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魔眼フィッターはじめました〜あなたに合う魔眼レンズ、お選びします〜  作者: ムタムッタ
第2章 駆け出しド近視エルフ、魔眼を求める
18/80

18.追放されたエルフは魔眼レンズを手に入れて再出発します



 魔眼レンズのお試しが終わったその足で、俺達は冒険者ギルドへ向かった。既に追放パーティーが待っており、討伐報告とやらをすることに。


 報告自体は追放パーティーがグリフォンの爪やら羽やら、素材の全てを運んだことですぐに終わった。麻袋に大量の金貨が入っているのを見た時は流石に驚いた。


「途中で合流などなさった場合、報酬はパーティー同士で交渉してもらう通例ですが……」


 受付のお嬢さんが気まずそうに切り出した。

 誰も動き出さなかったが、追放パーティーの杖持ちの女がこちらへ振り返る。


「約束通り、グリフォン討伐の報酬はもらうわよ」

「だからあげるってば。私達は魔眼を手に入れられたしね、グリフォンには大感謝だ」


 欲がない……わけではないが、アイナにとって金銭より魔眼の方が重要度が高いのはなんとなくわかる。それに、それがおかしいのも。

 ついでに報告されたワイルドボア討伐で金貨2枚だったことを踏まえると、破格の報酬すら魔眼医師にとっては眼中にないらしい……魔眼だけに。


 まぁ……俺も大したことしてねぇから何も言わないけど。アイナに雇われてるだけだしな。


「あ、あの……アイナ先生、魔眼レンズのお金って……」

「金貨200枚だね」


 周囲で聞いていた人間達が思わず絶句。


 そういえば、俺もすっかり忘れていた。

 魔眼レンズ作成は医療なのだから当然報酬もある。患者が来たテンションで忘れていたかと思ったら、この先生はしっかり覚えていたようである。そして……どうして魔物討伐の報酬に興味がないのかも合点がいった。


「200枚……」

「払えないならそのレンズは今後の研究に使うだけだ。私は慈善事業をするつもりはないからね」


 冷淡に述べるアイナに違和感を抱く。

 ここでわざわざ言うなら、なんでさっきのレンズお試しの時に言わなかったんだ? 変な噂が立った方が診療所としては嫌なんじゃないか?


 黙って様子を見守っていると、追放パーティーがソニアの前に立った。


「駆け出し冒険者にそんな金払えるわけねぇだろ!」

「あんた、この子を奴隷にでもするつもり⁉」

「法外な値段は捨て置けないな」

「……ふぇ?」


 ……なんか態度変わってね?

 

「お前から連絡貰って、魔眼レンズ? つけたソニアの腕前は見せてもらったよ。あの重そうな眼鏡がなけりゃ、すげぇ腕だってことも……新人どころじゃない、弓の名手だ」


 なーんだ、わざわざ都市の外に出てたのはこのパーティーにも見せる為なのか。アイナ先生は慈悲深いことで。でもこのパターンって『もう遅い』とか、そういう雰囲気では……?


「だからソニア! 勝手を承知で頼む、オレ達のパーティーに戻って来てくれ!」

「え、えーっと……?」


 突然の復帰依頼に、エルフの少女は戸惑うばかり。

 この辺の段取りは前もって俺にも伝えておいてほしいものである。アイナも得意げに笑ってるだけだし。


「いいんじゃね? どうせソニアはまだ新米なんだし。金貨200枚は元のパーティーで働きながら少しずつ払ってくれりゃいいだろ…………どうですかねアイナ先生?」

「もちろん! 最初から払えると思ってないしね。ゆっくり払ってくれればいいよ。ただし――」


 ビシッと、アイナはパーティーへ指を差す。


「今度ソニアをクビにしたら、魔眼で呪うからね」

「「「わかりましたッ!」」」

「じゃあ、ソニアはパーティー復帰ってことで。がんばれよ」

「は、はい! ありがとうございますっ!」


 大粒の涙を浮かべて、ソニアは笑った。

 駆け出し冒険者の戻るところも出来たし、あとは…………


「あ、そうそう……眼鏡も作り直してね。レンズばっかりつけてたら目に悪いから」

「カンペー……そういうのは後でいいと思う」


 大事なことである。

 魔眼レンズ……もとい、コンタクトレンズ使用においては大事なことである。たとえ異世界でも、これは譲れない。


 こうして……超長期ローンを駆け出し冒険者に課すことで、俺の異世界における初患者の魔眼選定は幕を閉じた。



 ◇ ◇ ◇

 


