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ゆるツー  作者: 秋山如雪
15章 最後の思い出
75/82

74. ゆるくないツー 出発編

 8月最後の週。

 夏休みの終わりまで残り1週間を切っていた。


 出発の朝までに、もちろん4人とも「準備」は完了していた。

 それはもちろん、それぞれのバイクの整備に始まり、宿題の片づけ、区切りがいいところまでの勉強の進捗などはもちろん、親兄弟への説明や許可も含まれていた。


 出発地点は、東京都中央区日本橋室町1丁目1番地。

 そこに「日本国道路元標(げんぴょう)」と呼ばれる、石碑が建っている。


 道路元標とは、道路の起点・終点を示す標識のようなもので、元々は明治時代初期に定められたと言われる。


 そして、ここ日本橋の道路元標は、有名なものであった。

 国道1号、4号、6号、14号、15号、17号、20号が集まる7幹線国道の「起点」となっているからだった。


 府中市から真姫と京香、横浜市から杏と蛍が、それぞれ集まるが、いずれも自宅を午前3時に出発。


 夏とはいえ、まだ陽も登っていない、深夜の出発となり、1時間後の午前4時に集結。


 真姫の、ヤマハ YZF-R25が、京香のホンダ PCX150が、杏の、スズキ GSX250Rが、カワサキ ニンジャ250が。


 それぞれ久しぶりに一堂に会した。真姫は、実質的に1月から3月までバイクを運転すらしていなかったし、4人のバイクが集うのは、実に数か月ぶりの出来事だった。


 気温は、26度を上回り、東京らしい、蒸し暑い真夏の早朝。

 日の出時刻は、この時期の東京で大体、午前5時10分頃。日の入り時刻はおおむね18時15分頃。約13時間の間にどこまで距離を延ばせるかが、「鍵」でもあった。


 同時に、これは平日の朝特有の「通勤ラッシュ渋滞」を避けるための、対策でもあり、その日のうちに青森に到着するための対策でもあった。


 4人は、二手に分かれて、青森県青森市を目指すことになるが、「分岐点」までは同じルートだった。

 即ち、国道4号をひたすら北上する、真姫・京香組。福島県の会津若松経由で、山中を突破するような形になる、杏・蛍組。


 いずれも途中の国道4号の、栃木県までは共通ルートだった。


 出発前。

 4人は人通りも、車もほとんどいない、東京都心とは思えない、早朝の「日本国道路元標」前の車道に停車し、それぞれのバイクを石碑を背景に、記念撮影を行った。


 これが、一種の「出発式」のような形になり、

「じゃあ、行くか」

 結局、言い出しっぺの杏が指揮を執り、3人が頷く。


 一応、4人とも通信用のインカムを持参してきていたから、それぞれ装着。


 真夏の最後の思い出作りにはなるが、3日間限定のため、荷物はいずれもそれほど多くはなく、ツーリングバッグで荷台に縛ったり、リアキャリアをつけて走ることになった。



 途中の分岐点までは、ナビでは、日本橋から約144キロ。時間にして3時間弱。ルートはほぼ全てが国道4号になる。

 だが、出来るだけ彼女たちは「急いで」いた。


 もちろん通勤渋滞を警戒してのことだが、そもそも東京から「離れる」ルートになるから、地方の普通の感覚なら、それほど警戒しなくてもいいように思われる。


 だが、そこは「首都圏」。東京だけでなく、その周辺を含めると、日本の総人口の3割はこの辺りに集まっており、つまり周辺地域も含めての居住人口は、大体3000万人以上にもなる。


 それだけ、恐ろしいほどの頻度で「渋滞」が発生し、中には、都心から郊外に抜けるルートでさえ、都市部の一部では渋滞する。


 出発からは、杏が先導し、続いて蛍、真姫、最後に京香と続く。もちろん、インカムで情報を共有し、互いに携帯電話の地図アプリで同じルートをたどっていた。


 最初は、真姫にとっても非常につまらない、都会の風景が続く。ビルと信号機だけが多く、同じような風景が続くだけの、「つまらない」都会の道。やがて、少しずつ風景が代わり、ところどころに田畑が現れる。


 出発から約1時間25分後。

 東の空が明るくなり、ようやく日の出を迎える頃。


 最初の休憩地点に到着。


 道の駅ごか。


 そこは、国道4号の、道幅の広いバイパス沿いに位置し、圏央道の五霞ごかインターチェンジにも近い、茨城県の道の駅であり、道の駅とは思えないくらい、広大な駐車場を持っていた。


