鏡の中のIris-アイリス-
昔々ある所に、綺麗な物や可愛い物が大好きな少女がおりました。
そんな彼女の宝物は、今は亡きおばあちゃんの形見である、アンティークの姿見。
彼女は、そんな綺麗に装飾が施された鏡に、自分の姿を写すのが大好きでした。
不思議な不思議なその鏡は、自分の姿を写した時に、うっすらと綺麗な花が写し出されるのです。
『この鏡は、魔法の鏡なんだ。前の持ち主の想いを掬い上げて、次の持ち主を護ってくれる。 私が、私のおばあちゃんから受け継いだ物なんだ』
『前の持ち主の気持ちが、花となって写し出されるんだ。 ほら見てごらん?白くて可愛いアイリスの花が写ってるだろう?』
『そんなに気に入ったのなら、私の次は、イリス、お前にあげようね』
大好きだったおばあちゃんが死んじゃった時は、とても悲しかったけど、ママから「生前お婆ちゃんが言ってたから」と言って、この姿見を渡された時は、とっても嬉しかった。
だって、自分の周りに小さなアイリスがたくさん写って、まるでお姫様になった気分になれるから。
それに、この鏡は、次の持ち主を護ってくれるって言っていた。
きっとおばあちゃんが、私を護ってくれてるんだ。
おばあちゃんがいなくなってから、パパとママは喧嘩が多くなったけど、私には優しい。
学校では、仲が良かったお友達は転校してしまったけど、新しいお友達は出来た。
歩いていたら、上から植木鉢が落ちて来た事もあったけど、怪我はしなかった。
このあいだも、風で飛ばされた帽子を追いかけて、土手から滑り落ちた時、木の枝が脇腹に刺さって痛かったけど、命に別状はなかった。
最近は、嫌な事ばかりが起こる。
でも、きっとおばあちゃんの姿見が護ってくれてるんだよね?
あの時、姿見に写ったおばあちゃんの周りに浮かぶ白いアイリスを眺めていた私に、おばあちゃんは『白いアイリスには、“希望”や“思いやり”と言う意味があるんだよ』『前の持ち主の想いが強ければ強いほど、たくさんの花が浮かび上がるんだよ』
――って、教えてくれた。
姿見に写った私の周りには、埋め尽くす程たくさんのアイリスが写し出されている。
おばあちゃんの、白いアイリスも可愛かったけど、私はこっちの色の方が好きだな。
――お姫様のティアラのような、綺麗な黄色のアイリスの方が……