12.前門のワイルドボア、後門のグリフォン⁉︎
小枝を踏みつけ、土を駆ける。
運動不足気味で舗装されていない場所を走るのはなかなかキツい……が、足を止めることもできない。
「pyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy」
背後からは高らかな叫び声。
「先生ェッ、自慢の魔法はどうしんたんだ!? すげぇ魔法使ってくれよ!」
「ここぞという時に使わないと魔力切れになるからまだダメだ! 昨日魔眼レンズに使った複製魔法で回復しきってない!」
「じゃあなんで森カブトに使ったんだよォッ⁉︎」
「カンペーに自慢したかったんだよぉ~!」
「ふふふふふふふたりとも走ってくださいぃ~!」
そもそも……
『焦らないでね、まずは私の魔法で先制してソニアに追撃をっ!』
そう言って意気揚々と放った火球はグリフォンの胸元を焼き、さらにもう一発火球を放ったところで、炎を厭わず敵はこちらへ突っ込んできたのだった。ソニアの矢はグリフォンの頬を掠めるだけで、俺達は『逃げる』を選ぶことになり……
『あれ?』
『突っ込んできますぅ⁉︎』
全力疾走をする羽目になっているのは過信か計画性のなさか。誰が悪いかというと……
「なーにが極めて優秀だ! 前衛雇っとけよ先生ぇっ!」
「いやはや、魔眼は奥深いねぇ~はっはっは!」
笑ってる場合じゃねぇ!
しかも後ろのあのクソ鳥、わざとペース緩めてやがる。あっちの方が狩りを楽しんでるじゃねーか。
「いざとなったらお前を囮にするか……!」
「カンペーそりゃひどいよ⁉︎」
「患者のソニアは最優先、なら先生が庇うのが正解――あだッ!?」
「カンペー⁉︎」「カンペーさんっ⁉︎」
露出した木の根に躓いて、地面とキス。異世界でも土の臭いは相変わらず。地面を揺らす足音はすぐそこに迫る。
「いやーっ!」
突進されて骨が砕ける……!
――なんてことはなく、グリフォンは寸前で足を止めた。俺を見ているわけではなく、前方からやって来る『何か』へ目線を向けた。
「な……なんだ?」
ドドド……と、グリフォンよりも強い足の踏み鳴らし。いや、それが連続している。よく聞けば、その音のなかに数人の悲鳴の声。
「「「たーすーけーてぇー!」」」
見たような顔の面子、それはついさっき別れたソニアを追放したパーティーの3人だった。
「つ、追放パーティー!?」
「pguiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii」
さらに後ろには真っ黒な毛皮と薄汚れた2本の牙をした流線形。
グリフォンと同じくらいのサイズをしたバカみたいにデカい……イノシシ!
「ワイルドボアですぅ」
「挟み撃ちだね」
「笑ってる場合かよ!」
迫る獣、背後に構える獣。
人生で体験したことない冷や汗が背中を伝う。実感していなかったが、これ……マジでヤバいのでは?
「カンペー、何か見えないかい!?」
「何って……!」
グリフォンとソニアを繋ぐ糸、それとは別に、追放パーティーと俺達の全員から伸びる金色の糸。それは今の道を外れた脇へ通じていた。どうせこのまま立ち止まっても魔物の餌だ。何でか知らないがグリフォンは止まってるし、今しかない!
「お前らあっちへ逃げるぞ、魔眼レンズ教えてる!」
「やっぱり見えてるんだね、『選定の道』が!」
「おい! ソニアをクビにしたお前らも、こっちに走れ!」
「お前ら、なんで……!?」
「いいから走れ!」
俺、アイナ、ソニア。そして追放パーティーの計6人。
獣道へ撤退。
結局『逃げる』じゃねぇか!!