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――この場所に来るといつも思い出す。

太陽みたいな貴方の笑顔を。


桜が満開のこの季節。

今日から大学2年生だ。

正直実感が湧かない。

あの春の出会いからもう4年。

彼は今、どうしているのだろうか。


〜〜〜


 私は高校入学を控えている七原舞花(ななはらまいか)。あまり同年代の子と関わって来なかった為か、友達と呼べるのは幼馴染の(たすく)燈葵(とうき)だけ。幸い2人と同じ高校に入学出来たのは良い事だけど、いつまでも2人に頼ってばかりじゃいられない。そう決意すると気付けば高校の門の前まで来ていた。


「ここが、来月から私が通う高校か……」


見上げると伝統を感じさせる大きな校舎が建っており、門のすぐそこにある桜の花弁が舞い踊っている。

つい、見惚れていると、急に強い風が吹いた。


「うわっ!」


私では無い、少し低い声が耳に届いた。

辺りを見回しても、見えるのは宙に舞う桜の花弁と春の空。すると急に肩に誰かの手の感触を感じた。バッと振り返ると私より頭ひとつ分背の高い男の子が立っていた。


「きゃあ!」


「あ、あー、そんなに怖がんないで。俺、明葉(あきは)。明るいに葉っぱの葉。」


太陽みたいに明るい笑顔で挨拶をする彼は明葉くんというらしい。


「……私は舞花。えっと、漢字は舞う花。」


「良い名前だな。ああ、さっきは驚かせて悪かった。なあ、俺最近こっちに来たばっかなんだけどさ、どこかお勧めの場所、連れてってくれねえか?」


「お勧めの場所?……じゃ、じゃあ一箇所だけ。」


そう言って明葉くんを連れて行ったのは少し小高い丘だった。


「ここ、街が一望出来るの。それに風が気持ち良い。いつも気付いたら来ちゃう場所。」


すると明葉くんはどこからかカメラを取り出し、写真を撮った。


「カメラ、凄いね。」


「ああ。親父から譲り受けた。」


「好きなの?」


「ああ!大好きだ!」


そう言いながら笑った彼は夕日に照らされオレンジ色に染まっていた。


「明葉くんって何歳?」


「えー、どうしよっかな〜?じゃあ舞花が当ててみてよ。」


「18歳くらい?」


「ブッブー。もっと下。」


「16歳?」


「違う違う。」


「 15歳?」


「惜しい!」


「14歳?」


「まあ、正解!かな?正確にはまだ13だけどな。来月で14になる。来月から中2だ。」


彼はニカッと笑いながらそう言った。

私より年上だと思っていたのに明葉くんは2つも年下だった。


「明葉くん、私より2つ下なんだ。ちょっとびっくりした。」


「えっ、舞花って 15?嘘だろ!?俺と同い年かと思ってた。」


「私が小さいって言いたいの?」


「え、まあー、そうだな。」


「私が小さいんじゃなくて明葉くんが大きいの!」


私が声を荒げて言うと、明葉くんは私を見ながらお腹を抱えて笑った。そして夕方のチャイムが鳴った頃、


「「舞花ー!」」


幼馴染の佑と燈葵が私の名前を呼びながら来た。


「誰?あの2人。」


「幼馴染。私の2人しか居ない友達。」


「……2人じゃねえよ。」


「え?」


「今日から3人、だろ?」


明葉くんは悪戯っ子のような笑顔でそう言った。佑と燈葵は私に気付いてこっちに向かってやって来た。


「やっぱ、ここに居たな。」


「で、舞花。その子は誰?」


「こちらこの春から中学2年生になる明葉くん。最近こっちに来たらしい。」


「どうも!今日舞花の友達になった明葉です!」


「俺は成宮佑(なりみやたすく)。」


「僕は天神燈葵(てんじんとうき)。よろしく。」


2人は明葉くんに向かって挨拶した後、私の手を引いて少し離れた所へ連れて行った。


『舞花。あの明葉って奴とはどこで出会った?』


『高校の前でだけど。』


『見るからに怪しいのになんでついて行ったの?』


『ついて行ったんじゃなくてここに連れて来てあげたの。お勧めの所を紹介してって言われて。』


すると後ろから明葉くんが話しかけて来た。


「あ、すみません!俺、怒られるのやなんでそろそろ帰らないと。親が来る時間に間に合わないんで。またね、舞花。佑さんと燈葵さんもまた機会があれば。」


そう言って明葉くんは丘を降りて行った。ここに来たばかりだと言って来たのに大丈夫かなと思い慌てて追いかけると、タクシーが居たのでほっと息をついた。


2人の所に戻ると、佑が顔を歪ませていた。


「どうしたの?」


