三角関係?
オレにはとっても可愛い彼女がいる。マシュマロみたいな白い肌。少女漫画みたいな大きな目。極めつけのスタイルは、うちの高校のザ・真面目制服さえもさらりとエロく着こなしてしまうほど。まあ、この高校で、ちょっとしたスターであるオレには、ぴったりの彼女って訳だ。
オレ、金村哲人は、サッカー選手権大会で我が校を県代表にした立役者だ。決勝戦での逆転の左足ドライブシュートは自分で言うのもなんだが圧巻だった。そのシーンは何度もダイジェストで放映され、年齢層も幅広くファンができた。
「哲ちゃん、待った?」
スマホから顔を上げると殺人級の可愛い笑顔で桃田樹里が立っていた。一瞬見とれて、思わず返事をするのも忘れる。
「い、い、いいや」
舞い上がってるのがバレたかな。
「ちょっと奥に詰めて」
樹里はオレを奥にずらさせると、フワッと横に座ってきた。
「久しぶり! 哲ちゃん、部活、部活でなかなか会えないんだもん」
上目遣いの顔が近い。
「ごめん。なかなか部活のオフってなくて」
そう言いながら、密着してくる体に意識が持っていかれる。オレの上腕三頭筋にムニュッと当たっているのはもしかして。
「あ、見て見て。樹里のインスタ」
樹里は、ますますオレに体を密着させると、自分のスマホの画面を見せた。制服姿の樹里のアップ。場所はグランドかな。
「可愛いじゃん。」
この言い方で正解か? サッカー三昧で女の子と付き合ったことなんて実はないけど、少しでも手練れた感を出しておきたい。
「でしょ。それに私のずっと向こう側見て! 小っちゃく写ってるの誰だ?」
スマホを受け取り、画面を大きくした。
「ピンクのスパイク、もしかして、オレ?」
「当ったり! 樹里、ホントは一緒に写真撮って、わたしの哲ちゃん! ってインスタにあげたいのに、うちのサッカー部、恋愛禁止だし、ファンが多いし、仕方なく、これ」
樹里は少し唇を尖らせた。本当はオレと付き合ってるってみんなに言いたいだろうに、こんな写真で我慢してくれてる。なんか、樹里って性格も健気ですっごく可愛い。
「一年待って。三年で引退したら解禁だから」
樹里の頭にポンッと手を置いた。その時、
「金村哲人じゃん」
背後で声がした。抑揚のない低い声。樹里の頭からサッと手を離すと、オレと樹里は同時に振り返った。見覚えある顔。誰だっけ?
「久遠先輩」
オレが思い出すより先に樹里が名前を言った。そうだ。ユニフォーム姿じゃないから印象違うけど、夏の甲子園に出場したうちのエース、正真正銘、久遠迅也だ。
「最近、ライン送っても既読つかないけど、何? オレら、別れたってこと?」
樹里に詰め寄る久遠迅也。オレはその胸を手で制した。
「樹里に近づかないでください。先輩だったんですか。樹里が言ってたてしつこく付きまとってくる男って」
「は?何それ。甲子園終わってから、何度も会いたいって誘ってきたのはそっちだろ」
オレはチラッと樹里の横顔を見た。怯えた目をして、口元を両手で覆っている。
「ドラフトに声がかからなかった途端、音信不通かよ。そんで今度は、今をときめく金村哲人って訳だ」
ドン。久遠迅也が椅子を蹴った。
「ドラフトに指名されなかった鬱憤ですか。彼女には関係ないでしょ」
樹里を守ろうと、肩に手を回し、引き寄せようとした瞬間、樹里はその手をスルッとすり抜けた。いつから居たのか、店の入り口に佇む大柄な男に樹里は駆け寄った。
「先輩たち。未練たらしく樹里ちゃんに付きまとうのやめてもらっていいですか」
これも見覚えのある顔だった。
「かあくん。怖かったあ。久遠先輩と金村先輩、なかなか分かってくれなくて。樹里の好きなのはかあくんだけだって言ってるのに」
樹里はその男の腕に手を回した。
「二度と樹里ちゃんに近づかないでください。約束守れないなら、いつでも、僕、相手になりますんで」
男は、オレの太ももくらいある腕を見せつけると、クルッと向きを変えた。樹里は、クスッとあの殺人級の可愛い笑顔を残すと軽やかに去って行った。
オレと久遠迅也はただぼんやりと立ちすくんだ。
「サッカー部、全国大会、二回戦だっけ?」
「はい」
「ラグビー部は、花園、準決まで行ったよな」
久遠迅也はそれだけ言うと、その場から去って行った。オレは力が抜けたように、ストンと椅子に座った。所在なくスマホを触っていると、インスタを開いていた。新しい投稿。可愛い樹里のアップの向こうに小さくラグビー部のユニフォームが見えた。