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ゆるツー  作者: 秋山如雪
12章 茨城
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63. 常陸の山の魅力

 昼食に、「常陸の海の幸」を堪能した2人。


 次に向かったのは、そこから1時間ほどで行ける「常陸の山」だった。

 京香曰く。


「ホントは、もっと色々回りたいけど、日が落ちるのが早いし、1日じゃ全部は回りきれないから、ダイジェスト版ね」

 ということらしい。


 地図アプリを頼りに、国道を走り、やがて県道に抜けて、狭い山道を進むこと、1時間。


 袋田の滝。


 真姫も名前くらいは、聞いたことがある場所に着いた。


 駐車場からは結構な距離を歩く羽目になったが。

 土産物屋が建ち並ぶ、神社の参道のような道を歩きながら、京香は珍しく、蘊蓄を披露するかのように、語っていた。


「ここは、華厳けごんの滝、那智なちの滝と並んで、『日本三大名瀑(めいばく)』の一つって言われてるんだよ」

「へえ。知らなかったけど、結構人いるね」


 真姫が見渡すまでもなく、この袋田の滝を目当てに、観光客らしき人々が各地から来ており、他県ナンバーも含めて、結構な数の車やバイクが駐車場には溢れていた。


「とても、魅力度ランキング最下位の県とは思えないね」

「だから、そんなのテレビやネットで勝手に言ってるだけでしょ。そもそも、『魅力度』じゃなくて、私は『知名度』だと思ってるし」


「知名度?」

「うん。だって、上位は北海道、京都、東京、沖縄あたり。下位は大体、茨城、栃木、埼玉、佐賀辺りが出てくる。全国的な知名度じゃ、どうやっても北海道や京都にはかなわないからねえ」


 話しているうちに、その噂の「名瀑」が見えてきた。

 ここ袋田の滝は、第一観瀑台、第二観瀑台、そしてトンネル内の観瀑台と3つも滝見学スポットがあるようだった。


 まずは、第一から。

 目の前には、段になった、水の流れが続いており、白い水流が山肌を伝って、落ちている様子が窺えた。


 しかも時期的に、紅葉が始まっており、色とりどりのカラフルな木々に囲まれて、落ちていく水の流れがなんとも言えない、感動を呼び起こすものだった。


「癒されるね。マイナスイオンって奴だね」

「でしょ。滝って、たまに見るといいものだよ」


 2人で並んで滝の流れを見つめ、写真を撮ったり、ボーっとしたり、思い思いの時間を過ごし、第二観瀑台へ。


 こちらは、見え方、角度が少し違うと思うくらいで、さしたる違いを感じなかった真姫だったが。


 さらに奥。トンネルを通っていくと見られる、トンネル内の観瀑台。こちらが圧巻だった。


 人工的なトンネルという分厚いコンクリートに包まれた中から、自然美溢れる、巨大な滝を間近に見る、という何とも不思議な体験が出来る場所だった。


 真姫にとって、トンネル内のコンクリートの間から、滝を眺める、という新鮮な行為は初めてだったから、不思議な感覚を抱くのだった。


「何だか変わってる、というか面白い」

 そんな素直な感想を漏らしていると、


「良かった。真姫ちゃん、気に入ってくれた?」

「うん。案内してくれてありがとう」

 素直なお礼の言葉を述べると、京香が照れたように、笑みを浮かべており、それが真姫には、ますます可愛らしく見えてならなかった。


 袋田の滝を満喫した後、向かったのは、そこから程近い場所で、同じく大子町だいごまちにある、旧校舎だった。


 旧大子町立上岡(うわおか)小学校。


 敷地内の、土のグラウンド脇にある、狭い駐車場にバイクを停めると。


 そのグラウンドの向こう側に、偉容があった。

 古くて、味のある木造二階建ての昭和レトロな校舎。

 しかも、驚くべきことに、正門上に掲げられてある、針時計はまだ「生きて」いた。


「ここは、今から20年くらい前に廃校になった、昔の小学校でね。現地保存されているものでは、県内最古の校舎なんだって」

 聞きかじったのか、調べてきたのか、教えてもらったのか、わからなかったが、京香が軽く説明してくれた。


 しかも、平日は無理だが、土日は一般開放されており、校舎の中にも入れるし、入場料も無料だという。


「すごい……」

 かつて、房総半島でたまたま見つけた、昭和レトロな駅舎に、心動かされた真姫だけに、同じようなノスタルジーを感じるこの校舎には、早くも心を奪われていた。


 早速、真姫は喜び勇んで入ってみた。


 校舎の中は、当時のまま、「時が止まった」ようにすら感じる。


 くすんだ色合いの壁、木のサッシにはめられた古い窓ガラスの趣き、落書きや削り跡が残る木の机や椅子、残された時間割、古い黒板に黒板消し、廊下に貼られた似顔絵など。


 そこには、どこか「忘れかけた」懐かしい思い出のようなものが広がっていた。


 世代的には、こんな古い小学校では学んでいない彼女たちだったが。

「この、生きたレトロ感。マジですごいね」

 真姫は、すっかりとりこになっていた。


 しかも、内部は全て、写真撮影が可能だった。

 廊下から階段、校舎から体育館に至るまでの階段。


 その全てを余すところなく、写真に収め、感慨深く真姫は、しばらくの間、そこに滞在し、噛みしめるように味わっていた。


「真姫ちゃん。そろそろ……」

 1時間、いや1時間半以上も経ち、ようやく京香が促すも、


「いや、もうちょっと」

 と言って、決して譲らない真姫。


 彼女の、個人的なツボに入ってしまった、超レトロな建物で、明治時代の面影を残している。


 入口付近には、各年代の卒業生の集合写真が飾られており、そこもまた人目を引いていた。


 時代によって、生徒たちの服装すら変わり、大正時代から昭和、平成まで、時代を通して、この小さな小学校の歴史を彩っていた。


 最盛期でも200数十名しかいなかった上に、最後は6名ほどしか生徒がいなかったという。


 大子町という、茨城県の田舎町の、小さな小学校。

 しかし、このどこか「懐かしい」小学校の跡は、廃校後もドラマ、アニメなどのロケ地として有効利用されている、という。


 気がつくと、時刻はすでに午後3時半を回っていた。


「じゃあ、最後はお風呂とご飯だね」

 京香が、ようやく重い腰を上げたような、真姫を先導し、来た道を戻るような形で、走り出した。


 向かった先は、海に面した、小さな港町だった。

 同時に、秋の気の早い夕陽が傾き始めており、茨城県の山をオレンジ色に染めていた。

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