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ゆるツー  作者: 秋山如雪
13章 都心
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66. 都心の灯り

 そして、その日がやって来た。

 12月初旬。


 猛烈な寒気が入ったわけではなかったが、それなりに「寒い」冬の一日。太平洋側特有の「冬晴れ」の一日だった。


 土曜日、21時。

 事前に、日中にある程度、寝てから、「夜型」に体調を合わせて、わざわざ真姫は、京香の家に向かった。


「やっほー。寒いね」

 とは言いつつも、いつものように元気いっぱいの笑顔を見せる京香は、それでも冬なりの装いをしていた。


 厚手の登山用ジャケットのような服装に、ネックウォーマーをつけ、厚い冬用グローブを着用。下はライディングブーツに、ジーンズ姿。


 一方の真姫も、冬用のライダースジャケットに、ヒートテック、分厚いグローブをつけていた。


 外気温は8度くらい。

 寒いことは寒いが、それでも真冬の朝ほど冷え込みは強くはない。


「京ちゃん。今日はよろしく」

「うん。任せておいて。とっておきの場所に案内するよ」


 早速、京香は愛車のPCX150に、真姫はYZF-R25にまたがる。

 出発は、府中の街中にある、京香の家。


 そこからは、一気に高速道路を使うことになった。

 京香曰く。


「この時間は道が空いてるから、都心まで下でもいいけど、信号機が多すぎてウザいから高速使う」

 だそうで、信号機が嫌いな真姫にはちょうどよかった。


 国立府中インターチェンジから中央高速道路に入り、そのまま「都心」を目指す。


 だが、途中までは、真姫にはつまらない景色だった。

(ビルのあかりと、防音壁しかない)

 まさにそんな状態の景色だけが、延々と続く。


 幸い、ビルの灯り高速道路の街灯に照らされて、道は明るく、通行車両自体が少ないから、走りやすかったが。


 そのまま、20分ほども走ると、高井戸たかいどインターチェンジの看板が見えてきて、そのまま通過し、首都高速道路に入った。


 狭い道幅の、高速道路が続く中、前方には巨大な光源に照らされた、首都東京の副都心のビル群が見えてきた。


 新宿だった。


 京香は、その新宿を迂回するように、4号新宿線から左折して、C2と呼ばれる中央環状線に入って行った。


 そのまま、真姫も後に続く。


 しばらくは、トンネル区間が続くが、幸いなことに、トンネルの中は、常に「暖かい」。


(冬は、トンネルがいい)

 寒がりな真姫は、トンネルの中にいる時が、一番心地よいと感じてしまう。


 だが、間もなくそのトンネルを抜けると、再び眩しいほどのビルの灯りが両脇から迫ってくる。


 どこに行っても、いくら走っても、見えるのは、ビルと灯りだけ。

 ある意味では、つまらないと感じながらも、交通量が減り、当然、信号機もない首都高速は走りやすかったし、京香は、分岐点が少ないこの道を選んでいた。


 そのまま都心を大きく迂回し、池袋から荒川の堤防沿いに走る。


 その辺りになると、高架の上を走るため、視界が開けてくる。


 無数の灯りに照らされた、メガロポリス、東京の夜景は想像以上に美しいものだった。


 そして、やがて、右前方に一際目立つ、尖塔のような構造物が見えてくる。


(東京スカイツリーか)

 すぐに彼女はわかった。


 荒川と隅田川に挟まれた一角に、一際目立つ青白い電波塔、東京スカイツリー。ここは深夜まで常にライトアップされている。


 巨大な街に浮かび上がる、不思議な形のタワーが、しばらくの間、視界に常に入ってくる。


 しばらく走って、やがて葛西ジャンクションから海が見えたところで、大きく回り、首都高湾岸線に入ると、道幅が一気に広がる。


 そこは、首都高で最も走りやすいと言われる、快適な高速道路であり、真っ直ぐ行くと、お台場に入る。


 その途中の小さなPAに京香は入って行った。


 辰巳第一PA。


 残念ながら、ガードレールと防音壁に囲まれており、視界は遮られているものの、それらの上からは、巨大なタワーマンションがいくつも、天にそびえる姿が見えた。


「着いたねー」

 バイクを停め、ヘルメットを脱いだ京香が微笑む。


「途中でスカイツリーが見えたね」

「だねー。たまには、こういうのもいいもんでしょ」


 京香の微笑みに頷きながらも、2人は自販機でコーヒーを買って、ベンチに腰掛けた。


 だが、そこにはすぐに「爆音」が響き、無数の高級スポーツカーが集まってきていた。


(うるさい)

 と思いながらも、京香に、理由を聞くと、


「ああ。知らないの? ここは、都内有数のスポーツカースポットだよ」

 との答えが返ってきた。


「スポーツカースポット?」

「そうそう。車好きが週末によく集まるんだ。あまりにもうるさいから、近隣住民から苦情が来て、防音壁が設置されたらしいよ」


「なるほど」

 それらの車を見ると、確かに「高級スポーツカー」であり、恐らくはウン百万はするだろうという、高級外車や、国産スポーツカーだった。


「ちょっとうるさいけど、カッコいいよね」

「まあ、カッコいいのは認めるけど」


 真姫にとっては、先日の茨城県での「爆音」バイクと共通するような複雑な気持ちだった。


 もっとも、茨城で見た「爆音」バイクは、どちらかというと、昭和の香りがする、古びたバイクが多かったが、こちらは、現代的に洗練された、高級車ばかりだった。


(金持ってるなあ)

