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10 樹


 朝、朝食作りにも一切の手抜き無しのマリオネさん、


 疲れで食欲が落ちてるアニーニさんに、世話焼きの嵐。



 いかんぞこれ、ずっとこんなの見せつけられてたら、シュレディーケさんに会いたくなっちゃってたまらんっての。


 こりゃ何としても、今日中に、爺ちゃんの依頼を達成せにゃならぬ。



 しゃあなし、今こそ決断の時!


 裏ワザっていうか、人類が手を出してはいけない領域の、禁断の技を。



 ……ねえリスト爺ちゃん、精霊の技とかでデッカいカブトムシ見つけらんない?(おねだりの小声)



「やっちゃっても良いのかの、フォリスちゃん」(小声)

「狩人のプライドやら何やらは?」(やや非難するような小声)


 背に腹はかえられぬ、っていうか、早く帰りたいので、ぜひ!(懇願の小声)



「じゃあ、とっととやっちゃおうかの」(呆れの小声)



 …………(つぶやき)



 爺ちゃん、何やら詠唱中。



「ほい、あっちの方かの」



 ---



 てきぱきと撤収作業完了。


 自信満々の爺ちゃんに導かれるまま、


 着いたところは、やたらとデカい大樹がある開けた場所。



 ここに、ヤツが、いる。



 なんて、それっぽいこと言いそうになったけど、本当は分からんって。


 虫の気配なんて読めませんよ、普通の狩人ですもん。



 ってか、あんなデカい大樹、


 何でこんなに近くに来るまで気づかなかったんだろ。



 ---



 ……はて、いませんね、特大カブトムシ。


 全長2mの大物に勝てるような超大物だったら、すぐにでも見つけられそうなもんですが。



「フォリスさん、たぶんあの辺りです」


 マリオネさん?



「私の固有スキルって『五感強化』なんですけど、それによると大樹の幹のあの辺りに、見えないけど何かいるっぽくて」



 マリオネさんが指差す方向は、やたらと背が高い大樹の、幹のちょうど真ん中くらいの高さ。


 ……目を凝らしたけど、何も見えず。


『Gふなずし』の『探索』の感度を調節しても、表示に反応は無し。




 でも、パーティープレイでは仲間を信頼することが何よりも大切って、シュレディーケさんも言ってたし。


 うん、ちょっと登って、調べてくるね。



「大丈夫かの、フォリスちゃん」


 せっかくリスト爺ちゃんのチカラまで使ってもらったんだから、僕もできるだけのことをやらなきゃね。



「お気をつけて……」


 はい、アニーニさんは、引き続き周辺警戒の方、お願いしますね。



 では、行きますか。


 森で育った野生児フォリス、


 樹登りだってお手のもの!



 ---



 樹皮が良い感じにゴツゴツでガチガチなおかげで登るのは楽だったけど、


 こんなことを命綱無しでできちゃう樹登りの技、さすが僕。


 しかし、ぺたりと樹に張り付いてわさわさ登っているこの状態は、


 さながら人間カブトムシ。



 こんなアレな姿は、シュレディーケさんには見せらんないよ。


 てなこと考えてるうちに、大樹の真ん中辺りまで来ちゃいました。



 高っ!



 見上げるのと見下ろすのって、こんなにも感覚が違うのね。


 えーと、マリオネさんが指差してたのは、確かこの辺りだったはず……



 さわさわ


 ……?



 おや、なんぞコレ?


 目には何にも見えないけれど、


 何やら妙な手触りが……



 バタバタバタ



 突然の突風に、


 あえなく落下した、僕……



 近づく地面、


 マリオネさんの悲鳴、


 そして……



 グシャリ



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