re24.狐顔の怪しい二枚目
「元々イヴの家系が騎士や軍隊で名を馳せた名家でね。まぁ直系じゃないんだけど…………イヴも剣の腕だけじゃ足りないからってことで、極めて優秀な逸材である私が自分の研究も兼ねて、研究中だった魔眼レンズを見繕ったのさ」
「アイナの愛である魔眼は非常に便利で剣に炎を纏わせるのはもちろん、自分の意思で対象を焼くことも簡単、おまけに魔力消費もない素晴らしい一品なのだッ!」
「使い過ぎて目がトラブったらダメだろ」
さっそくお仕事をすることになり、イーヴァ(めんどいので以下イヴ)に騎士団の兵舎内部を案内された。埃っぽい廊下と木造の建物は、どこかノスタルジック……というより、古い小学校のような。
「うぅ……やはり涙が止まらない」
「炎症が強いねぇ、無理し過ぎだよイヴ」
「仕方ないだろう、ここのところ都市周辺で協力な魔物が頻出してその対処に追われているんだ。本来ならこの地方に生息していないグリフォンまで来ていたんだぞ」
「それならこの前倒したな」
「いい魔眼レンズの素材だったね」
「なに⁉ アイナと冒険したのか!」
引っ掛かるべき部分はそこじゃないんだよなぁ…………こんな女騎士が街を守る副団長で良いのだろうか。
「それで魔眼の呪いって?」
「あぁ、この棟だ……騎士団長も罹っていてな」
イヴに案内されたのは、ハーディー精鋭騎士団の兵舎内の一棟。これまた埃っぽい。部屋ではなく棟の案内は不思議である。いくつか部屋があるが、どこも静かだ。
「呪いと疑わしき者は全員こちらへ隔離している」
「うん、何か分からない場合ならいいと思う」
「魔眼の呪いってうつんのか?」
「私も全ての呪いを知ってるわけじゃないから断言できないけど、基本はうつらない。あくまで魔眼を持つ宿主への悪いフィードバックだからね」
「だ、だがわたしに症状が出た後から皆に同じ症状が出ているんだぞ⁉」
結膜炎と同じ症状……?
他人にうつる結膜炎…………魔眼レンズを付けた後…………はて? 何か勘違いをしているような。
「――おや、副団長。今日も皆さんへお見舞いですか?」
「ウェイド、来ていたのか」
棟の一室から現れた青年が、気軽に上司だろうイヴへ声を掛けた。
一言で表すなら狐顔。癖のない黒髪に細い目、やや上がった口角。張り付いた笑顔がよく似合う男だ。
『胡散臭い』を擬人化するとこんな感じなんだろうか。
「軽症だからといってこちらに来てもらっては困りますね」
「心配するな、今日は魔眼専門医を連れてきた」
「専門医……? あぁ、もしかしてあの魔眼フィッターとかいう怪しい…………」
「ほらー、公的組織すら怪しいって言ってんぞ」
「こ、これから広めるんだよぅ」
いかにも怪しい青年から逆に怪しまれる始末。
やはり魔眼フィッターなどという肩書は怪しさ満点である。実績もまだ一人だし。
「それはこっちの腑抜けた男、カンペーだ」
「ども、腑抜けのカンペーです」
「それとこっちが魔眼の専門医であるアイナ・グレイ、わたしの幼馴染で、極めて優秀な帝国出身の医師だ」
…………なんだか紹介の仕方に悪意を感じる。
まぁいいや、金はもらえるんだし。イヴは雇用主でもないからな。
「……ひょっとして帝国の医師家系のグレイ家の?」
「あー知ってる人は知ってるんだね」
「存じてますよ、父親との権力争いで帝国を追放されたって」
「へぇ、よく知ってるねぇ」
感情的になるかと思えば、アイナは冷静に笑っていた。なにやら面倒そうなお家事情っぽい。
「失礼だぞ」
「おっとご無礼を。僕も最近帝国から派遣された身で、ウェイド・エッジといいます」
派遣……?
『帝国』とやらが何か、まだ良く分からんが今は放っておこう。とりあえず駐在さんみたいなもんだろ、多分。
「呪いを見て頂くなら、まずは騎士団長の容態を見てもらった方がいいですね」
「元からそのつもりだ。お前もついてこい」
幼馴染み狂い、狐顔の怪しいイケメンが仲間になりました!
…………バランス悪っ!




