エピローグ その先に続くバイク
季節は巡る。
翌年の春。
真姫は、志望校の医療系大学に無事に合格。
京香は、家の手伝いをしながらも、調理師専門学校に通い、正式に調理師免許を取ることになった。
杏は、専門学校に合格し、二輪整備士の資格を目指して勉強中。
蛍は、教員免許が取れる、難関の教育大学を無事に合格。
それぞれの「新たな道」、「新たな生活」が待っていたが、高校時代のように、一堂に会する機会は減っていた。
3月下旬。
真姫は、高校を卒業して、春休みになった。
大学進学への準備を進めながらも、彼女の姿は、自動車学校にあった。
きっかけは、父の一言だった。とある夕食中の出来事。
父も母も揃っていた。
「真姫。せっかく18歳になったんだ。大型二輪免許を取れ」
「いや、別に取る気ないけど。私は250ccでいい」
「わかってねえなあ」
「はあ? 何が」
押しつけられるような父の一言に、途端に不機嫌になる娘に対し、父の直樹は、諭すように口を開いた。
「250ccが悪いとは言わないが、大型は安定性が違うんだぞ。特にロングツーリングやるなら、大型の方がいい」
「けど……」
尚も渋っている真姫に、意外な一言をかけてきたのは、父ではなかった。
「真姫。私はあなたがバイクに乗ることには、賛成じゃない」
そう前置きしておいて、真逆のことを言い出した。
「でもね、父さんが言うことは正しい」
「なんでさ?」
「大型二輪免許は取っておいて、損はないってこと」
「だからなんで?」
「別に今すぐ乗らなくてもいい。大型二輪免許を取ることで、『選択肢が広がる』ってこと」
「なんか、理由になってない気がするけど」
それでもまだ納得が行っていない様子の娘に、父と母が交互に、言葉をかけてきた。
「250ccはな。確かに経済的には優れている。だが、反面、整備を怠るとダメになるし、長距離を走り続けるには、あまり適していない」
「そう。大型には、車検があるから。あなた、整備に関してはお店や父さんに任せっきりでしょ。そういう人は、大型の方がいいし、長距離走るなら、絶対楽になるから」
「ふーん」
イマイチ、納得がいっておらず、曖昧な態度で、濁していた真姫。
だが、その後、親友の京香に電話して、相談すると。
「やっぱりね。だから言ったじゃない。真姫ちゃんは『大型に乗る』って」
電話口から、明らかに楽しそうに笑っている京香の声が聞こえてきた。
「まだ乗るとは言ってないけど」
「乗るよ、真姫ちゃんは。それに……」
「それに?」
「真姫ちゃんは、カッコいいから、きっと大型の方が似合うよ」
そんなことを面と向かって言われると、さすがに「恥ずかしい」と思いながらも、真姫は、
「ありがとう」
の一言と共に、渋々ながらも決心していた。
(大型二輪免許、取りに行くか)
と。
そもそも大学に入ると、恐らく忙しくなる。
バイトもしないといけなくなるし、勉強もある。
免許を取りに行くなら、今の時期しかない、と観念していた。
そして、彼女の姿は、かつて通った、自動車学校にあった。
普通二輪免許の時に使用したバイクとは、明らかに重さが違う、200キロを越える大型バイクの車体にまたがって。
ただ、彼女は思うのだった。
(また一本橋、やるのか。ダルい)
そう、二輪免許にとって、最大の難関、一本橋。
普通二輪免許取得時に、苦戦して、二度とやりたくない、と思いながら、やっと卒業したのに、大型二輪免許を取るにあたり、またこの「課題」をやらされるのだ。
だが、反面、「大型二輪免許」にしかない「課題」もあり、そちらは「楽しみ」な部類ではあった。
「波状路」という課題で、要はデコボコの道を、大型二輪で立ち上がって通過するというものだ。
(ちょっと楽しみかも)
普通二輪免許を取ってから、約2年半。
高校生活をバイクライフで、充実させてきた、真姫は、京香の「予言」通り、大型二輪という新たな「ステージ」に立とうとしていた。
彼女のバイクライフは、まだ終わらない。
新たなステージを目指して、これからも進んで行く。
その先に新たな「バイク」に乗ることを夢見て。
(完)
最後までお読みいただきありがとうございます。この物語は、前作の「Let's enjoy your life」よりは劇的な物ではなく、「ゆるい」日常を描くのを目的としていたため、最後は割と平凡な終わり方にしようと考えていました。
そして、これを書いている時点で、私自身が、大型バイクに乗る一歩手前まで来ています。
これから始まる大型バイクライフに願いと希望を沿えて。
大型バイクに慣れたら、いずれ大型バイクを主眼に置いた、バイク小説を描きたいです。今はまだしばらくは「慣れ」の時期ですね。
怖いのもありますが、楽しみな気持ちでいっぱいです。
最後に。物語に登場した場所のほとんどが、私が実際に250ccでツーリングしてきた場所です。250ccは確かに楽でしたが、逆に大変な部分、疲れる部分もありました。そんな苦労を描きたかったんですが、結局、楽しさ優先で描いてしまった部分はありますね。それでは、またどこかでお会いしましょう。ありがとうございました。




