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いよいよ今日は入学式。まず佑と燈葵と同じクラスかどうかで私の運命は決まる。
「おーい、舞花。さっさと行かねえと人増えんぞ?」
「舞花、緊張してるの?」
「う、うん。」
私がそう言うと2人は私の手を引っ張ってクラス発表の紙の前まで連れて行った。
「天神、天神……お、あった。舞花、2組見てみて。」
燈葵に言われる通り2組のクラス表を見てみると、天神という名前の下に並んで七原と成宮という名前が書いてあった。
「皆んなで同じクラス?」
「ああ。今年もよろしくな、舞花?」
「うん!」
いつもは教室に入るのに物凄く緊張するのに今日は少しましだった。
そして教室に入ると何やら視線が集まって来た。
「燈葵のせいでめっちゃ見てくんだけど。」
「何で僕のせいなの?」
「いや、お前目立つから。」
燈葵は中学生の頃、何人かのファンが居たらしい。私はあまり知らないけれどきっと人気だったんだろう。
「そんな事ないから。舞花、早く席に行こ。」
「うん。」
席に着くなり燈葵と佑は隣の席の人に挨拶をした。私は燈葵の後ろで佑の前の席なのでほっとひと息ついていた。
(あ、これからは2人に頼るのは減らすんだった!)
意を決して私も隣の席の人に話しかけた。
「あ、あの!私、七原舞花と言います!よろしくお願いします。」
「やけに元気な挨拶だな。俺は、瀬上優斗。よろしく、七原。」
「よろしく、瀬上くん。」
心の中でガッツポーズをしながら燈葵と佑の方を見ると2人はもう友達らしい人が出来ていた。まだ着いて15分くらいしか経っていないのに。
そして担任の先生が入って来て、入学式の説明をした後、自己紹介タイムとなった。
『舞花、自己紹介とか大丈夫?』
前の席の燈葵が心配そうに聞いてくれた。
『うん。さっき隣の席の瀬上くんにもちゃんと自己紹介できたから。』
『そっか。その調子で頑張って。』
『うん。ありがとう。』
そして五十音順での自己紹介が始まった。
少しずつ近づいてくる私の番。
「初めまして。天神燈葵です。趣味はピアノを弾くことです。1年間、よろしくお願いします。」
燈葵の自己紹介が拍手に包まれる中、私は焦る心臓の鼓動を抑えようと頑張っていた。
『頑張って、舞花。』
『何かあったら俺らがフォローするから落ち着いてな?』
『うん。』
そして深呼吸してから立った。
「初めまして。七原舞花です。謎解き番組が大好きです。よろしくお願いします。」
よし、噛まずに言えた。
今日は自分から人に話しかけただけで及第点だ。周りからの拍手が嬉しくて思わず笑顔になってしまった。
『舞花、頑張ったな。』
後ろから佑の囁くような声が聞こえた。私は小さく頷いて笑った。
『佑と燈葵のおかげだよ。』
『そっか。』
次は佑の自己紹介だけど、佑なら大丈夫だろう。
「初めまして!成宮佑です。好きな言葉は"千里の道も一歩から"!1年間、よろしくお願いしまーす!」
自己紹介にあまり興味を示さず下を向いていた人達も佑の大きい声で思わず顔を上げたようだった。こんなに人を惹きつける事が出来るのは佑の才能だと思う。
自己紹介が終わると、入学式までの時間自由時間となった。予想通り佑の席には沢山の生徒が集まって来ている。燈葵もそこそこの人数が集まっていた。
「七原〜、俺ぼっちだから話さねえ?」
「良いよ。私も瀬上くんと同じだから。」
「七原ってどこ中出身?」
「花笠中学だよ。ここから歩いて10分くらいの所にある中学校。瀬上くんは?」
「俺は最近こっちに来たばっか。」
「そうなんだ。」
最近こっちに来たばかりといえば明葉くんを思い出した。瀬上くんの雰囲気って何となく明葉くんと似てるんだよね。
「七原って天神と成宮とは同中?」
「え、うん。幼馴染。私あまり同年代の子と関わってこなかったから友達が少ないんだよね。」
「中学には通って無かったのか?」
「ううん。通ってたよ。でも、私身体が弱くて月に何度かしか学校に行ってなかったし、行っても別室登校が多かったから。」
「そうなんだ。」
少し懐かしそうに目を伏せながらそう言う瀬上くんに既視感を感じた。何だろう、瀬上くんとはいつか会った事がある気がする。
「私、昔瀬上くんに会った事がある気がする。」
「っ!?」
私の言葉に瀬上くんは目を見開いた。
「え、本当に会った事あるの?」
「いや、何でもない。」
瀬上くんは誤魔化すようにそう言った。少し引っ掛かりはしたが、私もそれ以上は追求しなかった。
入学式も終わり、今日もあそこに向かおうと思う。
「七原、また明日!」
