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06

 スイヒは止の手を引いて強制的に水場へ案内する。


「あの川の上流には大きな建物があるの」


 スイヒが指した先には崩壊したイロウ基地が見えた。


「そこから汚い水が流れてるんだ」


 だが止の視点はイロウ基地から少し逸れた一点で留まった。スパイダーの胴体が見える。

 つまり隊員の誰かがそこにいるのだ。例え生きていなかったとしても。


「どうやったら行けるかな」


「無理だよ! スイヒだって行きたくても行けないのに。あの建物の下にスイヒたちの仲間がたくさんいるんだって。だから皆地下に潜って行ったんだ。でもスイヒは怖くて……隠れていたの。そしたら置いてかれちゃって。追いかけようとも思ったんだけど、そんな時にあいつが来たんだ」


 スイヒの目線の先には大型石器兵がいた。右側前方に黒く爆発の跡があるその石器兵は施設内を闊歩していた。


「カニさんにも頼んでみたけどすぐボロボロにされて。だから諦めた方がいいよ、どうしようもないもん」


「……俺があの石器兵を倒すよ」


 言葉は自然と口から出ていた。


「どうやって?」


 彼女の目に僅かな期待が宿った気がした。


「スパイダー……カニさんを俺が操縦する。あの機械は本来あんな動きをするものじゃないんだ。俺ならもっと上手く戦える」


 認めよう。ここは異世界じゃない。仲間たちが死んでからとても長い時間が経って、新人類さえ生まれてしまった。


 だとしたら、俺のできることは。


 俺のできることは今度こそあいつを倒すことだ。こんな結果じゃ皆死んでも死にきれないから。

 お互い生き残った者同士、最後の決着をつけよう。




「だからおい、逃げるなって!」


 キュウゥゥン、という機械音を発して止の愛機であるスパイダーは暴れまわっていた。コックピットに乗り込もうとする止を振り落とそうとして。


「ズタズタにされたのは分かるからさ、もう1回頑張ってみよう。今度は俺もいるし」


 それでも暴れ続けるスパイダー。それを見てスイヒは笑っていた。


「お昼にしよう!」


 ダンガダイリのお肉が焼けたから、と言ってスイヒは鍋のような使い方をされる窪みのある巨大な葉を差し出した。その中には目一杯に乗せられた黒い物体。匂いはつんと焦げ臭い。


「これは……?」


「ダンガンダイリのスープだよ。火加減が強くてちょっと焦がしちゃった!」


 ちょっとじゃないだろこれは……。それに液体が入っていないものをスープとは呼ばない。


「その、スイヒは大雑把なんだな」


 えへと笑う彼女に止はそう返すことしかできなかった。


 もうスープの話は止めよう。視線を下げるとまるで陶器のように固い葉がある。それが憎いことに盛られた液体を1滴たりとも漏らさない。

 ……一旦俺がこの木の葉を見つけた時のことでも話そうか。


 水場からの帰り道、俺は不思議な木の林を見つけた。その木は太い1本の幹から大きな葉が茂っていて、小さい頃に本で読んだ南国の木に似ていた。スイヒに聞くと、名前をアレルの木というらしい。この木の葉は高温で焼くと燃えることなくその形のまま固まる。つまり粘土と同じ性質を備えているらしい。汎用性が高く必要不可欠だからこの名前が付いたとか。

 その次に俺は周囲に点在する鮮やかな黄色の苔に気が移った。これはトウサと言い衝撃を与えると激しく爆発するのだとか。だから絶対に近づいてはいけないらしい。


 そこで俺は魔が差してしまった。爆発するというらしいトウサがどうにも気になったのだ。つまり俺はスイヒの隣で小石を拾うと、それをトウサへ投げつけた。小石は狙いを外れることなく、トウサへ一直線に当たり大爆発を起こした。スパイダーの自爆にも引けを取らない威力だ。

 しかし爆発はそれだけに止まらなかった。なんと周りのトウサも次々に爆発し始めたのだ。これには動植物に詳しいスイヒも唖然としていた。


 結果的にアレルの林は全焼し、俺はたっぷり怒られた。どうして好奇心を抑えられなかったのかとか、いろいろ。そういう訳で俺たちは残ったアレルの葉の形のいいものだけを持ち帰って皿にしているのだ。


「トドメ、食べないの?」


 その声ではっと我に帰るとスイヒが首を傾げていた。


「いやいや食べるよ」


 そうだ、よく考えるんだ。初めからまずいと決めつけるのは良くない。3本足カエル肉入りカレーだってそうだ。その見た目の悪さから人気はなかったが、食べてみれば案外美味しいものだってあるのだから。どんなものでもまずは試してみなければ!

 止は少量を掬い口に放り込んだ。


 こ、これは……!!


 口に入れた瞬間ほろりと崩れる肉の塊。そこからは暴力的なまでに香ばしさが止の味蕾を強襲する。


「衝撃的なお味で……」


 炭というのも烏滸がましい。これはもはや灰だ。

 食べ物と認めるつもりはないが、もしこれが食べ物ならばスパイスを大量に投入すればもう少しいい感じになるんじゃなかろうか。


 こんなときに桐がいれば、と考えてしまう。桐はしっかり者な上に料理上手だった。生き残ったのが俺ではなく桐だったら、今頃スイヒに料理を教えて2人で穏やかに暮らしているのかもしれない。


「いいや。なんでもなない」


「……?」


 不思議そうにするスイヒを無視して焦げたスープを飲み干した。


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