山が削れる
俺は山だ。
もうすぐ、この山でトンネル工事が始まるそうだ。
トンネル工事は、穴をほって、人や車が通れる道をつくるためのものだ。
大きな機械を使ったり、たくさんの人の力が必要になる。
トンネルを掘って体を貫通させられるのは痛いが、仕方がない。
それは、弱い人間が、文明を発展させるためだから。
だって人間、あっちからこっちにいくために、山の中でしょっちゅう迷子になる。それは可哀そうだし。
それに山を迂回して、何時間もかけて移動するのは不便だろうし。
だから、仕方ない。
強い奴が弱い奴のために、我慢してやらないとな。
決意を固める。
やがて工事が始まった。
ドリルが山を削っていく。
じっとしながら、それに耐えた。
それが何日も続いた。
長い間絶えた山の下の方で人間達が喜んでいた。
「やった、これで便利になるぞ!」
そうか、良かったな。
自分達には心があるけれど、人間達が気に病まないように、その事は黙っていようと思った。