17 相談
ヴェルクリの領主様、バルモルトさんにカブトムシを渡して、依頼完了。
これからエルサニア王都へ生きたまま輸送するみたいですけど、
国定飼育士の資格を持っている飼育士さんが、責任を持ってお世話してくれるそうです。
良かった、特定の部位が必要とか、丸ごと標本とか、そういうのじゃなかったよ。
あちらでの用事が済み次第、"騎兵下ろしの森"まで運んできて、森に帰してくれるって。
でもその用事の内容、貴族さまの結婚にカブトムシが必要な理由は、未だ謎のままなのです。
「済まない、私にも儀式の詳しい内容は教えてもらえん」
バルモルトさんもご存じなかったのですね。
でも、貴族さまにも狩人にも、アンタッチャブルなことってありますよね。
「今回、フォリスさんには大変に世話になった」
「落ち着いたら、是非またこの街に、ご夫婦揃って」
はい、今度はもっとゆっくり落ち着いて、ふたりでヴェルクリの街を楽しみたいです。
では、僕はそろそろ。
バルモルトさんもニケルちゃんも、お元気で。
「……それと、カミス君にも、よろしく伝えて欲しい」
「最近はモノカさんとのお熱い噂ばかりなのだが、どうなっているのかな、と」
はいっ、必ずお伝えしますっ。
それでは、失礼しますっ。
うひゃぁ、バルモルトさんの"圧"、ハンパないって。
超がんばって、カミスさん……
---
バルモルトさんのお屋敷を脱出、じゃない、退出したのは僕ひとり。
マリオネさんたちには、今回のカブトムシ王国での冒険譚をニケルちゃんにお話しするという特別重要任務が。
なにせ『チームニケル』のリーダーを置いてっちゃったんで、ニケルちゃん、かなりおかんむり。
"圧"をかける様子が、親娘そっくりなんだから……
でもニケルちゃんは、今はお勉強優先でも良いんじゃないかな。
冒険者としての大冒険も、フィアンセのカミスさんとのらぶらぶも、
素敵なレディに成長してからでも遅くはないのですよ。
うちのシュレディーケさんみたいにねっ。
さあ僕も、素敵なレディことシュレディーケさんの待つ我が家へ!
---
『ゲートルーム』目指して、いそいそと『ヴェルクリの家』へ。
「ご無事でなによりでした」
"カブトムシ捕り"、思ってた以上の大冒険でしたよ、フラットさん。
本当に、無事に帰ってこられたのはマリオネさんとアニーニさんのおかげです。
それで、実はフラットさんに相談ごとがあるのですが、よろしいですか。
「僕にできることなら」
ありがとうございます。
えーと、今回の件のお礼をマリオネさんとアニーニさんに、って考えてるんですけど、
おふたりに特別に喜んでもらえそうなモノ、
フラットさんなら何か心当たり、あります?
「うーん、どうだろ」
「僕って、人の気持ちとか理解するの苦手なんで、あのふたりが喜んでくれそうなモノとか急に言われても……」
あちゃあ、もしかして僕、またやらかしちゃったのかな。
ちゃんとロイさんから聞いてたんだけどな、フラットさんの悩み。
おふたりとの付き合いの長いフラットさんならって思ったんだけど、
親しい友人だからうんぬんの前にフラットさんのことを考えてあげるべきだったよ……
「そうだ、あれなんかどうだろ」
何かひらめきました?
「この街の大通り商店街に、冒険者用品を扱う立派な店があるんだけど、そこのショーウィンドウに飾られているテントを、あそこの前を通るたびにふたりで眺めてるんだよね」
「前にスズナから聞いたんだけど、あのふたりの冒険者としての目標、だったっけ」
「実は僕が以前使っていたのと同じ型式のテントなんだけど、あの店で一番高いだけあって凄く快適なんだよね、あれ」
「僕がアリシエラさんから魔導テントをもらった時に、僕のお古だけど良かったら使ってって渡そうとしたら、自分たちでこのテントを買えるくらい凄い冒険者になるのが目標だからって断られちゃって」
「あれ? ってことはつまり、あのテントはフォリスさんのプレゼント候補にはならないってことだよね」
「ごめんね、フォリスさん。 やっぱり僕は人の気持ちを考えるの苦手みたいだ」
……ありがとうございます、フラットさん。
「?」
フラットさんがみんなのことを一生懸命に考えてくれたみたいに、
僕も自分で一生懸命に考えてみますね。
「えーと、よく分からないけど、どういたしまして、かな」
それじゃ、我が家に帰って、無い知恵絞ってがんばんなきゃ。
おっと、違う違う、
そもそも我が家には、僕なんかよりも冒険者として経験豊富な素敵な奥さんと、
誰よりも気配り上手な素敵なメイドさんがいるじゃないですかっ。
悩んでないで早いとこ相談しなきゃ!
「うん、それなら良く分かるよ」
「僕もひとりでは分からないことでも、スズナに相談すればだいたい解決しちゃうし」
つまり、お互い素敵な家族がいて幸せってことですねっ。
「うん、まあ、そんな感じで」
それでは、ありがとうございましたっ。
「お疲れさま、気をつけてね」




