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20 昔語り


 リスト爺ちゃんは、静かに、全てを、語った。



 ---



 昔々、全ての世界を巻き込んだ大きな争いごとがようやく集結した頃。



 当時はまだまとまりが無かった精霊界、


 霊格の高さから代表候補となった精霊がふたり。


 スレイルータさんと、リストさん。



 愚者が権力を持つと、ろくなことが起きない。


 一番優秀な者が全てをまとめ上げるべき、という生真面目派、


 スレイルータさん。



 争い事が起きたら、そういうのが嫌だっていう者たちが協力し合って解決すれば良い。


 みんなもっと気楽に仲良く暮らそうぜ、という呑気派、


 リストさん。



 本人の霊格も、慕う勢力も、ほぼ互角。


 精霊界は、まっぷたつに割れる。



 でも、精霊界をも巻き込んだ酷い争いが終わったばかりで、


 精霊たちは争いごとはもううんざり。


 平和的なやり方で統一してくれるなら、ふたりに全てを任せるっていうのが、精霊界のみんなの総意。


 つまりは、ふたりに丸投げ。



 困ったふたりは、気が合わないなりに相談。


 みんなが俺たちを互角だと言うのなら、


 みんなから認められるような妻を娶った方が勝ちってことにしようぜ。



 つまりは、嫁探し勝負。



 精霊界だけじゃなく、交流のあるすべての世界を巡っての、嫁探し。


 そしてふたりは、同じ女性を選んだ。



 フェルマーシュさん。



 精霊ではなく、人族。


 精霊界でも話題になっちゃうほどの凄い美人さん。


 人族らしからぬ霊格の高さと、誰よりも優しい心、


 みんなを癒す旅を続けていた。



 スレイルータさんが惹かれたのは、フェルマーシュさんの知性。


 高い霊格と豊富な知識を活かした魔法で人々を癒すのみならず、


 みんなの揉め事悩み事に最高の解決策を授けてくれる、素晴らしい知性。


 この人と一緒なら精霊界だけでは無く、全ての世界に平和をもたらす方法を見つけられる。


 自身の知性に絶対の自信を持っていたスレイルータさんだからこその、絶対の信頼。



 リストさんが好きになったのは、フェルマーシュさんの優しさ。


 面倒ごとの数々に心底疲れていたリストさんを、


 優しく癒してくれたのが、フェルマーシュさん。


 フェルマーシュさんの優しさは、周りのみんなに分け隔てなく注がれていたものだったけど、


 ずっと特別視されてきたリストさんにとって、特別扱いされないことこそが、初めて感じる心地良さ。




 突然現れたふたりの精霊から同時に求婚されたフェルマーシュさん。


 大弱り。


 でも、ふたりが本気なのは分かるから、私も本気でお相手します。


 まずは、ふたりの話しを聞いてみる。



 スレイルータさんのお話し。


 願うのは平和、求めるのは知恵。


 知性で理性を後押しすれば、平和は必ず訪れる。


 反省しない愚者に活躍の場を与えてはいけない。


 平和を乱す者は、誰であろうと、赦さない。



 リストさんのお話し。


 願うのは自由、求めるのは優しさ。


 良い事、悪い事、選択はその人次第。


 ただし、選んだ結果は、必ずその人が受け入れるべき。


 みんなが自由に進む道を、優しく見守りたい。




 フェルマーシュさんが選んだのは、


 リストさん。



 スレイルータさんは、全てを受け入れて、身を引いた。



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