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ゆるツー  作者: 秋山如雪
15章 最後の思い出
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78. 東北縦断(後編)

 そこから先は国道13号を北上するだけだったが。


 この辺りは、山と山の間の盆地をひたすら抜ける道になる。

 すでに、会津盆地、米沢盆地、山形盆地と、奥羽山脈と出羽山地の間を抜けるように走っていた彼女たちだったが。


 続いて、新庄盆地から横手盆地に抜けることになる。


 道の駅尾花沢から、舟形町、新庄市と抜け、金山町を抜け、再び長いトンネル、つまり雄勝おがちトンネルを抜けることになる。


 越えた先は、彼女たちにとって、東北第3の県、秋田県になった。


 奥羽本線に沿うように走り、秋田県湯沢市に入る。


 横手盆地の南の端、道の駅おがちに着いた時には、時刻は15時30分を少し回っていた。


「秋田県か。なまはげだな」

「安直だね、杏ちゃん」

 杏の中の秋田県のイメージが、なまはげという時点で、蛍は笑っていたが、


「じゃあ、お前にとっては何だ?」

 逆に問われて、考え込んだ後、


「うーん。きりたんぽと、しょっつる鍋かな」

「大して変わらんだろ」

 答えたところ、杏からは笑われて、しかも「食いしん坊」と言われていた。


 ここでは短い休憩を取った後、さらに北上。横手市中心部で、念のために給油し、先を急ぐものの。


 そこからが長かった。


 全国の面積規模で言えば、第6位になる秋田県。当然、縦に長かった。真姫・京香組の岩手県同様、ここで苦戦することになる。


 横手市からは、国道13号、県道11号と田舎道を走り、国道105号に入った。


 道はどんどん山道に入って行き、横手市の出発から1時間ほど経った頃。案内看板に「田沢湖」と標識が出てくる。


 田沢湖はそこから右折してしばらく行ったところにあるが、彼女たちには、立ち寄る体力的余裕も時間もなかった。


 田沢湖の標識を過ぎた頃、先頭を走る杏から、


「眠いー。ちょっと適当に寝るところ探そう」

 とインカムを通して、疲労感の漂う暗い声が聞こえてきた。


「わかった。この先に小さな駅があるから、そこに行こう」

 インカムで、後ろの蛍が杏を導き、たどり着いた場所は、桧木内ひのきない川に沿いに近い、秋田内陸線の小さなローカル駅だった。


 羽後中里うごなかざと駅。


 駅の目の前に、広大な田んぼが広がり、見える風景は山ばかり。

 もちろん、人気など全くない、小さな、それこそちょっとしたバス停のような規模の無人駅だった。


 時刻は18時。すでに陽が暮れ始め、西の空を茜色に染め上げ、辺りを闇が襲い始める。


 だが、日本橋の出発から、すでに14時間は経過しており、杏も蛍も体力的に限界だった。


 駅構内に入ると、倒れ込むように、小さなベンチに横になる杏。蛍はそんな彼女に膝を貸していた。

 奇しくも真姫・京香組と同じような形で、仮眠を取ることになった2人。


「蛍の膝、あったかい。お母さんみたい」

「もう杏ちゃん。それはいいって」

 そう呟いたと思ったら、杏は深い寝息を立てて、早くも眠っていた。


(相変わらず寝入りがいいな。子供みたい)

 そう思いつつも、蛍にも強烈な眠気が襲ってきて、気がつけば、気を失うように眠っていた。


 1時間に1本も電車が来ない、この小さな駅で30分ほど眠っていた彼女たち。


 気がつくと、田園風景を走る単線に、1両編成の可愛らしい鉄道が止まっていた。

 そこでようやく目が覚め、携帯に目をやる蛍。


 慌てて、杏を起こしていた。

 

 仮眠を取ったことで、杏は元気に復活しており、再び国道105号に入ると、歌を唄いながら走っていた。


 そんな杏の声をインカムを通して聞きながら、蛍は、

(杏ちゃん。楽しそう)

 と、微笑ましく思っていた。


 人は、自分にはない物を持つ人に惹かれる、という。蛍にとって、杏は自分とは違い、明るくて、不器用な優しさを持っているように思えて、そこが一種の憧れにもなっていた。


 秋田県の内陸部を貫通するように走るが、この辺りは人家も少なく、18時30分を回っていたから、辺りは真っ暗だった。


 かろうじて、頼りない街灯に照らされている道路と信号機、わずかな人家の灯りだけを頼りに、さらに突き進む。


 十字路から右折し、国道285号に入る。と言ってもここは国道105号との共用区間だった。道はずっと片側1車線だったが、田舎特有の物寂しさと、車輛の少なさが目立ち、快適なスピードで駆け抜けることができた。


