62. 常陸の海の幸
霞ケ浦に到着し、早速、筑波山を眺めて、写真を撮った真姫。
「真姫ちゃん。お昼ご飯、何食べたい?」
早くも京香が昼飯の話題を振り、可愛らしい笑顔で聞いてきた。
「納豆以外なら何でもいいけど」
「相変わらず、納豆は苦手なんだね~。じゃあ、水戸はパスだね」
彼女の言っていた茨城県の中心、とは「水戸」のことだとてっきり思っていた真姫の考えは、あっさりと覆っていた。
「ん-。大洗でもいいけど、どうせなら、夜ご飯にしたいなあ。真姫ちゃん。お魚食べたくない?」
携帯で、茨城県のグルメ情報サイトをチェックしていた京香が、問いかける。
「食べたい」
ぶっちゃけて言うと、しばらく海鮮料理とは縁がなかった真姫には、渡りに船だったから、二つ返事をしていた。
「じゃあ、日立かな」
「日立? そういえば、やたらと『ひたち』って地名が多いね、茨城県は」
「そりゃ、旧国名が『常陸国』だからね。海に面してるのに、『常に陸』ってのが面白いでしょ」
「うん、まあ。むしろ『日が昇る』東に面してるから、『日が立つ』っていう意味で、日立なんじゃないの?」
「おお~。なるほど。真姫ちゃん、賢い」
と、大袈裟に驚いた後、彼女は携帯を見て、
「ん。調べたら、水戸黄門がこの地方を訪れ、『日が立ち昇るところ領内一』って言ったから、『日立』になったって書いてあるね。さすが真姫ちゃん。知ってたの?」
と聞いてきたが、もちろん真姫は首を振っていた。
茜音じゃないし、そんな蘊蓄は彼女にはない。
京香は、「すごいね」と妙なところで感心していた。
ともかく、霞ケ浦から、今度は日立を目指すことになった。
その際に、京香が使ったのは、「海沿い」の道だった。
霞ケ浦から、内陸を進み、隣の北浦という、細長い湖を横切り、やがて国道51号に出る。
そこからは、右手に太平洋を眺めながら、走る快走路だった。
土曜日とはいえ、この辺りの道は、観光地のように、極端に混んでいるわけではない。
それこそ、「魅力度ランキング」が最下位だからこそ、逆に人がまばらに思えるほどだった。
右手には、鹿島灘と呼ばれる浅い大陸棚の海が続く。夏には海水浴場になったり、キャンプ場もあったりするが、今の時期は、人影はまばらだった。
それに、真姫には思った以上に、海が美しく見えた。
(田舎特有の、海の美しさだな)
それは、何県だから、とか、魅力度ランキングなどとは関係がない、自然が発揮する雄大な景色だった。
やがて、休憩を挟んで、大洗町から、ひたちなか市を通り、日立市に到着。
そこにあった、
道の駅日立おさかなセンター。
そこが京香の目的地だった。
丁度、午前11時半くらい。昼飯には、少しだけ早いが、すでにそこは人でいっぱいだった。
道の駅に併設されている建物。「みなと町横丁商店街」と大きな看板が出ている建物に入ると。
寿司ネタの具材が小さなプラスチックのケースに入れられて、無数に並んでおり、「身勝手丼はこちら」と書いてあった。
「身勝手丼? って何?」
「その名の通り、好きな具材をここで選んで、最後にご飯を頼むんだよ。美味しそうだからって、調子に乗って頼むと、想像以上にお金取られるから、気をつけてね」
京香の説明通り、無数にある具を選んで、最後にご飯と味噌汁がついてくるセットのようだった。
「で、茨城県の海の幸は何が有名なの?」
「うーん。まあ、色々あるけど、一番は大洗のあんこうかな。でも、ここにはあんこうはないから、サンマ、イワシ、イカ、ハマグリ、あとシラスが美味しいかな」
「さすが詳しいね」
真姫は、妙に感心しながらも、具材を選んでいく。
定番の鮭に始まり、マグロ、イワシ、サバ、ホタテ、シラスなどなど、寿司や刺身の具材が所狭しと並べられていた。
結局、美味しそうと思ったものを、片っ端から選び、最後に会計で「ご飯、大盛り」を注文していた真姫。
気がつくと、テーブルの上にはトレーに載せきれないくらい、具材のパッケージがいっぱいになっていた。
反対側のテーブルに座る、京香の具材は控えめだったため、
「真姫ちゃん。そんなに食べたら、太るよ~」
以前に、茜音に言われたのと同じことを、再び真姫は言われていた。
「大丈夫。バイクで運動するから」
「いやいや。運動になってないし~」
笑い合いながらも、テーブルを挟んで、その日の昼食にありつく2人。
結局、ご飯大盛りに、具材を10個近くも選び、2000円程度だった。
真姫は、久しぶりに食べる、「海鮮丼」を心ゆくまで味わうのだった。
「美味いね。魚って言うと、銚子とか静岡とかが有名だと思った」
「まあ、有名だね~。でも、茨城県だって、負けてないよ。この辺、結構海の幸は豊富なんだよ。意外と知られてないけどね~」
「もったいない」
「だよね~。まあ、私は穴場みたいで、むしろ好きだけどね」
昼飯を心ゆくまで堪能し、食後にアイスクリームまで食べていた真姫。
次に、どこに向かうかと思ってたら。
「茨城の海は堪能したから、山に行こうか」
京香が提案してきたのは、茨城県の「山」だった。
今度は、山を目指して、北西に向かう。




