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「舞花〜、起きろ。」


気付けば自分のベッドの上で、目の前には佑が居た。


「おはよう、佑。今日、変な夢見た。夢、だよね?」


「瀬上と燈葵に告られた事なら夢じゃないぞ?」


「……え?」


その時ノックが響きドアが開いた。


「舞花、おはよう。寝起き姿も相変わらず可愛いね。」


急に態度が変わった燈葵に戸惑っていると、気付いた頃にはギュッと抱きしめられていた。


「燈葵!お前舞花の事好きなんだろ?それは幼馴染としてのハグじゃないからアウトだろ。早く離れろ!」


「それだけ舞花が意識してくれるのは良い事だよ。」


「良いから燈葵はおばさん達の手伝いして来い。」


「舞花、下で待ってるね。」


そして燈葵が出て行った後……

私は佑の肩にポスンと頭を埋めた。


「佑は私の事どう思ってる?」


「安心しろ。俺は舞花の事本当の妹みたいに思ってるから。これから先もそれは絶対に変わらない。」


佑は幼子をあやすみたいに私の背中をポンポンと優しく叩いた。


「佑、私どうしたら良いのかな?恋なんてした事ないから燈葵にも優斗くんにもどう反応して良いのか分からない。」


「戸惑う気持ちは分かる。俺もあいつらみたいに誰かを想った事が無いから。好きって言われたら素直に照れとけば良いんだよ。多分あの2人からとったら嬉しいだけだろうし。もし困る事が会ったらお兄ちゃんに頼ってきても良いぞ?」


「もう佑が本当のお兄ちゃんにしか見えないよ。」


「だから気持ちとしてはもう俺は舞花のお兄ちゃんなんだって。」


そして朝ご飯を食べて少し早めに登校する。

通学路、あるマンションを通り掛かった時……


「舞花!おはよう。成宮と天神もはよっ!」


「瀬上くん、お、おはよう。」


「下の名前で呼んでくれ。昔みたいに。」


「優斗くん?」


「何か恥ずいな。でも、嬉しい。」


そう笑う優斗くんは明葉くんにそっくりだった。


***


「舞花、俺、今日明葉の見舞いに行くけど一緒に行く?」


「うん!」


「僕も着いてく。」


「何言ってるの?燈葵は今日ピアノのレッスンでしょ?」


「あ……」


燈葵はすっかり忘れていたようでしぶしぶ家に帰った。


「成宮はどうする?」


「俺は……」


佑はチラリと私の方を見て言った。


「行こうかな。明葉にも会えるし。」


***


「よ、明葉。」


「明葉くん、来たよ!」


「舞花!佑!」


明葉くんはベットから飛び降りて寄ってきた。


「明葉、お前が欲しがってた新刊、買って来たやったぞ。」


「おう。サンキューな、優斗。」


「明葉、それ何の本なんだ?」


明葉くんの受け取った本に興味が出たらしい佑は、明葉くんにそう聞いた。


「漫画!すっげえ面白いの!」


明葉くんは袋から漫画を出して満面の笑みで返した。


「あ、それ姉貴の漫画だ。」


佑がそう呟くと、明葉くんと優斗くんは驚いたように目を見張った。明葉くんが持っている漫画の作者名には、祈ちゃんのペンネームである、"夏野耀心(なつのようしん)"と書かれている。因みに、元々は"夏の太陽神"にする予定だったらしい。