 やがて、羽後中里駅の出発から1時間半後。

 北秋田市の辺りで右折すると、国道7号に入る。大館おおだて市を通過する。


 携帯をナビ代わりにしている、後ろの蛍が杏にインカムで声をかける。

「杏ちゃん。国道7号だよ。後はひたすら真っ直ぐで、青森市だよ。あと少しがんばろう」

「ラジャー」


 2人の奇妙な旅は続き、国道7号を再び山道に入り、矢立やたて峠で、ついに青森県に突入する。


 そのまま、真っ直ぐ進み、平川市に入った辺りで、杏は道の駅の駐車場に入って行った。


 道の駅いかりがせき 津軽関の庄。


 青森県平川市碇ヶ関(いかりがせき)。旧碇ヶ関村に当たる。

 時刻は20時30分を回っていた。


「腹減ったー」

「そだねー。途中で食べればよかったね」

 拾い駐車場にバイクを停めて、降りた途端、杏が叫ぶように言い出した。この辺りにはコンビニがなかった。当然ながら、20時を回った、田舎の道の駅では、店など営業すらしていなかった。


 蛍が言うように、途中通ってきた、北秋田市や大館市にはあったが、先を急ぐ杏がスルーしていたのだ。


「あとどんくらいだ?」

「1時間ちょっとだね。もうちょっとだよ」


「ああ。でもその前にさすがに何か食おう」

「りょーかい」

 2人は、短い休憩だけで、すぐに出発する。


 幸い、そこからすぐ近くに1軒のコンビニを見つけた杏が、すかさず駐車場に入っていた。


「何だ、この駐車場。デケー!」

 杏がヘルメットを脱いで大袈裟な声を上げていたが。


 確かに大きかった。それもそのはず、田舎の田園風景の真ん中にポツンとあるようなそのコンビニの駐車場は広大で、大型トラックでも悠々と止まれる広さを持っていた。


「まあ、私の田舎なんて、こんなコンビニいくらでもあるけどね」

 北海道出身の蛍にとっては、別に珍しい物ではなかった。


 2人は、このコンビニで、遅い晩飯となる弁当を買い、暖めてもらってから、駐車場内で食べることにした。


 そして、

「おお、見ろ、蛍。青森まで55キロだぞ!」

 杏が食べながら、あざとく見つけたのは、コンビニ駐車場から見えた「道路標識」だった。


 そこには、

「青森 55キロ 弘前ひろさき 18キロ」の表示があり、同時にこの場所が「大鰐おおわに町」だとわかった。


「そだねー。もうひと踏ん張りだよ」

 そんな杏を見ながら、蛍は笑顔を見せていた。


 晩飯休憩に20分あまりを費やし、出発。


 そこから先は簡単だった。

 携帯の地図アプリを頼りに進むため、最短ルートを通る。


 一部、国道7号から外れて県道を走ることになったが、平川市から黒石市と抜け、最後の給油を果たし、山道を抜けた先。


 「青森市」の道路標識をついに通過。

 北海道新幹線の高架線路の下をくぐり、青森市中心部へ。


 ついに、彼女たちは、青い森公園に到着する。

 時刻は22時。


 だが、真姫と京香の姿は見えなかった。


 道路沿いにある、国道4号・7号線の国道碑の前に、路上駐車をしながらも待つことになった。


 幸いこの時間なら、多少の路上駐車をしても警察が来ない。


「暇だなー。もうホテル行こうぜ」

 杏は着いてすぐに飽きたようで、さっさとホテルに行って、暖かい風呂に入りたいと、子供のように駄々をこねていたが。


「ダメだよ、杏ちゃん。真姫ちゃんと京香ちゃんを待ってあげないと。かわいそうだべ。それに2人の旅の安全を願ってよう」

 蛍がたしなめていた。


「わかった、わかった。全く、蛍は真面目だなあ」

「文句言わないで、待つんだよ。2人も私たちがいなかったら、逆に心配するでしょ」

 蛍にそう言われ、渋々ながらも杏は、携帯でネットサーフィンをしながら時間を潰していた。


 そして、22時30分頃。


 彼女たち2人、真姫・京香組も到着する。


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― 新着の感想 ―
[一言] コンビニの駐車場が広大。 そう言えば、某地方都市に住んでいた時、同僚が、歩いて5分程度の距離にあるコンビニに行くにも、車に乗っていくと言っていて、驚いた記憶があります。地方では、玄関から出た…
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