 ソニアのことは追放パーティー……エルフと愉快な仲間達パーティーに任せて、アイナと診療所へ戻る帰り道。相変わらず城郭都市の中は賑わっていて、俺達の仕事なんて大して影響していない。


「あぁー疲れた……ったく、クビと復帰を数日で見るとは思わなかったぞ」

「まぁ割とある事だよ。ソニアに関しては、まだしばらく通院してもらうし、レンズで困ってたら頼むね」


 少しは知識と経験が役に立って何よりだ。

 仕事に就いた時のような達成感があって、決して悪いものではなかった。世界に影響がなくとも、ソニアの人生を少しでも変えたのなら、巻き込まれた形でも……まぁ、いいだろう。金ももらえるし。


 疲労した身体で診療所の前まで戻ると、アイナはゆっくりと新たな光の壁を作った。それはこちらの世界へ来た時、そして森から帰る時に見たものと同じ壁。


「さぁ、これでひと仕事終わりだ。カンペーはニッポンへ一旦戻るといい」

「大丈夫かぁ? あの坊主頭に襲われるんじゃねぇの?」

「それはないよ、転移魔法は魔力を喰うからね。何度も連発はできないさ」

「お前連発してるじゃん……」

「私は極めて優秀な存在だから。それに、選定の魔眼レンズをつけていれば襲われても大丈夫だよ」


 …………一部信用はできないが、帰りたいのは事実。昨日の夜から今まで大した反応をしなかったレンズは、目の前の壁をくぐるように道しるべを出している。


「はいはい、お疲れさまでした」

「お疲れ様。あとこれ、今回の報酬ね」


 金貨4枚。一体いくらになるか知らないが、異世界での『副業』の報酬だ。1週間の仕事より疲れた気がするが……


「カンペー、冒険は楽しかったかな?」

「もっと安全な仕事にしてくれ」

「難しいかも、魔眼だからね!」


 屈託のない笑みで、アッシュグレーの少女は返した。もはや鉄板ネタ扱い。


 まぁ……アイナがいれば大丈夫か。

 退屈な生活に刺激が入って、少しテンションが上がったのは間違いない。でも、次はもう少し楽な内容にしてもらいたいものだ。


「次はちゃんと雇用契約結ぼう……」


 短く長い異世界仕事は一件落着。

 光の壁を通り、我らが故郷——日本へ帰還するのであった。





 ◇ ◇ ◇





 城郭都市ハーディー、精鋭騎士団・副団長執務室。

 都市内外を守る兵の中でも選りすぐりの存在のみが集う兵のトップ2のとある少女は机上の紙を眺めている。


「『選定の魔眼使い・カンペーが、あなたに合う魔眼を安全に使用できるよう調整致します。詳しくは城郭都市ハーディー北のグレイ診療所へ』…………⁉」


 わなわなと両手を震わせ、少女は紙を縦に引き裂いた。

 その目は燃え盛る炎のように真っ赤に染まり、瞳を震わせる。


「アイナ……あなたの相棒はあたしでしょ……? あなたの初めてをくれたのは……あたしじゃない⁉ 誰なのカンペーって!」


 一度火を点けたら止まらない。

 両目を押さえ、感情を爆発させる。叫びは室外へ渡り、そして……


「イーヴァ副団長っ、どうされましたか⁉」


 扉をノックされたところで我に返る。友人の近況を思わぬところで知って心が乱れたが、あくまで自分は立場のある存在だ。


「な、なんでもない!」


 最近どこへ消えたかと思えば、この都市に戻って来ていたのなら自分に連絡するのが幼馴染みとして当然ではないのか。冒険者ギルドでも、どこぞのパーティーに頭を下げさせたとか噂は入っている。


「あたしは認めないわ! カンペー……アイナにふさわしいかどうか、見定めてあげる!」


 カンペーとアイナが知らないところで、勝手に燃える少女が叫ぶ。 

 異世界魔眼事情はこれからである。






  第2章 駆け出しド近視エルフ、魔眼を求める  おわり

 

 

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