「うん。またね、瀬上くん。」
瀬上くんと挨拶を交わした後、佑と燈葵と一緒に昇降口へ向かった。
「舞花、今日もあの丘に行くのか?」
「うん。2人とも先に帰ってても良いよ?」
「俺、今めっちゃ歩きたい気分だから着いてく。」
「僕も。丁度風に当たりたい気分だから。」
「そっか。」
そして3人であの丘に行った。
いつもは人っ子1人居ないあの丘に人の影があった。
「舞花。」
その影の主は……
「明葉くん!?」
「久しぶりだな。」
「そうだね。2週間ぶりくらい?」
「うん。佑さんと燈葵さんもお久しぶりです!」
ニカッと白い歯を見せながら笑う明葉くんは相変わらず眩しい笑顔をしていた。
「別に敬語じゃなくて良いぞ?舞花にはタメなんだし。な、燈葵?」
「うん。敬語って距離あるしね。」
「分かった。それより今日は全員制服着てるな。学校始まったのか?」
と明葉くんが聞いて来た。
「うん。今日は入学式だったんだ。明葉くんはもう中学2年生に進級したの?」
「ん?ああ。それより、今日で14歳になったんだ。」
「そうなんだ!おめでとう。」
すると佑が鞄の中をゴソゴソと漁った後、お菓子の袋を取り出した。
「甘いもん好き?」
「うん、めっちゃ好き。」
「ならこれやるよ。イチゴのグミ。」
「マジで!?良いの?やった!俺、グミって大好物なんだよ。」
「奇遇だな。俺もグミはいつも持ち歩くくらいには好きだぞ。」
明葉くんと佑はとても気が合うみたいだ。
「で、舞花。友達は出来たのか?」
「明葉くん、お父さんみたい。友達って言えるかはまだ分からないけど隣の席の子と話せたよ。」
「あー、瀬上くんだっけ?珍しく舞花が自分から話しかけてたよな?」
「うん。自分でも結構頑張ったと思う。でも、瀬上くんが優しかったのもあるかも。」
「……」
「どうしたんだ?明葉。」
少しぼーっとしている明葉くんに佑が言った。
「いや、何でもない。それより舞花、ちょっとここに立ってみて。」
言われた通り、明葉くんの指した所に立つと首にかけていたカメラのシャッターを切った。
カシャリ、カシャリ……
「何枚撮るつもりなの?」
「俺が満足するまで。佑と燈葵も舞花の隣に並んで!」
「はいはい、分かったよ。」
「3人とも、もっと自然な感じにして。カメラは見なくても良いから。」
それから明葉くんはしばらく写真を撮り続けた。
「ねえ、明葉くんは写らないの?」
「俺は別に……撮る方が楽しいしさ!」
明葉くんがそう言うと佑が明葉くんの方をガシッと掴んで自分のスマホで自撮りをした。
「ほら明葉、もっと笑えよ。」
「佑、幾ら何でもブレすぎ。自撮り下手だな。」
「はあ?自撮りなんて初めてしたんだから仕方ねえだろ。ほら、次は4人で撮るぞ。明葉、変顔するぞ。」
「何その宣言。」
「宣言じゃねえよ。一緒にするって事だよ。」
「嫌だ。だって俺、この顔崩したくねえもん。」
「もん!じゃねえよ、このイケメン。明葉と燈葵と並ぶと俺の顔が薄れるんだよ。」
2人のやり取りに燈葵はお腹を抱えて笑っている。私もつい笑ってしまった。
「じゃ、行くぞー!」
カシャカシャカシャカシャ……
「うわ、連写になってた。ま、良いか。明葉、今度印刷して渡すな。」
「うん、ありがとう。」
明葉くんがそう答えると同時にぐう〜〜という音が聞こえた。
「ねえ明葉、門限とかってあるの?」
「5時半だけど?」
「じゃあこの街を案内するよ。まだこっちに来たばかりなんでしょ?近くに美味しいカフェがあるから。」
そして4人で近くのカフェに行った。
ここは昔から皆んなで来ている所だ。
「あら、舞花ちゃん、燈葵くん、佑くん。今日は入学式じゃなかったかしら?」
「うん。そうだよ。ねえ店長、マスターは?」
「いつも通りカウンターの奥に居るから呼んだら来ると思うわよ。」
このカフェは夫婦で経営しているので、奥さんを店長、旦那さんの方をマスターと呼んでいる。
「後ろの凄い格好良い子は誰?」
「最近知り合った明葉くん。」
「今日14歳になったばかりの明葉です!」
「あら、そうなの?おめでとう。誕生日ならたっぷりおまけしちゃわないとね!」
店長は茶目っ気いっぱいに笑った。
そしてカウンター前の4人掛けのテーブルに座った。
私はここに来たらいつもオムライスを頼んでいる。
燈葵と佑はいつもハンバーグドリアを頼んでいる。
「明葉くんは何にするの?」
「俺は、ビーフシチューが良い!」
「店長、注文決まった。俺と燈葵はハンバーグドリアで舞花はオムライス。明葉はビーフシチューだって。」
「3人ともいつも同じものしか頼まないわね。明葉くん、ビーフシチュー大盛りにしておくわね!」
「ありがとうございますっ!」