 それだけに、長距離トラックドライバーや、商用車が、早朝にも関わらず多く停車していた。


 すでに東京都から埼玉県を越えて、茨城県まで来ていたが。

 空腹を自覚しながらも、杏は、


「渋滞する前にさっさと宇都宮まで行こう」

 と、自販機で眠気覚ましのエナジードリンクを飲んだだけで、3人に出発を促していた。


 約5分ほどの短い休憩で出発。


 車両自体は、早朝にも関わらず増えてきていたが、ここは、並走する旧国道4号とは違い、「新4号」とも言われるバイパスであり、信号機が少なく、道幅も広く、全体的に流れが速い。


 あっという間に、関東の「大河」、利根川を越えて、栃木県に突入。


 この「新4号」は地域高規格道路であり、特に茨城県古河市から、栃木県宇都宮市に至るまでの道路は、片側3車線の、まるで高速道路のような快適な道で、制限速度の時速60キロを軽々と越えて、4人は快走路を駆け抜ける。


 1時間後。


 午前6時30分過ぎ。

 宇都宮市街中心部を迂回するように進む、4号線添いの、コンビニエンスストアで休憩を取ることになった。


「腹減ったー」

 真っ先に、元気よく杏がコンビニ店内に入って行き、蛍と京香が笑いながら続き、最後に真姫が入る。


 コンビニで簡単なおにぎりと飲み物だけの朝食を買って、駐車場のバイクに腰かけながら食べる。


 東京とは違い、この辺りの郊外のコンビニは、駐車場も広い。


 さすがにここまで来ると、通勤渋滞の恐れは減る。


「今で、何キロくらい?」

「うーん。日本橋から110キロくらいかなあ」

「まだまだ遠いね。まだ7分の1ってことでしょ」

「だねー」

 休憩地点となった、コンビニの広い駐車場で、真姫が話し、京香が携帯を見ながら答える。


「ここから最短距離で、13時間近くかかるぞ」

「東北は長いからねえ。急がば回れで、ゆっくり行こう」

 一方、その横では、横浜コンビの杏と蛍がサンドイッチを食べながら、携帯の地図アプリを調べていた。


 4人は、ここでようやくまともな「休憩」を取り、約20分を費やす。


 それでも午前7時を回ると、どこも通勤渋滞には警戒すべきである。出発後、徐々に車が増えてくる。


 そんな中、コンビニの出発から約45分、距離にして40キロほどの地点。


 栃木県大田原(おおたわら)上石上(かみいしがみ)


 一見、何の変哲もない、ただの交差点。

 そこが、4人にとっての「分岐点」になる。国道4号と、県道185号の分岐点がそこにあったからだ。


 後続車の邪魔にならないように、一旦全員が県道185号に入り、すぐに脇道に停車。


 そこからはいよいよ、2対2の、未知のルートの「旅路」が始まる。


「いよいよだね」

 出発前には、一番不安そうにしていた蛍が、決意の瞳を向ける。


「そうだねー。4号制覇、楽しみだなー」

 京香はいつでも元気一杯だが、この時はさすがにテンションがいつも以上に高いようで、満面の笑顔だった。


「多分、普通に行けば、あたしらの方が速いと思うけどな。まあ、急がず気をつけて行けよ」

 言い出しっぺ兼、勝手に仕切っている杏が、若干上から目線で語るのを、横目に見て、最後に真姫が、


「じゃあ、青い森公園で。今日中には着きたい。先に着いた方は待ってるということで」

 彼女自身も、なんだかんだで、「楽しみ」になってきている気持ちを抑えられなかった。


 なお、さすがにホテルの予約はしてあり、深夜までチェックイン可能な、かつ終点の青い森公園にほど近い場所のホテルを予約はしていた。


 最後に4人は、2組ずつに分かれ、ハイタッチを交わした。

「じゃあ、青森で会おう!」


 左手を掲げて、杏が格好をつけるかのように走り出し、蛍も続く。


 静寂に包まれる、田舎道の県道。

 残された、親友の2人組は。


「じゃあ、私らも行こうか。真姫ちゃん、先に行く?」

「いや。京ちゃんの方が速いだろうから、先に行っていいよ。遅れたら、適当に休憩地点で追いつくから」


 それぞれのバイクにまたがり、県道から再び国道4号へ入って行く。


 こうして、2人組同士の、「青森を目指す旅」がついに、本格的にスタートした。

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