「佑、姉貴のってどういう事!?」


「そのままの意味だけど。俺の姉貴が描いた漫画。」


「凄え!」


明葉くんは興奮したようにそう言った。

すると、佑が突然電話を駆け出した。


「あ、姉貴。今暇?」


電話の相手は祈ちゃんだ。


『暇な訳ないでしょ!私の妹連れてどこ行ってんのよ!』


電話に出た祈ちゃんはスピーカーじゃないのに私にまで聞こえるくらいの声の大きさで佑と話していた。


「声でけぇよ!舞花、ちょっと変わってくれ。」


「うん。分かった。もしもし、祈ちゃん?」


私が電話を代わると祈ちゃんは明るい声で話した。


『なぁに?今どこ?』


「病院。」


『舞花!もしかしてまた倒れたりしたの!?』


「違うよ。友達のお見舞い。」


『そっか。あ、私も行って良い?てか行くね!丁度お母さん達から色々なお菓子が送られて来たから。じゃ、待っててね!』


ツーツーと不通音が鳴った。


「祈ちゃん、今から来るって。」


「えっ!?マジで!優斗、ダッシュで色紙買ってきて!」


「仕方ねえな!」


優斗くんはそう言って部屋から飛び出して行った。

病院の隣には100円ショップがあるのでそこに向かったのだろう。


「兄貴もこの漫画のファンなんだよ。」


「そうなんだ。俺、姉貴の漫画あんまり読んだ事ねえんだよな。」


「「えっ!?」」


「何で舞花も驚くんだよ。」


佑は頭を掻きながらそう言った。


「だって私、佑の家に遊びに行ったら絶対祈ちゃんの漫画読んでるから。リビングに置いてあるし当然佑も読んでるものと思ってた。」


「すっげえ面白えのに読んでねえなんて勿体無いな、佑。な、舞花?」


「うんうん。面白いだけじゃなくて感動できるんだよ?読まなきゃ損だよ!」


佑は怪訝そうな顔をして、「そうなのか?」と返した。

そして色紙を買った優斗くんが戻って来た数分後、祈ちゃんがやって来た。


「やっほー!舞花&舞花の友人!」


「あのね、祈ちゃん。私の友達が夏野耀心のファンなんだって。」


「へえー、嬉しいね。ていうか多分想像してた作者と違うよね?なんかごめんね。」


「いえ!想像通りです!作者のコメントで想像できる性格そのままな感じです。」


「そっか〜。舞花、良い友達持ったね。」


祈ちゃんは私の肩にポンッと手を置いて感心したようにそう言った。そして祈ちゃんはササッと2人分の色紙にサインをした。


「「ありがとうございます!」」


「はい、これ海外のお菓子。良かったら皆んなで食べな。じゃあね、私はそろそろ帰るよ。」


祈ちゃんが病室を出た後、


「っしゃー!!」


「おい、明葉。病室では静かにしろ!」


「分かってる。」


大きな声を出した明葉くんを優斗くんが叱った。


「俺、明葉の着替え取りに帰るわ。じゃーな。」


「舞花、明葉すまん。ちょっとトイレ行ってくる。」


優斗くんと佑が居なくなり、カーテンで仕切られたこの一角は私と明葉くん2人きりの空間になった。


「外出許可、まだ取れそうにないんだ。」


明葉くんがポツリと呟いた。


「この街の色々な所回って写真撮りたかったのに……」


少し寂しそうな、残念そうな表情で言った明葉くんに私は気付けば言っていた。


「私が撮るよ!この街の色々な所の写真を撮って毎日見せに来るから!」


明葉くんは少し驚いた表情をして固まった後、顔を綻ばせた。


「ありがと、舞花。」


少し落ちかけた日に照らされたその表情(かお)は14歳とは思えない少し大人びたものだった。


***


私は宣言通り放課後は毎日色々な所へ写真を撮りに行き、撮った写真を明葉くんに見せに行った。


「舞花、今日はどこに撮りに行くの?」


「そろそろ自然公園の向日葵が咲くってさ。」


燈葵と佑も用事が無い時は手伝ってくれる。


「じゃあ今日は自然公園に行こう。」


平日の自然公園は人が少なく全方面写真を撮ることが出来た。


「舞花、僕とも写真撮らない?ツーショット。」


「折角なら佑も写って3人で撮ろうよ。」


「僕は舞花と"2人"で撮りたいな。」


燈葵は「ダメ?」と首を傾げて聞いてくる。


「な、何で?」


「舞花の事が好きだから。」


「私は燈葵の事幼馴染として好きだよ。」


「僕は舞花のことっ、」


「はいはい、ストップ。」


燈葵の言葉を遮って佑が私と燈葵の間に入った。


「燈葵、遠回しに振られてること分かってる?」


「分かってるよ?でもそれだけで僕が舞花を好きな気持ちは変わらないし。」


「あっそ。まあどうでも良いけど明葉の面会時間遅れるから早く撮るぞ。」


園内を周り、写真を撮ると、明葉くんの病院へと向かった。


「今日はちょっと遅くなっちゃった。ごめんね、明葉くん。」


「舞花、佑、燈葵!来てくれてありがとう!」


明葉くんはにっこりと笑ってそう言った。


「別に、僕は明葉のために来たわけじゃ……」


なんて言っている燈葵も、自分がピアノのレッスンで来れない時は優斗くんや佑から明葉くんの様子を聞いているらしい。


「明葉くん、今日はね、向日葵を撮って来たんだ!学校の近くにある自然公園の写真なんだけど……どう?」


「凄え綺麗!本物も見てみたいな。」


明葉くんがそう言った時、病室の扉が開いた。他の患者さんかなと思っていたがこちらに向かって来ていた。


「明葉!外出許可、取れたぞ!」


はあ、はあ、と息を切らしてそう言ったのは優斗くんだった。


「本当か!?舞花、この向日葵一緒に見に行こうよ!」


「うん!」


私は明葉くんと指切りをした。


「外出許可が取れたのは土曜日だから、俺も着いて行く。」


「俺も!良いよな、明葉?」


「おう!当たり前だろ、佑!」


「土曜日……」


優斗くんと佑の反応とは違い、燈葵は死んだ魚のような目をしていた。


「どうぞ僕以外のみんなで楽しんで来てください。」


「燈葵、土曜日のピアノのレッスンは午前だけだったよね?なら午後から合流したら良いんじゃない?」


「先週から土曜日のレッスンは9時から16時になったから。」


「あ、浅井先生も事情を話したら……分かってくれなさそうだね。」


浅井先生とは燈葵の3歳からのピアノの先生で基本的には優しい人だがピアノに関しては人一倍厳しい人だ。ただ、それは全て燈葵を思っての指導なので私はあの人を尊敬している。


「うん。でももしかしたら休憩時間を取ってくれるかもしれないから説得だけはしてみるよ。」


望みは薄そうだけど、と言いながらがっくりと項垂れた。


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