奥さんの呼び方
ある夜。居酒屋にて、プチ同窓会を始めた三人の男。
「いやー、おれら三人とも結婚できるとはなぁ」
「できるとはなぁって、普通にこっち二人は彼女いたし」
「モテないのお前だけじゃん」
「ううううるさいなっ! あっ、すみません、あ」
「ははははっ、無駄にリアクションデカいところも変わらないなお前は」
「教室でもよく大げさに急に立ち上がってたもんなー」
「いや、そりゃ、ツッコミはね、しないとさ……」
「ははは、でさー、さっきの話の続きなんだけど、うちの嫁なんてさ」
「お、いいねいいね鬼嫁談」
「……あのさぁ」
「うん、なに?」
「どした」
「なあ、今からお互いの奥さんの良いところを言い合わないか」
「は? なんだよ急に。照れくさいというか気持ち悪いだろ、なあ」
「うーん。まあなぁ」
「そんなことないって! さあ、お互いのパートナーの良いところを言い合おうぜ!」
「だから立ち上がるなよ。後ろの席の人に迷惑かかるだろ。で、良いところねぇ……ま、言ってもいいけど……え? パートナー?」
「ん? なに?」
「いや、なんだよ急にパートナーって。そんな呼び方してなかっただろ」
「いやおれ、いつもそう呼んでるけど?」
「いや、嘘つけよ。さっき『お互いの奥さん』って言ってただろ」
「なんならその前はクソ嫁とか言ってたよな」
「そ、それはお前らに合わせたんだよ。そしてお前らは時代に合わせろ。奥さんとか嫁とか家内とか呼び方から家に縛り付けるのはやめろよ!」
「圧が怖いよ」
「とりあえず座ってくれよ」
「ふぅぅぅ……で、パァトゥナーについてだけど」
「急に発音よくするなよ」
「実はお前も照れくさいんだろ」
「まあな、ふふっ、そりゃ最愛の人の話をするわけだからな。照れるさ」
「不自然だって話だよ。お前も普段からそう呼んでないだろ。慣れてない感がすごくてこっちが恥ずかしいよ」
「ま、我が伴侶についてそんなに聞きたいのなら、やぶさかではないが」
「いや、お前も急になんだよ」
「じゃ、そうと決まったところで言い出しっぺであるミーから言おうか」
「ミー!? お前ら嫁さんの呼び方に引っ張られてない?」
「だから嫁さんはやめろよ! 殺されたいのか!」
「だから怖いよその熱量が……大体、人の家の勝手だろうが」
「そういう意識がもう、はぁぁぁぁー」
「うざいなため息が……。でもなぁ、パートナーはなんか『ビジネスパートナー』とか割とすぐ手を切りやすそうだから、おれは嫌だし、伴侶も硬いしなぁ……・。他は女房、かみさん、ママ、配偶者、妻。うーん、やっぱ嫁さんがいいかな」
「かぁー! 前時代的! アレかお前、亭主関白スタイルか?」
「なんだよ亭主関白スタイルって。なんかごっちゃになった言い方で気持ち悪いな」
「うちはストロングスタァァイル!」
「どういう意味だよ。あ、てか、そう言うお前も相手からパートナーって呼ばれてんの?」
「え、いや、うちは……」
「……おい、さっきから余計なこと、くっちゃべってんじゃねえぞ」
「あ、すみません」
「うち帰ったらな覚えとけよなぁ、おい、おいよ、おい」
「すみませんほんと勘弁してください、いた、いたいです、ははは……」
「え、後ろの席、そのプロレスラーみたいな人って、まさかお前の……」
「『おい』って呼ばれてるんだね……すぐ立つのは防衛本能か……」