 というのが、真姫の素直な感想であり、ある意味では羨望の眼差しを向けていた。


「真姫ちゃんも、将来医者になって、お金稼いだら、きっと買えるよ」

 京香は、そんな真姫の眼差しを見て、けらけらと笑っていたが、


「いや、別に医者になるつもりないし」

 真姫は、否定していた。


 医療関係には進みたい、と漠然と思いつつも、別に「医者」になるつもりは、今のところ彼女にはなかった。


 しばらく休んだ後、再び出発した2人。


 湾岸線を一気に高速で走り抜ける。


 お台場の有名なフジテレビの本社ビルやレインボーブリッジを右手に見て、橋を渡り、南下していくと、巨大な灯りが右手に見えてくる。


 空には爆音が轟き、夜空に光が舞い上がっていく様子が見てとれた。


 羽田空港だった。


 さらに走り続け、両脇を無数の工場地帯が広がる様子を見ながら、広い道幅と交通量の少ない湾岸線を堪能。


 ただし、深夜に差し掛かり、猛烈なスピードで駆け抜けて、右側車線を駆け抜けていく、スポーツカーに、内心では真姫は冷や冷やしていた。


 長い橋を渡ると、円形の巨大な構造物が見えてきた。


 その、まるでとぐろを巻いた蛇のような丸い形をした、道をぐるぐると周り、京香はそこへ入って行った。


 大黒だいこくPA。


 すでに、神奈川県横浜市に入り、目の前には煌びやかな、横浜ベイブリッジが見えていた。


 バイク専用の、白線が引かれた、細い駐車場に停める。


 深夜にも関わらず、週末ということもあり、車もバイクも、真姫が思っていた以上に、多く集まっていた。


 ただ、そこには辰巳第一PAで聞いたような、「爆音」がなかった。


 週末の夜を楽しむ、若者たちの笑い声は響いていたが。


 ここは、本館と2番館に分かれており、本館の1階にある、フードコートはさすがに営業時間外だったが、2番館にあるコンビニは24時間営業でやっていた。


 そこへ向かい、寒さを紛らわせるため、肉まんとココアを買って、外のベンチで食べることにした2人。


「これで大体、終わりだけど、楽しかった?」

「うん。まあ、思ったよりも」


 いつも通りのクールというか、落ち着いたな口調で、真姫は頷いて肉まんを頬張った。


「良かった。本当は一旦降りて、スカイツリーとか、お台場行くのもいいんだけど、一度降りると面倒だし、また料金が発生するからね」

 京香もまた、ココアを口に含んで、飲み込んだ後で、真姫に説明をするのだった。


「ただ、楽しいけど、みんなかなり飛ばすね」

「それなー」


 真姫にとっては、必要以上に思えるほど、周りの車が「飛ばす」のが目についたが、京香に言わせると、


「まあ、これだけ交通量も少ないし、湾岸線はただでさえ走りやすいからね。気持ちはわかるよ」

 とのことだった。


「警察来ないの?」

「来るよ、たまに」


「それでも飛ばすの?」

「うん。オービスはあるけど、湾岸線には一部オービスがない区間があってね。首都高の達人は、そこでよくスピード出すらしい」


「何、首都高の達人って?」

「あはは。まあ、この街に住んでると、色々とストレス溜まるでしょ。深夜くらい思いっきり走りたくなるんだよ。真姫ちゃんもいつか大型バイク買ったら、多分首都高を思いっきり走りたくなるよ」


「いや、そもそも大型バイク乗るかわからないけど」

 肉まんを食べ終え、ココアを傾けていると、京香がそんなことを言ってきたが、真姫は将来はわからない、と思いつつも否定していた。


「真姫ちゃんは、きっと乗るよ。私の勘」

「何だよ、それ」

 と言いつつも、真姫は内心、京香の「勘」が今までほとんど外れたことがないことを思い出していた。


 明るくて、社交的だが、どこか「本質」を見抜く目を持っている、京香を彼女はよく知っていたからだ。


「そんじゃ、そろそろ渋谷に行こうか?」

 京香が立ち上がる。


 携帯の時計を見ると、出発から1時間半くらいが経ち、22時30分を回っていた。


 杏と蛍から聞いた話だと、彼女たちは23時頃から、朝までカラオケで歌うという。


「久しぶりに真姫ちゃんの美声を聞きたいし」

「いや、別に聞かなくていいけど」

 と否定していると、


「またまたー。真姫ちゃんは、イケボなんだし、歌上手いじゃない?」

 京香は笑っていた。


 確かに、真姫は歌が「好き」なのは、間違いなかった。

 あまり社交的ではない性格だが、ストレスが溜まる時に、たまに「歌う」と気分が晴れることを彼女は知っていたし、その時間を好んでいた。


 2人の深夜の旅は、意外な方向に進んで行く。

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[一言] 東京は、夜もイルミネーションとか明るそうですよね。 夜景は綺麗だろうな。
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