそう声をかけた。機械に睡眠は不要だと思うが、この様子を見るとスパイダーがどうも寝ているように見えたのだ。

 キュウン、と機械音がしてスパイダーが体を起こす。先頭に取り付けられている暖色のライトが点灯した。


「スイヒはいつもあんな風に、1人で生活してたのか?」


 スパイダーは頷いた。正確に言えば前足を曲げて胴体を上下させるスパイダーの動作が、止には頷いているように見えた。


「それは……寂しかっただろうな。俺は、スイヒを仲間のもとに帰してやりたい」


 俺はずっと傍に居てはやれないから。

 スパイダーはまた頷いた。


「そのためにはあの石器兵を倒さないといけない。俺は、たとえお前が手伝ってくれなくてもあの石器兵に挑むつもりだ。スイヒのためだけじゃない、仲間の仇でもあるから。仲間が命を捨てて戦った敵がまだいるのに、俺はここでのうのうと笑っていられない」


 スパイダーは頷かなかった。


 止はスパイダーに近づいて格納された銃を取り出し、切り離した。


「悪いけど、銃は貰っていく。流石に丸腰の生身じゃ勝てる気がしないからな。じゃあ俺はもう行く。スイヒのこと、ちゃんと仲間のところに連れてってやってよ」


 スパイダーの銃は簡素であっても手で持つには重い。引きづって歩く止に突然スパイダーは足を出して、行く道を塞いだ。


「な、なんだよ」


 胴体が2つに割れて上部が上に開き、空席のコックピットが露わになる。


「乗れって?」


 また機械音が1つ。開いたままのコックピットで止に詰め寄るスパイダー。


「……ありがとう。よし、今すぐ行こう」


 止が慣れた手つきで飛び乗ると、すぐに密閉されたコックピットにディスプレイが表示される。


 止は前進のレバーを奥まで倒した。全速前進だ。

 アレルの木々をあっという間に通り過ぎ、錆びたドームが大きくなる。音もなくドームの頂上に登り、階下の様子を崩落した個所から伺った。

 そこには崩れ落ちた大量の鉄骨に、あの日の大型石器兵が中央に鎮座していた。中央で蹲って休止する石器兵が今夜のスパイダーのように見えた。


 止は前足のブレードを確認する。ブレードは所々黒く錆びついていて、以前と同じ切れ味すら期待できないだろう。


 ……前回付けた切り傷に寸分違わずこのブレードを差し込む必要がある。


 難易度はさらに上昇したといえる。でも、そうだとしても。


 仲間と、スイヒのために。


 ……大丈夫。策はある。


 月明りだけが差し込む空間で止は飛び降りた。止の正面で休止していた石器兵は、頭部から活動を示す青白い発光を見せた。

 短い足を立ち上げ、石器兵は馬鹿の一つ覚えのようにミサイルを発射する。所構わず撃ち込まれるミサイルは大破していたドームをさらに破壊した。


「そう来ると思った!」


 取り付けられているカメラは煙でとうに機能していないが、ドームの外周に沿って走るスパイダーには傷1つつかない。


 1周を回りきったとき、バキリ、と太い鉄骨が折れる音がした。

 その音は次第に大きくなりドーム全体から響き始める。ミサイルの衝撃に耐えきれなかったドームの柱が1つ、また1つと折れ始めたのだ。

 直に天井が崩落するだろう。その前に止は全力で離脱を計る。


 予想通り足が遅い大型は崩落に間に合わない。


 ここで俺が逃げ切れれば……!


 ドームに空いた穴を目指して飛び上がる。スパイダーは装甲という装甲がないため、軽量の面では他の追随を許さない。

 それ故に体長の何倍もの高さに位置する穴を飛び越えて、そのカメラは美しい夜空を映した。

 背後にはゆっくりと崩れ落ちるドーム。そしてその下敷きになる石器兵が見えた。


 仲間たちは死んで、気がついたら国も、何もかもが滅んでいた。だが俺と因縁の相手だけは生き残ってしまった。

 それも今日、俺はようやく決着をつけることが出来た。


 有終に浸る止に強い衝撃が襲った。どうやら後ろ足が崩落に間に合わなかったらしい。落ちる鉄骨に合わせて止も地面に叩きつけられた。


 それだって構わなかった。

 そんなことを言ったら、操作してる訳でもないのに手足をばたつかせて悶え苦しんでいるスパイダーは2度と俺を乗せないだろうが。


「は、はははっ。俺は遂にやったんだ……! 皆! 仇を取ったよ」


 痛みなんてどうでもよかった。この結果さえあれば。


 痛みから立ち直ったスパイダーが崩落したドームへ進む。びっこを引いてるように見えるのは足が故障したからなのか、それとも心情的? なものなのか。

 スパイダーはその小さな身体を駆使して、瓦礫の奥へと潜る。石器兵は底で動かなくなっていた。

 何度見ても、つついても動かない。


 そうしてようやく、止は深いため息を吐いた。

 この石器兵を見つけてから収まらなかった興奮が静かに落ち着いていくのを感じる。


「そうか、終わったのか」


 終わってしまった。


 何もかも終わった世界でこれからも生きていくのか?

 部下に死を強制させておいて?

 自分だけ生き残ったからって最低限の責任だけ果たしてスイヒと笑って生きようだなんて、そんなの最低だ。

 やるべきことを果たしたなら俺も後を追うべきじゃないのか。


 その時、動かないと思っていたはずの石器兵の胸元がゆっくりと開いた。

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