表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/40

第九話  盗まれた週末

 ショッピングセンターの最上階、建物のちょうど中央ぐらいのところ。



 ATMが並び、受付カウンターが置かれている広場風のスペースに、俺と徳子は座らされている。



「ゴメンねぇ、終わるまで邪魔しなけりゃ、悪いようにはしないからさ」



 俺と徳子をはさみうちにして捕獲した3人組のうち、一番年長と思われる男が話しかける。



 もう一方、ガードマンを押さえつけていた4人組は、ATMを開けさせ、ガードマンに中の紙幣をスポーツバッグに詰めさせている。



 リーダー格と思しき男…さっき話しかけてきた男だ…はしきりに時計を見ている。



「あと7分!」



 犯行開始からの時間のカウントをしているようだ。ということは、今のは通報から警察が駆け付けるまでの残り時間ということか。


 俺はショルダーバッグのファスナーを開け、奥のポケットに忍ばせていた小瓶を取り出す。



 隣の徳子がヒジで俺を軽く小突く。



 徳子は軽く二度ほど首を振った。



「ダメ。ここは、ダメ」



 声を押し殺して囁く。



 徳子の考えもよく分かる。リーダー格の男が呼びかけていた時間はあと7分。つまり、7分やり過ごせれば、コイツらは何らかの方法で退散する可能性が高い。



 それに、ここはショッピングセンターのド真ん中。すでに、この広場を大きく取り巻くように、野次馬が人だかりを作っている。

 こんな環境下で能力を発動させ、目立ってしまうことはない。動画でも撮られていたらどうするんだ。



 ただ、この能力をハッキリとした形で自覚し、その実態を研究している中、実戦データが欲しい気持ちも正直ある。あやめさんの作ってくれた強化スーツの威力も知りたいし、何より、能力のせいか、この状況にほんの少しだけ、ワクワクしている自分もいる。



 どうしたら、野次馬の関心を引かずに戦えるだろう。



 どうしたら、この7人を倒せるだろう。



 俺は徳子の視線をかわしながら、それだけを考えていた。



*************************************



 俺達がいる広場は、左右の通路を結ぶかたちのスペース。ほとんどは連絡橋でしかないが、案内カウンターのあるこの中央スペースだけはかなり大きく、左右には柱もある。前後は吹き抜けだ。



 そもそも、アイツら、野次馬に囲まれたこの状況でどうやって逃げる気だ?



 そう思いながら、吹き抜けの下を覗き込んでみる。



 2フロア弱、5メートルほど下に大きなネットが貼られている。転落防止用だろう。そのすぐ横には下りのエスカレーターがナナメに横切っている。



「あと6分!」



 ここにあるような、比較的大型のATMに収容される紙幣の枚数は最大で1万枚弱。これだけ大型のショッピングセンターだ。ATM利用者も相当だろう。定期的に紙幣の収容スペース管理に訪れるガードマンを襲撃したということは、メンテナンス時の内部の紙幣は満タンに近いと想像できる。

 数えてみると、ATMは全部で5台。全部1000円札、ということも、全部10000円札ということもないだろう。ということは、満タンで1台平均約4000~5000万として、5台で2億ちょっと、ということか。



 行き当たりばったりの犯行じゃない。下のフロアにも仲間がいる可能性がある。



 もう一度下を覗くと、やっぱり! エスカレーター付近に1人、様子を伺うように見上げているヤツがいる。おそらく、逃走時間になったらエスカレーターを非常停止させ、ネットに落ちて来る仲間を誘導する役だろう。



「あと5分!」



 佳境を迎えている現金袋詰め作業を見回しながらリーダー格が叫ぶ。



 ヤツらの段取りは分かった。ちょうど、さっき飲んだドリンクの効果も少しづつ出始めてきたようだ。頭のズキズキ(これだけは何とかしてほしいのだが)が始まっている。



「徳子、いいか、あと3分、とアイツが叫んだら、一目散に左側の、あの人混みへ走れ」


「…何する気?」



「アイツらは追って来ない。飛び降りて下のネット伝いに逃げる気だ。人質は逃走の妨げになると知ってる連中だ」



「…タダシも一緒に…!」



「徳子、逃げやすいように、このあと少しづつ左側に動け。少しづつでいい」



「…!」



 そう言うと、俺は徳子の方を向いて、すばやく立ち上がった。

ご覧いただき、誠にありがとうございます。

よろしければ、次回もまたお付き合いください。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