「いや、あいつ、明葉さ、親が来るって言ってなかったか?帰って来るじゃなくて。」


「佑、人の家庭にあまり首を突っ込んだら駄目だよ。それぞれあるんだしさ。」


「そう言ってもさ、何か隠してそうだったし。」


「そうかな?そんな事より僕が気になるのは舞花が初対面の人と友達になったって事だよ。」


燈葵が突然そんな事を言い出した。

佑も頷きながら言った。


「確かに。舞花って人見知りだもんな?」


「私も自分でびっくりしてる。明葉くんが話しやすかったからかな?」


「そっか。新しい友達が出来て良かったな。よし、帰るぞ。おばさんが待ってる。」


 家に着くと少し焦った顔のお母さんとお父さんが玄関で待っていてくれた。


「舞花。急に居なくなるから心配しただろ?どこかに行くならひと言いうか、せめてスマホを持っていきなさい。」


「ごめんなさい。」


「佑も燈葵も舞花を呼んできてくれてありがとう。2人とも今日もご飯食べて行く?」


「「うん!」」


佑の両親は海外赴任で今は7歳上のお姉さんと2人暮らし。

燈葵の両親も共働きであまり家には居ないので、よく家に集まってご飯を食べる。


「私、(いのり)ちゃん呼んで来る。」


「僕も行くよ。」


「じゃあ2人とも姉貴の事よろしくー」


そして右隣りにある佑の家に向かった。

インターホンを押しても出て来ない。


「て事は、部屋だな。行くよ、舞花。」


「うん。」


「お邪魔しまーす」と言いながら扉を開けると、無用心な事に空いている。


「祈ー!」


燈葵が名前を呼びながら階段を登って行く。

私も祈ちゃんの部屋に向かい、ノックをした。

またしても反応が無いのでゆっくり扉を開いた。

祈ちゃんはヘッドホンを付けながら、未だ私達が来た事に気付かず机に向かっている。


燈葵は何度か肩を叩きながら名前を呼んだ後、問答無用というようにヘッドホンを取り上げた。


「っわあ!もう終わりました!!……って、あれ?燈葵と、我が妹舞花!」


祈ちゃんはそう言いながら私に抱き着いてきた。

そして燈葵は私からベリッと引き剥がすように祈ちゃんを退かした。


「おはよう、祈ちゃん。漫画、進んだの?」


祈ちゃんはアニメ化する程人気な少年漫画家。

〆切りが近かったらしく、最近は部屋に篭っていたらしい。


「終わったよ〜!舞花癒して〜!」


「その汚い格好で舞花にくっ付くなよ!さっさとお風呂入って来て!」


「祈ちゃん。お風呂入ったら私の家に来てね。」


「もちろんよ〜!可愛い妹の頼みだもの!」


「だからくっ付くな!舞花、祈の事はほっといて家戻ろ!」


家に戻るとお母さんとお父さんと佑が夜ご飯の準備をしていた。


「おばさん、今日の夕飯何?」


「カレーよ。ちゃんと燈葵くんの大好きな温泉卵も作っておいてるから。」


「ありがとう!」


「燈葵、舞花、祈はどうした?」


「今、お風呂に入らせてる。」


「そうか。相変わらず忙しそうだな。」


そして、サラダの準備を終えた佑がテレビを付けた。


「何か観たい番組があるの?」


「忘れたのか?今日は舞花が好きな謎解き番組の日だぞ?」


「ああー!!そうだった。」


私がそう言うと、お父さんが言った。


「舞花が忘れるなんて珍しいな。いつもは絶対チャンネル変えないでって言いながらリモコン握りしめてるのに。」


「そうかな?」


「ほら、始まるぞ。」


そして謎解きの6問目を解き始めた頃、祈ちゃんがやって来た。


「やっほ、お待たせ〜って誰も私を待ってくれて無いの!?皆んなテレビに夢中!?」


「ちょ、姉貴黙って。あともうちょっとで分かりそうだから。ここまで出てんだよ。」


「祈の所為でこの問題分からなくなったじゃん。」


「"じゃん"って言われても知んないよ!」


祈ちゃんは後ろで「ヤケ呑みしてやる〜!!」と言っているけれど、私はテレビの方に目を向けて謎解きの答えを考えた。


「おじさん、おばさん、付き合って!」


「私は良いけれど、お父さんはお酒弱いわよ?」


「お茶で良いから!」


「じゃあ簡単なおつまみ作るから待ってて。」


「ありがと!もうお姉さん大好き!」


「あら、私もうお姉さんなんて歳じゃないわよ。」


と言うお母さんのはしゃぐ声が聞こえて来た。

番組も終わると、お母さんがご飯をよそってくれた。


「温泉卵は食べたかったらご自由にどうぞ。」


「僕欲しい!」


「私も。」


「俺も俺も!」


そして皆んな揃って夕食を食べた。


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