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第四話 まずいリズムでベルが鳴る

 どうしてだ。なんでこうなった…。



 目隠しされ、車に乗せられて、かれこれ1時間近くは走っただろうか。



「降りな」



 車から降ろされ、目隠しを外されると、そこは鬱蒼とした木々に囲まれた、廃墟のホテル跡だった。



 ついてこい、とばかりに、車を運転していた男がアゴで合図する。あたりを見回しながら、そいつの後に続き、俺は廃ホテルの中へと入って行った。



「徳子は…徳子は無事なのか?」



 男は返事をしない。



 入って右に曲がると、フロントだったと思しき古びたカウンターの上に、徳子は座らされていた。



*************************************



「フム。よくまあ、ひと月も継続できたな」


 筋トレ終了後、ヘバって水(あやめさんのラボ特製。一度説明されたが中身の名称は覚えきれなかった。要するになんか入ってるそうで、微妙に鉄臭い味がする)を飲む俺に、あやめさんが声をかける。



「やれって言ったの、あやめさんでしょ」



「おかげでデータも随分集められた。アルカロイド摂取から徐々に発動することも分かったし、フル発動から30分弱で効果が切れることも分かった。体の方は問題ないか?」



「なんだか、前より陽気になったように見えるけど、大丈夫みたいですよ」



 俺用に用意されたボトルの水をひと口飲んで、マズっ、と吐き出した慶太が答える。



「陽気って何だよ」



「言葉の通りだよ。徳子サンとの朝のランニングのおかげかな?」



「なんでそうなるんだよ」



「言葉の通りだけど?」



 意地悪く微笑む慶太。徳子、と聞いてちょっと不機嫌そうなあやめさん。なんで不機嫌?



「まあいい…。一番の問題は、発動によるタダシの体への影響だ。パワーとスピードが与える負荷だけじゃなく、発動後の心臓への負担が、まだ判明していないからな。副作用も気になるし」



「今んとこは、ダルかったり筋肉痛になったりしてるけど、トレーニングのせいかも知れないし、何とも言えないかな…」



「心臓が苦しいとかはないか?」



「いや、特には」



「そうか。とりあえず、発動は極力控えて欲しい」



「分かった」



「それと、これを渡しておこう」



 あやめさんが小瓶が何本か入った袋をよこす。



「何ですか、コレ?」



「アルカロイド濃縮液だ。ようやく渡せるレベルのものができた。要は発動ドリンクだな」



「いま、発動は控えろって」



「単に、不測の事態のために予備を渡しておくだけだ。これで、実験のためにいちいち辛い物を食べなくても済むぞ」



「あやめさん~」



 俺は心底嬉しかった。だってこのひと月、発動状態でのテストがしたいって、ラボで何キロキムチ食ったか! 何本唐辛子をかじらされたか! 何本タバスコ飲んだか!



「これで胸やけと胃痛から解放されるー」



 ちょっと涙が出てきた。



「ねえさま、優しいんだね」



 微笑む慶太にあやめさんはなぜか顔を赤らめる。



「か、考え過ぎだ! 私も部屋中に唐辛子の匂いが充満するのに耐えられなくなっただけだ」



「はいはい」



 時々、慶太は妙に「知ってますよ」的な、微笑みを見せる。今もそんな顔だ。



「強化スーツの方も急がせている。まだまだ、こちらには足を運んでもらうぞ」



***********************************



 翌日、朝6時。



 毎日悩ましい恰好でやってくる(本人は微塵も気にしていないが)徳子を待つ。早起きにももう慣れた。



 6時半。徳子は来ない。



 おかしい。そもそも徳子は遅刻というものをしない。部活も学校も、時間前には必ず来るタイプだ。腹でも壊したか?



 家、行ってみるか。



 ランニングがてら、徳子の家に向かう。



 我が家から走って3分ほど。徳子の家は、この界隈ではそこそこ大きな豪邸だ。敷地内に歩道橋と信号がある、と言われて都市伝説化している長谷川邸ほどの規模ではないが、徳子の家も相当なものだ。



 家の前でスマホを取り出す。メッセージなし。ひょっとして、まだ寝てるのか?



 その瞬間、けたたましくスマホが鳴った。徳子からだ。いま起きたとか?



*******************************



「…誰だ、お前?」



 着信に出たが、徳子は話さない。いや、多分コイツ、徳子じゃない。



「ヤマザキタダシ、だな?」



「徳子は、徳子はいるのか?」



「黙って聞きな。お前の学校に向かう途中のコンビニに、白いバンが停まってる。それに乗れ」



「徳子を出せ」



「話してんのはコッチだ。黙って来い。来なかったら…分かるよな?」



 そのまま通話は切れた。すぐリダイヤルしたが、電源を切られたか。留守電にしかならない。



 行くしかない。俺は発動ドリンクを取りに自宅へ急いだ。



*************************************



「徳子!」



 カウンターの上に座る徳子は、毎朝我が家にやって来るときの、あの悩ましい恰好(繰り返すが本人は微塵も気にしていない)だ。コーヒー片手に、パンを咥えている。



「タダシ。ごめんね」



「どうした? 無事か?」



「よく来たねー、ヤマザキタダシくん?」



 カウンターの奥から、ゆっくり男が出て来る。



 体つき、立っているその姿勢ですぐに分かる。コイツは何か格闘技をやってる。



 空手か? ボクシングか?



 ソイツの横には、日下と小島。後ろにはバンの運転手。俺と徳子は、いま4人の男に囲まれている。



「日下、小島…お前ら」



「そ、そんなつもりじゃ、なかっ…」



 消え入りそうな声でモゴモゴ話す二人。



「コイツらに聞いたんだよねぇ。ヤマザキタダシ、お前コイツら、秒で吹っ飛ばしたんだって?」



「…だったら何だ」



「一応さ、コイツらウチのジムの後輩なのよ。ヤマザキタダシちゃんレベルのヤツなら、簡単に叩けるはずなんだけど、ねぇ?」



「徳子を放せ」



「興味持っちゃったんだよねぇ、オレ。コイツら秒で吹っ飛ばすって、どんな技よって」



「徳子を放せ」



 ニヤついたその男が、ゆっくりジャージを脱ぐ。予想通りの、よく絞られた身体が現れた。

ご覧いただき、ありがとうございます。

ぼちぼち更新ですが、良かったらお付き合いください。

よろしくお願いいたします。

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