表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆるツー  作者: 秋山如雪
15章 最後の思い出
76/82

75. 国道4号(前編)

 ここから、道は二つに分かれる。

 真姫・京香組と、杏・蛍組。


 まずは真姫・京香組のツーリング。


 7時50分頃に、大田原市上石上を出発した2人は、ひたすら国道4号を北上。

 那須塩原なすしおばら市を抜けて、ついに東北地方の南の端、福島県白河(しらかわ)市に到着。さらに須賀川すかがわ市、そして郡山こおりやま市を通過。


 郡山市で多少の渋滞に遭うものの、順調に進み、本宮もとみや市を通り、さらに二本松にほんまつ市に入った。


 福島県は思いの他、長く、そこまでで2時間近くを擁していた。実際に福島県の面積は、北海道、岩手県に次ぐ全国3位のレベルだ。


 だが、二本松市油井から先は、一気に快適な道が待っていた。


 信号機が一切ない、まるで高速道路のような、片側2車線のバイパス道が、10数キロにわたって続き、先頭を走る京香が一気に加速していた。


 真姫自身も、

(気持ちいい!)

 この、ほとんど高速道路のような道に、テンションが上がり、平均時速80〜90キロで通過。


 京香はやがて、ロードサイドの大きな道の駅に入って行った。


 道の駅安達。


 そこは、見るからに大規模な道の駅で、一見すると、道の駅というよりも高速道路のサービスエリアに近いくらいの規模だった。


 しかも、広大な駐車場からは、真夏の入道雲の先に、大きな山が見えた。コブのように見える、二つの峰が特徴的な大きな山だった。


「いやー、気持ちいい道だったねー。ずっとこんなだといいんだけど」

 ヘルメットを脱いだ京香が、笑顔を見せる。


「だね。下道とは思えない快適路」

 真姫もまたヘルメットを脱いで、頷く。


 彼女の目線が、遠くの山に向けられていたことに気づいた京香が、そちらを見る。


「あれは、多分、安達太良あだたら山だね」

「安達太良山? 変わった名前だね」


「うん。まあ、その辺の蘊蓄は、"姫"に譲るとして……」

 京香は、携帯の画面を見ながら、調べていた。


「標高1728メートル。日本百名山にも入ってるらしいよ」

「ふーん。綺麗だね」

 言いながら、携帯カメラを向けて、写真を撮る真姫。


 2人はここで、しばらく休憩をすることになった。

 何しろ大田原市から2時間あまり、ぶっ通しで走ってきたのだ。さすがに尻が痛くなっていた。


 サービスエリア並みに大きい、道の駅だから、店舗を散策し、冷かすだけでも面白いのだったが、そもそも3日間の旅で、あまり大きな荷物も持ってきていない上に、荷物が入らない「バイク」という乗り物だから、2人は何も買わずに、自販機でジュースだけを飲み、約20分後に出発。


 そこから先も、信号機のない快適な道が数キロ続き、やがて福島県の県庁所在地、福島市に入る。


 2人は知らなかったが、二本松市油井から、福島市伏拝(ふしおがみ)までの約13キロに渡って、この辺りの国道4号には信号機が存在しない。


 福島市中心部からは、1時間もかからずに、「宮城県」の標識を見て、東北2県目の宮城県に入るが。


 さらに1時間以上走り、白石しろいし市、岩沼いわぬま市、名取なとり市という、小さな街を抜け、やがて名取川という大きな川を越え、高速道路の上を通過。


 ついに、東北一の都会、仙台市に突入。

 さすがにこの辺りに来ると、道の両脇には多くの建物が見えてきて、交通量も増えていた。


 仙台市を代表する川、広瀬川を越えた辺りで、京香はロードサイドのコンビニに入って行った。


 時刻はすでに13時を回っていた。


 ようやくここで遅い昼食を取ることにした2人。


「さすがに仙台は都会だねえ」

 買ってきたパンを頬張りながら、京香は遠くに見える大きなマンションや住宅街の景色と、交通量の多い道路を眺めていた。


「だね。さすが伊達政宗が発展させた街だね。時間があれば仙台城にも行きたかったけど」

 真姫は真姫で、茜音には及ばないものの、仙台城を少し見てみたいという気持ちがあったのだが、時間がない彼女たちは、やはりここでコンビニの軽食だけで済ませてしまう。


 仙台市中心部の東側を大きく迂回する形になる、国道4号だったが、それでも都会の仙台市。


 交通量は常に多かった。


 そこから先は、しばらくは住宅街とビルの風景が続く都会の道だったが、交通量は多いが、この辺りは片側3車線もあり、流れは悪くなかった。


 通称「仙台バイパス」と呼ばれる3車線の道がしばらく続いた後、再び2車線に戻り、次第に緑が濃くなっていく、田舎道を走り続ける。


 富谷とみや市、大崎おおさき市、栗原くりはら市と越えて、仙台の出発からさらに2時間あまり。


 ようやく東北地方第3の県に入る。

 岩手県だ。


 15時頃。

 ようやく、ロードサイドの一軒の広大な駐車場を持つコンビニに到着する。


 岩手県一関(いちのせき)市。


 ここにはすぐ隣にガソリンスタンドがあったため、2人は休憩ついでに給油も行っていた。


「国道4号はガソリンスタンド多いから助かる」

「それなー」

 給油をした後、隣のコンビニに入りながら2人は感想を言い合う。


 実際に、東北を南北に貫いて走る、大動脈の国道4号沿いには、24時間営業のセルフのガソリンスタンドも含め、給油には困らなかった。


 そして、

「やっと岩手県か。半分くらい来た?」

 コンビニでアイスを買ってきて、食べながら真姫が尋ねる。


 京香が携帯から調べて、

「うーん。日本橋から大体430キロちょいくらいかな。すごいね。半分以上来たよ」

 と笑顔を見せてはいたが、さすがに表情には疲労感が出てきていた。


 その証拠に、真姫もまた大きなあくびをしていた。

「眠い?」

「まあ、朝の2時に起きて来たからね」


 2人の住む東京都府中市から日本橋まで約1時間。3時に出発するとしても、2時に起きなければ間に合わなかった。


 すでに起きてから、12時間以上が経過しており、人間が自然と眠くなるには十分な時間が経過していた。


「そっか。マジで眠くなったら言ってね」

「うん。まあ、まだ大丈夫」


「無理しないで、本当に眠い時は、5分でも寝た方がいいよ」

「わかった。ヤバくなったら、伝える」


 一応、インカムを持ってきており、道中はおしゃべりをしながら走っていた2人だったから、いざとなったら、話せば京香はどこかに停まってくれるはずだ、という期待が真姫にはあった。


 だが、真姫にしても京香にしても、まだ多少の「余裕」はあったため、ここでは眠らずに休憩だけを取って出発することにした。


 念の為に、眠気覚ましのエナジードリンクを買って。


 2人の国道4号の道は、ようやく折り返し地点に入る。


 旅程はとてつもなく長く、そしてこれからが本当の意味で「大変」になる道程であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