第三話 ゴーゴーヘブン
出ているものには、どうしても目が行ってしまう。
まして、それが校内でも人気の美少女の、リズミカルに揺れるヒップとなれば、健全な男子なら目が離せないのは当たり前のことだ。
「おにぃちゃーん? 徳ちゃん、迎えに来てるよー?」
妹が俺のベッドから布団をはぎ取る。
いま何時よ? 6時!?
「ダメ…もう…少し…寝る」
「何言ってんの? 今日からランニングなんでしょ? 徳ちゃん待ってるよー?」
「…ZZZ」
「あー、もう! やっぱり寝てた!」
俺の部屋に徳子が上がり込んで来た。勘弁してくれよー、とつぶやきながら薄目を開けたのだが、そこで目にした徳子の姿をチラリと見て、俺は即覚醒した。
白のタンクトップにショートパンツ。肩からちょっと下くらいまである髪を束ね、ポニーテールにしている。
それより何より、その胸! その尻!
何という育ち具合! まったくいつの間に…オニイサン聞いてないぞ?
それに、ガンガン湧き出てくるようなボディソープの香り…。ああ神様。朝っぱらからコレは何のご褒美ですか?
「徳ちゃんゴメンねー、朝からおにぃちゃんのランニングに付き合ってもらっちゃって」
「ああ、いいのいいの。いつも部活の朝練で早起きだし、ダイエットもしたいし、ね」
もう一度、俺の目が上下して徳子の体のラインをなぞる。
「それな」
パコーン!
全力で徳子が振り下ろしたスリッパが俺のアタマに命中する。
「くだらないこと言うヒマあったら、早く準備する!」
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あやめさんのラボからの帰り道。渡されたトレーニングメニューを見ながら、
「これは絶対続かないね」
と二人に口をそろえて言われた。
「あ、じゃあ、朝練の前にわたしがランニングに連れ出してあげるよ」
「じゃあ、ボクは放課後。ねえさまのラボに一緒について行って、中のジムで筋トレを手伝ってあげるね」
こうして、俺が何も言わないうちに、二人して俺のトレーニングコーチの役割分担をテキパキと決めていった。さすが幼馴染、俺の性格、よくご存じで。
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部活に興味がないからよく知らんのだが、徳子はテニス部でも上位のプレーヤーらしい。加えて、あやめさんのようなキリッとした感じではないが、ちょっと甘めの顔立ち。そして出るトコ出たこのスタイル!
そらまあ、男子は夢中になるよねぇ。
それより、この状況、ウチの学校のヤツに見られたら、大変なことになりそうだ。
「ホラ! サボってないで、しっかり走るっ!」
時折振り向く徳子。そのたびに、甘ーい香りが俺の鼻めがけて飛び込んでくる。
リズムよく揺れる、形のいい尻。
あくまで俺の私見だが、日本の女の子のお尻はなんだが四角くて大きく、平べったいカタチをしてるような気がする。その点、徳子のは、運動してるからなのか、キュッと締まっていて、惚れ惚れするカタチをしている。大きさも絶妙だ。
いかんいかん。コイツと一緒に走ってると、数十秒に一回はヤマシイ気持ちが頭をよぎってしまう。
心肺機能が優れている、とあやめさんは言ってたけど、なるほど。普段大して運動をしてない割には、徳子の速いペースのランニングに、それなりについていけている(後で相当筋肉痛に見舞われるんだろうけど)。汗も大してかいてはいない。
「…フゥ。じゃあこの辺で、ちょっと休憩」
丘の上にある、見晴らしのいい公園、首に巻いたタオルで額の汗を徳子は拭いている。
汗まで甘い香りなのか! スミマセン、コレ毎日続いたら、俺の精神衛生の方が心配なんですけど。
「なかなかやるじゃない? 途中でヘバるかと思ってたけど」
「昔から、走るのは苦手じゃなかったから」
「そうねぇ。タダシは走るのだけは速かったもんね」
「だけ、って何だよ?」
「その他のスポーツはまるでダメ。ルールが複雑なものほど、てんで使い物にならなかったもんね?」
「だいたい、身体を動かすのに難しいルールを決める方がどうかしてるんだ。スポーツは単純な方がいいの」
ハイハイ、と生返事をしながら、徳子が俺の隣に腰を下ろす。うわコレ、徳子狙いの男子だったら神イベントだわ。
「で? どうするつもり?」
「何が?」
「特殊能力。発動しないようにするのは分かるんだけど、なーんか、このまま続けてたらタダシがあやめさんの実験台になっちゃうような…」
「実験台って」
「ゴメン、言い方悪かった。でも、なんか話が大事になっちゃうような気がして…」
「今は、俺にも分からない。でも、あやめさんに手伝ってもらって、まずはこの体がどうなってて、何が起きてるのかをちゃんと知りたい。正直、自分で自分の力をコントロールできないって、やっぱ怖い」
「そっか…」
「今は、あやめさんのラボで調べてもらうのが一番いいような気がしてる。かえって、病院とか行ったら、もっと大事になったかも」
「うん…そうだね」
「心配してくれてありがとう。徳子には昔っから、面倒見てもらってばっかりだ」
「慶太と3人、幼馴染もここまで続いたら、もう家族同然でしょ。とことん付き合うよ?」
家族ねぇ。嬉しいような、ちょっと残念なような。
「さ、戻るよ? 早く戻らないと、シャワー浴びる時間なくなるよ? 帰りはタダシが前、走って?」
「いや、徳子の方が速いから。てか俺、すでに足痛いし」
「だらしないなぁ」
クスッと笑って徳子が立ち上がる。
足なんて痛くありませんよ、ええ。
だって前走っちゃったら、絶景も拝めないし、いい香りもしてこないじゃないか。
俺はもう少し、このご褒美タイムを楽しむことに決めた。
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