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スコール

作者: 清水漱平

畑が困ると雨乞いに呼ばれ、荒れて困ると雨避けに呼ばれる。いいように使いまわされるのは子どもの役割らしいけど、それはそれで楽しんでいた。ただひとつ、ぼくがいやでしかたなかったのは、絹をまとうために彼女が着替えるときに、からだが無意識に反応してしまうこと。ついさっきまで小さく柔らかくこじんまりとしていたものが血走るように立ち上がり呼吸をしているかのように脈打つと、さっきまでよりも大きく見開いた目で彼女が凝視してくる。たがいの素肌を観察しながら、「さあ。もう時間だよ」と大人に急かされて役目をまっとうしにでかける。ぼくは彼女を守りながら雨と自らの血に濡れてゆく。彼女は洗い清められて、いつしか絹は消えていて。恥ずかしさと照れくささも洗い流されて、ただ自然に素肌と素肌を重ね合わせて抱き合いながら、「さあさあ、もういいのだよ」と神官にひきはがされるまで、じっと。ただひたすら、じっと。彼女は意識しているのかいないのかわからないが、おれは強く挟まれているのを感じたし、ふんわりとしたスベスベ感に酔いしれて、ゆっくりと我に返ってゆく。アレはあれでいいし、これもこれでいい。つまり、ぼくはぼくでせいいし、ぼくのままでいい。ぼくがぼくのままだからこその関係を築いていこう、と決意した時にはすっかり大人になっていて、あんなこともそんなこともこんなことさえも忘れてしまっているんだ。そういうのも素敵なことだよね。

祈りささげる乙女は素肌に薄い絹まとい

遠くそそりたつ峰から峰への尾根づたいに雲を呼ぶ

そばにつかえるぼくは裸足で砂利を痛がりながらも

乙女の姿に見とれているから

自分の足が血まみれなこと気づかない


見るに耐えかねて洗い流されて

淀む気持ちが悪意ふくらませた


言いなりになりたくないけど

掟のとおりにしたがっている

自我が芽生えたからこその

無意識に宇宙とコンタクト


さあ来る









祈りささげる乙女が繰り出す熱い水しぶき

脆くよみがえるヒビからヒビへの文字うかんで邪気を裂く

そばでささえるぼくが裸で呪詛にあらがいながらも

乙女の姿に見とれているから

いまさら命の保証を求めてもしかたない


去るに逃げかねて洗い清められ

殺す気持ちで善意ふくらませた


言いなりになりたくないから

掟のとおりにしたがってみた

欲が芽生えたからこその

無意識に夢中でコンタクト


さあ来い










祈りささげる乙女は素肌に薄い絹まとい

天を仰いだ

そばでつかえるぼくのまえに

広げた足の奥

吸い込まれそうになる


秘部には隠されてこその美があり

直視のあとで奪われる

無事に生き残りたいなら

天女と知りつつ抱きしめろ



あえぐ あえげば あえぎたもう

まじる まじれ とければひとつ

蜜を味わう時間もないほど

狂い狂わされ惑い惑わされ

あげくの果てに無の世界



さあ来た

平然と、なにくわぬ顔をして再会するのも仕事いや役目のうち。そう理解していたが、別に意識することなんてなにもなかったらしい。なにもかも大人たちは把握していたことであり、彼女もまた同様に理解していて、ぼくも理解の範疇に存在していた。食事の準備が長くなるときは、「さきに体をあらっておいで」と言われるのだけれど、さんざん雨で洗い清められたあとに浴槽のお湯をかぶるというのは不自然な気がしたけれど、雨の冷たさと違って湯の温かさはホッとする。さらにいえば、別に一緒に入らなくてもいいのに、「一緒に入ろう」とぼくが誘うと彼女は黙ってついてきて、お湯をかぶるとき照れくさそうにしている。「さっきみたいにならないの?」と言われたので返答に困っていると、むくむくと勝手無意識な反応がきたから「どういう仕組み?」と質問されても答えようがなかった。なかったのだけれど、「どうもこうも、こういうものだよ」と答えると「うん。そうだね」と視線そらされる。視線そらされながらも彼女はぼくを弱々しく握っているから、不思議だなって思った。さあ、もうしばらく。あとすこし、まだすこし。そうやって時間を増やす。もうこれ以上さすがにむりだろう、ってなってから戻る。さあ、なにくわぬ顔に戻る時間だ。大人たちが待っている。あげたての野菜が迎えてくれるだろう。旬の食材が高温調理されて、おいしそうな蒸気を放っているにちがいない。ぼくは彼女のあそこをふと思い出しながら「またあとで」と耳打ちしてみる。なにか言われた気がしたが、よく聞き取れなかった。

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