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第一話 そして僕は途方に暮れる

第一話 そして僕は途方に暮れる



 前から、自分が少しヘンなのではないか、という自覚は薄々あった。



 辛い物を食べたときは。



 子供のころから、辛い物は苦手だった。だって妙に汗かくし。アタマのテッペンから何かが噴き出すような感覚。体が熱くなって、しばらく収まらないあの感じ。



 だから辛い物はいつも少ししか食べなかったのだ。



 そう、あの日までは。



 だから、自分にこんな能力があるなんて、気づきもしなかった。



「なんだソレ? リュータ、なんでそんなにキムチ持ってきてんだよ?」

「なんか食いたかったの。てか、コンビニ、デカいのしか置いてねーんだもん」

「そんな量、食いきれるわけねーべ? 持って帰んの? クッサー」



 俺、山崎 忠はハッキリ言って陰キャだ。クラスカーストってやつの下の方。自覚はある。



 わざわざ労力使って、気ィ使って、他人に合わせるなんてメンドクサイ。そんな暇があったら、動画見てるかマンガ読んでた方がずっといい。



 当然、クラスでも存在感のないぼっち。でも気楽だし、他人と関わり合いにならない分、自分の時間を確保できてありがたい。



 でも世の中にはいるんだよねぇ、そういう人間見つけてわざわざ絡んでくるヤツ。



 イジメられている…と肯定したくはないけど、イジられている、と言うにはいささか度を越している気はする。



 日下龍太と小島介一。クラスでも調子よく立ち回る盛り上げ役の二人。二年生になった今年の一学期からだ。コイツらが俺に絡みだしたのは。



「心配いらないっしょ。俺が食いきれなくても、ヤマチューさんが残さず食ってくれっから」

「そっか! ヤマチューさん、辛いものには目がないもんねぇ?」



 ああ、メンドクセ。



 とりあえず回避だ。俺は弁当箱を速攻片付けて脇に抱え、席を立とうとする。



「おーっとぉ、ヤマチューさん、ドコ行くのぉ」

 小島が背後から両肩を押し下げる。



「もう俺、ハラいっぱいっすぅ。ヤマチューさん、お願いしますよー、このキムチぜーんぶ」

 日下がニタニタしながらキムチのパックを近づけて来る。



「…っにすんだよ、やめろって」



「はい、アーン」

 小島が無理矢理俺の口をこじ開ける。



「ホラホラ、残さず食べてくださいねー、ヤマチューさーん」



 ありえない量のキムチを口に突っ込まれる。よーく噛んで食べるんでしゅよ、と小島が俺のアゴを手で動かす。



 うわ、辛っら! 痛い、痛い、口の中痛い!



 口が動かなくなるくらいにキムチを詰め込まれる。最初はなんとか飲み込んだが、二度目でたまらずそれを吐き出す。



「…キッタネーナ? シャツ汚れちったでしょ」



 吐き出したキムチは日下のシャツに命中。そらそうだ。



「あーあー、どうしてくれんのコレ? 食べ物粗末にして。バチ当たっちゃうでしょ」



 不機嫌そうな日下が俺の胸倉に手を伸ばしてくる。でも、なんだかその動きがえらくゆっくりな気がする…。



 ワザとやってんのか? こういう遊び?



 まあいい。付き合う気ないし、メンドクサイ。俺はゆっくり伸びて来る日下の右手を軽くパン、と左手で払いのける。



 なんだこれ? 世にも不思議な光景が目の前で動き始める。



 右手を肩の後ろまで動かしながら、ゆっくり、そう、ゆっくり崩れ落ちていく日下。口は半開き。目は虚空を彷徨っているかのようだ。



「てーんんめぇー」



 背後で俺を押さえつけていた小島が、両手を俺の首に回そうとするかのように(いや、あんまりゆっくりだから、そうしたいのかなって思って)両腕を曲げてくる。俺はその手を外そうと、ヤツの両手をつかんで右に放り投げる。



 えー? アレー?



 小島が右にゆっくり、そう、ゆっくり飛んで行く。隣の、その隣の机をなぎ倒しながら。てか、机なぎ倒れるのも遅くね??



 いつも俺をスルーして「くれて」いるクラスの連中の視線が、ゆっくり、ゆっくりこちらに集まる。なんだ、なんだコレ? どうなってんの?



 この状況が理解できない。キムチ食わされ過ぎたからなのか、心臓バクバク、アタマはズキズキ、汗だくだく。とりあえず俺は席を立って、屋上へ急いだ。




 それからの時の流れはいつも通りの速さに戻った。



 屋上でひとり風に当たって、弁当の続きをゆっくり食い、辛い物をいきなり大量に食わされたのでビックルを一本飲んだ(辛い物の後にはヤクルトとかビックルが効く、って子供のとき韓国料理屋さんで聞いたから)。



 教室に戻ると、クラスの皆さんの視線が痛かったし、日下も小島も手や肩を押さえて、恨めしげにこっちを睨むだけで、もう話しかけて来ない。



 この日はこれで終わりだった。俺は手の甲が少しジンジンするだけ。よく分かんないけど、まあいいや。結果平和になったんだし。



*************************************



「おにぃちゃーん? 聞いたよー、今日ケンカしたんだってー?」



 夕食。テーブルをはさんで、一コ下の妹・カリンが唐揚げに箸を伸ばしながら聞いてくる。



「してねーし。アイツらに絡まれただけだし」



「えー、だって、二人も投げ飛ばしたって、ユミが」



「だからしてねーし」



 コーラをつかんで、センベイの袋を持って部屋へ引き上げる。何が起きたか、そんなん、自分が知りたいんですけど??



 なんだか、テレビもyoutubeも見る気にならない。



 今日、俺何した? 何が起きた?



 順を追って考えてみる。日下の手を払って…小島の腕を振りほどいた。ただそれだけだったはずなのに、アイツら、スローモーションみたいに吹っ飛んだ。



 ベッドに倒れ込み、手の甲をかざしてじっと眺めてみる。少し腫れたかな? でも痛みはもうほとんどない。



 ふざけてるったって、スローモーションみたいにゆっくり吹っ飛ぶなんて、できないよね。アイツら、そんな器用でもないし。



 じゃあアレか? 俺が倍速?

 いやいや、まさかまさか。



 突然そんな、体が変化するなんて怖いでしょ。サイボーグじゃあるまいし。だって、風に当たって教室戻ったら、その後はなんとも…



 待て。風に当たって体を冷ましたから…



 頭の中で、今日一日の出来事が逆回しで再生されていく。投げ飛ばして…押さえつけられて…キムチ…



 まさか、キムチ食ったから!?



 脊椎反射みたいにベッドから飛び起きる。あり得ないでしょ。でも、思い当たるのはソレしかない。



 検証するしかない。冷蔵庫にキムチ、あったかな?

ご覧いただき、誠にありがとうございます。

マイペースで、不定期連載ではありますが、

だいたい週一更新で書いていこうと思ってます。

良かったら、お付き合いください。

よろしくお願いいたします。。。。

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